【ショートショート】望郷
岬の先の灯台は、今夜も煌々と光を発している。
陽の落ちた海岸から親子が灯台を眺めていた。
「ここに来るのもひさしぶりだ」
「ねえ、お父さん」
「なんだい」
「冬の海は怖いね」
「そうだな。波が高い」
ふたりはしばらく黒い海に目をやっていたが、また視線を戻した。
「もう灯台に灯台守はいないんでしょ」
「うん」
「どうして」
「いまどきの船はGPSを使って航行しているから、灯台は使命を終えたんだ」
「残念だね」
息子は父親の手を握った。
「ほんとならお父さんが灯台守を継ぐはずだったのに」
父親は、死ぬまで灯台守を務めた父のことを思い出した。
「子どものころは灯台守になるものだと信じていたなあ」
ふたりはしばらく黙った。
「あの光はなぜ、いまでも点っているの」
「船を案内しているんだ。地球の船じゃないがね」
「ぼくらの御先祖はあの光を目指してやってきたんでしょ」
「そのとおりだ。さて、冷えてきた。そろそろ行くか」
ふたりは海岸に停めてあった円盤に乗り込むと、都会へと戻っていった。
ときどき故郷が恋しくなると、この海岸へとやってくるのだ。
かれらのほんとの故郷は何百光年も離れているので、よほどの任務がないかぎり帰るわけにはいかないのである。ふたりともまだ本物の故郷を目にしたことはなかった。
(了)
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