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【ショートショート】コンプラ違反

「あなたのお名前なんてーの」
 いきなりすごいことを聞かれて絶句していると、
「あなたのお名前なんてーの」
 ハチ公の足元で、小さなロボットが同じ言葉を繰り返す。
「あなたのお名前なんてーの」
 鸚鵡返しをしたら、
「コンプラ違反と申します」
 というではないか。思わず笑ってしまった。知らない人に名前を聞くのはたしかにコンプライアンスに違反していそうだ。
 オレはそんな上等な答えは思い浮かばないので、
「ゴトウタツヤと申します」
 と正直に答えた。
「ゴトウタツヤの連絡先は」
 気がつくと、電話番号からメールアドレスまでぜんぶバレている。
「おまえはなんのロボットだい?」
「出会い系ロボでございます」
 ここで出会ったのもなにかの縁、オレはロボットと居酒屋に入り、深夜まで日本酒とガソリンを酌み交わした。
 気がついたら自分のアパートにたどり着いていた。オレはコンプラ違反になにを喋ったのだろう。
 そのまま時間が過ぎ、
「コンプラ違反でございます」
 と懐かしい声がした。
「ご無沙汰だねえ」
「ゴトウタツヤが難しいことをいうからですよ」
「オレ、なにか言った?」
「彼女がほしいと泣いていたじゃあ、ありませんか」
 そんな恥ずかしいことを言っていたのか。
「また、あの駅前に来てください」
 出会い系ロボは女の子といっしょにハチ公前にいた。
「では、お二人でデートをどうぞ」
 ロボットは自分の使命は済んだとばかりに坂道を去って行く。
 オレと妻はいまでもあのロボットのことをよく話し合う。いったいいまはどこの空の下にいることやら。でも、しゃべっているせりふは今でもおなじだろうな。

(了)

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