【ショートショート】串刺し
閻魔大王は人の扱いが乱暴だ。
地獄に墜ちてきたような人間を丁寧に扱う必要はないと言われればそれまでだが。
「おまえとおまえとおまえ」
行列の中から三人が指さされた。赤いワンピースのおばさんと紫色の着物を着たおばあさんとオレだ。
三人が一歩前に進み出ると、
「並べ」
と言われ、その通りにすると、後ろからなにかをぐさっと突き刺された。
「いたいいたい」
「いたたた」
「いてーよ」
オレたちは叫んだ。
鉄串で串刺しにされてしまったのだ。
「他人のいうことを聞かず自分のことばかり喋り沈黙に耐えられない。反省するまでそのままだ」
「なんだと」
と三人一緒に文句を言った。あまりにもタイミングが合っていたのでオレは笑ってしまった。
「なに笑っているのよ」
「どういう状況かわかっているの」
「うるさいよ。そういうとこだよ、あんたらの悪いところは」
「あんただって同じでしょうが」
オレたちはずっと文句を言いながら地獄巡りをしたが、お互いのことはなにひとつわからなかった。聞く気がなかったからである。閻魔大王のいうとおりだ。
オレはいい加減喋り疲れ、黙った。
ワンピースのおばさんも黙った。
最後までうるさく文句を言っていたのはあまりのうるささに嫁に刺し殺されたらしいおばあさんだったが、こいつも最後には声が枯れた。
「ようやく黙ったな」
閻魔大王がやってきて言った。
オレたちはジロッと大王を見あげた。
「すこしは反省したか。そろそろ転生させてやろう」
「まあ、見て」
「なんだい」
「新太郎の背中。ひし形の印があるわ」
「ほんとだ。聖痕みたいだね」
「きっと選ばれた子どもなのよ」
「そうだといいねえ」
まだ地獄の記憶がすこし残っていたオレは、おかしくて思わず笑った。
「天使の笑みだ」
と両親は的外れなことを言った。
(了)
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