見出し画像

【ショートショート】モレンド

 その子育てロボットには名前がない。
 ご主人様である坊ちゃんが名前をつけてくれなかった。
「おまえ」
 と呼ぶ。
 そのうち誰もが「オマエ」と呼ぶようになった。
 オマエは学校の前で、坊ちゃんが出てくるのを待っている。
 ほかの子どもたちは次々と姿を消していった。
 坊ちゃんは逃げ出したのだとオマエは判断する。
 オマエは坊ちゃんの行きそうな場所を探してまわった。
 そのうち、モレンドの残量が三十パーセントを切った。いったん家に戻って補給しないと立ち往生してしてしまう。
 オマエはご主人様の母親に通信を送った。
「そこで待っていなさい」
 と返事が来た。
「いますぐモレンドを持っていくわ」
 母親は自転車の荷物置きにモレンドを積んできた。
 オマエの腰の蓋をゆるめてオレンジ色のモレンドを注ぎ込む。
 これで空でも飛べる。
 オマエは両足から炎を出し、空から坊ちゃんを探した。
 みつけた。
 急降下する。
 坊ちゃんは、悪い仲間とモレンドを回し飲んでいた。
 オマエは、悪人どもを叩きのめし、哀しげに坊ちゃんをみる。
「モレンドは人間の飲むものではありません。私のようになってしまいますよ」
「いいんだ。それでいいんだ。ぼくは人間なんかになりたくない」
 オマエは坊ちゃんの口のまわりをハンカチで拭いた。ロボットなので涙は出ない。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。