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富士山自然図鑑③(ラジオ原稿)「 移動する植物?!フジハタザオ」※無料

みなさんこんにちは。富士山自然図鑑を担当します富士山ネイチャーツアーズの岩崎です。

標高2400m、富士山五合目の春の訪れは平地に比べると2か月ほど遅い。6月に入り、ようやく足元に春の気配を見つけました。富士山の春を代表する花「フジハタザオ」です。ハタザオの名前の由来は夏から初秋にかけて茎に付く果実(種が入っている部分)が風にたなびくように一方向に偏って付く様を旗竿にたとえたようです。

片方に偏って付く種を風にたなびく旗竿にたとえたことが名前の由来

アブラナ科ハタザオ属のこの植物は富士山の厳しい自然環境に適応した富士山固有の種とされています。一般的には菜の花などと呼ばれるアブラナ科の植物たちはとても多様性に富み、世界中で食用として利用されているキャベツ、大根、白菜、ワサビやブロッコリーもこのアブラナ科に属します。これは、このアブラナ科の植物たちが他の種類の植物に比べて交雑しやすいという特徴が生んだもので、環境に適応して巧みに交雑を繰り返し、それぞれのポジションを獲得していった結果なのだと思います。
今日ご紹介する「フジハタザオ」も富士山の環境に適応してたくましく生きる富士山のサバイバーなのです。

厳しい環境である砂礫地に咲くフジハタザオ

富士山の表面はスコリアと呼ばれる砂礫に覆われている場所が多く、斜面においては常に小規模な砂崩れが起こっています。植物たちにとってはこうした不安定な地面に定着することはとても大変なことなのです。太い根を地中深く突き刺してその場に踏みとどまるにはとてつもないエネルギーを要します。ましてや栄養価の乏しい砂礫の大地は体の小さなフジハタザオにはとても不利。そこでフジハタザオが編み出したのが「踏みとどまらない」という作戦!細い根を地表面に薄く張ることで、礫の移動に合わせてスライドして生きるという画期的な作戦です。砂の流れは安定した場所で止まるので、その場でしっかりと根を張ってポジションを獲得するのです。フジハタザオが根を張ることで、さらに礫の移動が抑えられ、ほかの植物たちが侵出しやすくなり、植物群落が広がっていきます。

砂礫と共に移動したため一列に並んだフジハタザオ

自然は各々が自らのために施した工夫や生存戦略が結果的に他の役に立つことはあったとしても、意識的に共助することはありません。種の保存のために、自らの然るべき姿を追求するのみなのです。これが結果的に繋がりあっていく様を偶然でも、必然でもなく自然と呼ぶわけですね。
厳しい環境でしなやかに生きるフジハタザオの戦略に自然の在り方を感じます。

それではまたお会いしましょう。富士山ネイチャーツアーズ岩崎でした。

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