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顧客体験(CX)のはじめ方

CXって何?なんで大事なの?どうやって始めるの?

顧客体験(Customer Experience、通称”CX”)というキーワードが企業の経営課題として浮上してきています。読者の皆様の会社でも聞いたことがある方がいるかもしれません。同じような言葉にユーザー体験(User Experience通称”UX”)という言葉がありますよね。何が違うのかという明確な共通理解は未だ得られていませんが、私の理解ではユーザー体験は、消費者がプロダクトやサービスを直接的に体験している場面を”点”で捉える視点である一方、CXは顧客のカスタマージャーニーを”線”で捉えニーズの喚起から再購入、ロイヤルカスタマー化までを包括的にデザインする視点、そしてその視点に基づいて顧客とのコミュニケーションのみならず、組織のあり方をも変えていくための基軸となるコンセプトであると考えています。

本稿では顧客体験”CX”がなぜ今重要性を増しているのか。最近よく聞くDXとは何が違うのか。そして最後にCXを考えるヒントとなるものの見方について書きたいと思います。

CXに関わる調査としてよく引用されるフォレスター社のCX Indexという指標があり、CXスコアを改善すると、冒頭にリンクを載せたMarkezineの記事によると直接的な収益増加にも結びつくそうです。詳しいデータは個々人でチェックいただくとしても、お客様基点で考える会社が良い業績を残すというのは消費者視点では当たり前の話で直感的に正しい気がしますよね。

CXスコアが1ポイント上がると年間収益が1,000万~1億ドルも増加することが明らかになっています。これこそが、CXが経営課題となっている理由です。

なぜ顧客体験(CX)の重要性が増しているのか?企業側の目線と消費者側の目線。

まず企業側の視点からの理由が2つあると思います。

一点目は製品・サービスの機能性が競争による競争の末、似通って来てしまいそれだけによる差別化が難しくなってきている事が挙げられます。嗜好品に近い製品を除くと、コンビニで売られているようなコモディティは特に気にせずどこの企業が作っているかということに特段の注意を払わず買っちゃいますよね。それでも企業は自分を選んでほしい!好きになってほしい!と考えるわけです。だからこそ機能面以外でお客様へ価値を提供することの重要性が高まります。これを感情価値といいます。分かりやすくいうとAというコンビニとBというコンビニがあり、売ってるもの、値段は同じです。しかしAではあなたの友達が働いています。あなたは感情的にAというコンビニとの結びつきが強いのでそちらの方を使おうと思いませんか?これは簡単な例ですが、企業側は消費者と感情的に結びつくことによって自社の存在感を高める必要が高まっていますし、高めていきたいのです。感情価値はこの資料のスライドP5が分かりやすく解説してます。

2点目に日本では特に顕著ですが先進国は米国を除き人口減少社会へ移行しています。人口が増えている社会で売上を伸ばそうというと毎年新しい消費者が自動的に増えていくのですごく有利な条件で戦えます。それとは逆に人口が減るということは毎年お財布の数が減っていくなかで戦っていかねばならないのです。消費者数が減る中で売上を維持する、上昇させるためにはひとりひとりのお財布の中にあるお金を、より自分に払ってもらう必要がありますよね。”Share of Wallet"という概念がありますが、まさにそれです。限られた可処分所得というパイの中で自分たちにたくさん払ってほしい!企業側はそう考えるわけです。だからこそ、商品を探す段階、買ってもらう段階、ファンになってもらう段階といったカスタマージャーニー全てに関わり消費者を線上で抱え込む(再び買ってもらうという意味では本当はループです)事が大事になります。抱え込んだ上でお客さんに良い体験をしてもらう、それがCXという考えであり、重要性が増している理由の2つ目です。

次に消費者の目線でもCXが重要性を増す理由を考えてみましょう。

1点目に消費者の持つ情報量が圧倒的に増えたことによって企業が持っていた消費者の購買行動に与える影響力(パワー)が弱まり、消費者へ転移したことがあります。20代前半ぐらいの若い年代の方々はわからないかも知れませんが、インターネットが発達するまで消費者はTVCMで新製品を知り、店舗で見て、店員から情報を仕入れ購買を考えるのが当たり前でした。さらにその前は店舗ですらメーカーが直営している場合もあり、その店ではあるメーカーの商品しかない時代もあったのです。しかしながら今や比較情報はネットに溢れかえり、それだけで十分に機能を知り、比較検討できる時代です。これはBtoCだけではなく、BtoBでも言えます。あるリサーチによるとBtoBの購買担当は、各社の営業担当と会う前から大体買う商品を決めているケースが60%ほどあるそうです。そんな時代だからこそ、企業はより”選ばれる”ための努力をしていかなければならないようになったのです。

2点目は消費者の”メディア化”が原因です。今やソーシャルメディアを通じて誰もがメディアになっています。嫌な接客を受けた、味がまずい、不良品だった、等の声は企業へ直接届けられればまだマシだったのですが、今やTwitterに投稿され、すぐに拡散されてしまいます。これは消費者がもはやお客ではなく、他のお客様の購買行動に直接的に影響を与える存在になったと言えるでしょう。だからこそ、あらゆるタッチポイントでお客様に良い印象をもってもらうために一瞬たりとも気が抜けない状態を企業は創っていかねばなりません。これが消費者目線でなぜCXが大事になってきたのかの2つ目の理由です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)との関係性は?

