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【ショートショート】中学生

「今日は学校に行くの、行かないの」
 と母が聞く。
 オレの通う私立中学では、登校するのに弁当が必要なのだ。
「うーん。今日の気分は」
「気分で決めるな」
 と父。
 父も母も七十を越えて、気が短くなっている。
「〆切りがあるから休み」
「中学生がなんの〆切りだ」
「言っても分からない」
 オレは中学生にしてフリーランスの編集者でありライターでもある。
 三十年も家にひきもっているうちに、いつの間にかそういう仕事が舞い込むようになった。オレはAIの操縦に長けているので、こたつ記事を量産できる。今日も三本ばかりの原稿を納品しなければならない。
 ひきこもりのきっかけは、ありがちなことだが、いじめだった。クラス中からしかとされ、オレは学校に行けなくなった。
 しかし、三年間家でじっとしていたら、いじめた奴らは姿を消す。
 オレは、四年目からちょくちょく登校し始めたが、音楽や体育や図工の授業が嫌いなので自主休校しているうちに、出席日数が足りなくなって落第した。
「数学や国語はよくできるのにもったいない」
 と先生に言われたが、嫌いなものは嫌いだから、仕方がない。
 そんなことを繰り返しているうちに二十代になった。いまさら基礎の勉強をするのはつらい。退屈だ。オレは興味のある学問については独学で勉強し、そこそこのレベルに達している自信がある。すると、ますます学校に足が向かない。
 たまに登校すると先生と間違えられる。だって、もう四十だもの。
「せめて私たちが生きているうちに中学校だけは卒業して」
 と母が悲しげにいう。
 それは難しい気がする。オレは毎日「いまだ中学生」というハンドルネームでツイートしている。フォロワーは四十万人いる。オレの真似をして学校に行かないひとびとだ。彼らを裏切るわけにはいかない。
 もはや中学生はオレの属性なのだ。

(了)

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