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【ショートショート】ひとりぼっち
ぼくは四歳の頃からピアノを習っている。ほかにも剣道や習字や声楽などいろいろな習い事をした。
水泳教室にも通っているし、塾にも通っている。
「そんなに忙しくしていたら友だちと遊ぶ時間もないだろう」
と同情してくれなくてもいい。
ぼくに友だちはいないから。
学校でもひとりだ。
一組は十五人、二組も十五人、三組はぼく一人。
先生は「ごめんね。数が合わなくてね」と謝ってくれるが、どうして一クラス十五名に揃えなければならないのか、その理由は教えてくれない。
習い事には発表会というものがあるのだそうだ。おとうさんとおかあさんは、発表会がいつあるのか、何度も先生に問い合わせたが、いつもなんとなくはぐらかされてしまうのだという。
結局、ぼくは一度も人前で発表というものをしたことがない。
中学、高校はひとりで過ごした。
大学はもっと自由だと聞いていたが、行ってみると、仲のいいものだけが集まって、グループを形作っていた。ぼくはどの輪にも入ることができない。
この分では会社という集団のなかに入っていくこともできないのだろうと思っていたが、就職にはあっさりと成功した。
ただし、訓練期間が過ぎると、すぐに辺境の孤島に飛ばされ、その後は音沙汰もない。
ぼくは水質を調査し、その結果を本部に送り続けた。
ある日のこと、本部と連絡が取れなくなった。
テレビも映らなくなった。
水質の変化を見れば、なにが起きたかは明白だった。放射能濃度が高まっている。
きっとぼくは選ばれた「最後のひとり」だったのだ。
(了)
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