【ショートショート】夜の襲撃
私は定年まで屋形船の船頭をしていた。
次の仕事をどうしようと悩んでいたときに声をかけてくれたのが、いまの会社だ。
隅田川に詳しいということで、夜にタグボートを運転する仕事を任されている。
川沿いにある小さな工場から平たい船に荷を乗せ、横浜港付近の倉庫まで曳航する。
荷物には覆いがかけられているし、無灯だし、自分がなにを運んでいるかはわからない。
なにかヤバいブツだったら困るが、給料がいいので、止めるに止められない。
ある夜、
「襲撃だ」
という叫び声が聞こえた。
「ロープを切れ」
「へいっ」
私はロープを切断して、平たい船を切り離した。
どん、どん、と重たい音がする。
平たい船のほうからも反撃しているらしく、空からなにかが落下して、隅田川にぼちゃんと落ちる。
まるで戦争だ。
「あれはなにをしているので?」
会社の人間に聞くと、
「気にしないでくれ。空にいるのはたぶん妖怪だ」
「妖怪? 私たちはなにを運んでいたんですか」
「大狸だよ」
この世のこととも思われない。私はなんだか気が抜けて、花火大会でも眺めるような気分で、目の前の戦いを眺めた。
(了)
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