最近日経新聞や経済誌でしきりにDXの特集が組まれています。コロナウィルスの影響でより課題感が高まったためと思います。DXもまた定義は定まってないですが、私の定義ではデジタル技術を用いて企業のサービス提供のあり方、業務プロセスのあり方、組織運営のあり方を変革していくことだと考えています。改善ではなく変革、つまり同じことをやるのではなく、目的は同じだけど方法をデジタル技術の援用を得て抜本的に変えるということです。

DXとまた企業活動という一連の軸をデジタルと言う視点でみるコンセプトです。CXとの関連を考えてみますと、CXは決してデジタルだけの領域に留まらないのでオーバーラップしない部分もありますが、オムニチャネル戦略を考える場合はオフラインでの活動をデジタル化しオンラインとつなげる事が必要なので最終的には密接に絡んでくると考えています。

CXは先程述べたようにカスタマージャーニー全体を考えねばなりません。一方で企業側の組織体制はカスタマージャーニーを分割し、それに対応する部署、業務が存在するというのがほとんどでしょう。そして今DXで行われているのはこの部署単位でどうデジタル化をすすめるかという議論が大勢を占めているのではないでしょうか。(ここは私の肌感覚なので間違っているかもしれません)。組織を分割して効率化をしていくのは当然でありながらもDXを進めていく際にはCXを意識し、部署ごとに別れながらも組織全体として個々の消費者をどう線で捉えるかという目線で考えられるか否かがCXとDXを連結して進めるための分水嶺かと思います。

明日からCXを始めるためにはどうすれば?

おそらくこの記事を企業の偉い方が読んでるのは思わないので(笑)、会社としてCXをどう進めたら良いの?というよりも、一個人としてCXを高めるためにどういう目線を持ったらいいの?という事を最後に考えてみたいと思います。

CXの全ての基点はお客様をよく観て、理解し、気持ちの良い体験を設計できるか否かにかかっていると言っても過言ではないでしょう。オフラインであればお客様の顔をみて話をし理解していくことが出来ます。オンラインではGoogle AnalyticsのようなWEB解析ツールはあるのですが、PV数やどのコンテンツが人気だったか等メディア的な評価になりがちです。個々人を捉えて、となるとSalesforce Marketing CloudやAdobe Marketing Cloud、Marketo等のツールが使われています。オンラインでのビジネスを考えてない、軽くみている企業は存在しないと思いますので、まずこれらのデジタルツールが何が出来るのか、目的にフィットしているのかという所からリサーチしてみるのが良いのではないでしょうか。

お客様の解像度が上がってきたら次に考えるのはお客様に応じて同戦略を立てるかという問題です。

お客様は多種多様であり、一筋縄では行かないですがおよそこんな考えで考えてみるのはいかがでしょうかという戦略例です。これは私のオリジナルではなく、ペンシルバニア大学のニコライ・シゲルコ並びにクリスチャン・テルビューシュ氏の論文からアイデアを頂き、解説を加えたものです。もし興味があれば”コネクテッド戦略”でGoogleすると出てくるのでぜひ読んでください。

「願望への対応」戦略 これはお客様が欲しい物が比較的明確な場合有効です。欲しい物をいかに簡単にオーダーでき、迅速にデリバリーできるかという後工程を充実させ、願望が迅速に正しく実現するためにプロセスを改善する戦略ですね。最近の例で行くとマクドナルドのオーダーアプリはまさにこれで、なるべく外出はしたくないけどマクドナルドで買いたい!という願望を家でオーダーし、すぐに受け取れるという形で応えた良いケースです。

「オススメサービス」戦略 これはいわゆるレコメンドであったり消費パターンを解析した再購入を提案する戦略です。願望への対応戦略もそうですが大事な点はあくまで消費者が選ぶ権利を持っているというのがポイントです。これは情報技術の援用を得なければ難しいのでデータベースの設計やツールの選定などが大事なポイントになります。

「コーチング」戦略 これは商品が複雑だったりお客様の願望がぼんやりしている場合に有効です。例えば生命保険を買ったことがある方はその複雑な設計や特有の業界用語に苦しんだことがあるのではないでしょうか。消費者の目線でいくと、特定のニーズをあぶり出してもらいそれにフィットした商品を提案してほしいですよね。まさに”コーチング”をしてもらい、課題感を特定していくようなプロセスを提供してあげるのがこの戦略です。

「自動的なサービス」戦略 最後になります。これはいわゆる定期購入というやつです。お客様と強固な信頼を築き購買という意思決定を企業側に渡してしまう最強の戦略です。化粧品や健康食品でよく行われていますね。この戦略で大事なポイントは在庫やタッチポイントを整理し、お客様にいつでもキャンセル、または発送を遅らせるという選択権を必ず与える必要があります。これが起きても柔軟に対応できるロジスティックスやインターフェースを整備しておくのが寛容です。

最後に

今回は顧客体験(CX)についての概説、なぜ重要性が増しているのかという文脈理解、最後に考えるヒントをまとめてみました。読んでいただきありがとうございます。もしよければスキを押して頂けるとモチベーションが高まります!よろしくおねがいします。

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