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【アニメシナリオ作品】 アルスナイト 第二話「チェンバー、起動」(改訂一稿・2022.12.24)(スマホ版)

 本作がどのような作品かについては、こちらをご覧ください。

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アルスナイト 第二話「チェンバー、起動」(改訂一稿)

脚本 藤野崇志
登場キャラクター
蒼羽 庵(イオ・アラバード 18歳・男)
近藤佳奈(22歳・女)
近藤慎一(51歳・男)
尾川喜美子(49歳・女)
南雲佑磨(24歳・男)
石岡桐人(25歳・男)
アウルス基地のオペレーター
アウルス整備員

小坂順景(こさかじゅんけい)(62歳・男)整備班班長
塩田芝尾(しおだしばお)(28歳・男)整備班副班長

イオ(過去回想・当時8歳)

近藤慎一(過去回想・当時41歳)

マリカ・カウラ(23歳・女)冒険者・魔術師

ワスマ・コーギ(19歳・男)冒険者

機動隊員・国連軍兵

垂れ耳の獣人ウェイトレス(16歳・女)

異界鬼人・ガブリエン

融合鬼士・ガブリエム

□坂浜市・旧市街(十年前・夜)
  瓦礫や車が散乱し、黒煙が昇る大通りに、
  全身が煌々と輝く巨人が倒れ込む。
  起きあがろうとする巨人の上に全身棘だ
  らけの巨大なトカゲのような巨大生物が
  乗りかかり、腕にかぶりつく。
  巨人は苦しみながらも振り解き、よろめ
  いた隙に立ち上がるが、膝をつき、今度
  は肩に噛みつかれて苦しむ。
  車の影からその光景を見つめている八歳
  ぐらいの小さな男の子の肩を、背後に立
  つ中年の男(近藤慎一・当時41歳・男)
  が掴みながら揺さぶり、
慎一「イオ! ここは危険だ!」
  その男の子、イオ(当時8歳・男)、肩
  を振り解こうとする。
イオ「ダメ! トウサン、アソコデ…」
  そこに後退りする巨人の足が迫り、男は
  イオを担ぎ上げ、走り出す。
  肩に噛みつかれたままの巨人はなんとか
  立ち上がり、全身から強烈な光を放ちな
  がら巨大生物を押し出していく。
  イオ、泣きながら慎一の背中を叩き、
イオ「ハナシテ! ハナシテェ!」
  巨人たちの方を見て、手を伸ばすと、
イオ「ファ・ラ・イ〜サァァァァァ!」
T『父さ〜ん!』
  遥か先へ向かった巨人はさらに光輝き 

□宿舎の一室(現在・朝)
  蒼羽 庵(18歳・男)、目を開き、
庵「…はっ!」
  ベットの上で手を伸ばしている。
  手を下ろすと、起き上がり、右側にある、
  照明が置かれた引き出しの上を見る。
  引き出しの上には、形見のペンダントが
  置かれており、
庵の声「…そうか、俺…」
  差し込んでくる朝日でキラリと輝く。

□湾岸地域・歩道
  陽の光で煌めく海に浮かぶエンタープラ
  イズの船体と艦橋  アウルス基地だ。

□アウルス基地・入り口
  格納庫まで降りた舷側のエレベーターに
  架けられているタラップを、赤と青の隊
  員服に身を包んだ庵が上っていく。

□アウルス基地・格納庫内部
  翼が折り畳まれた戦闘機、アウルスガリ
  バー(以下、ガリバー)や、赤青ライン
  で飾られたセダン車やバン車の周りには、
  数多くの整備員たちが行き交っている。
  一角にあるプレハブ小屋で、近藤佳奈
  (22歳・女)丸メガネの整備員と向かい
  合って話しており、
庵の声「(大声で)おはようございます!」
  下手側に首を傾けると、笑顔で手を振り、
佳奈「おはよう! 庵隊員!」
  駆け寄ってきた庵が立ち止まり、敬礼する。
庵「蒼羽 庵、本日より復帰いたします!」
  佳奈、答礼し、
佳奈「了解。もう大丈夫そうね」
庵「(頷き)はい! 軍本部からの聞き取り
 も終わりましたので、どんな任務もどんと
 来いって感じです!」
  庵、右腕でガッツポーズする。
  佳奈、メガネの整備員と共に微笑み、
佳奈「それは結構。でも、何か忘れてない?」
  庵の右腕を指差す。
  庵、右腕を見ると、恥ずかしそうにこち
  らを向き、左手で頭を掻く。

□同・作業ブース
  各種工具はもちろん、3Dプリンターやレ
  ーザー加工機などのハイテク工作機械も
  置かれた壁際のスペースがある。
  その一角にある作業机の前に、庵と佳奈、
  丸メガネの整備員が横に並び、
庵「…これでよし、っと…」
  庵の腕には、新品で綺麗な小型通信機が
  装着されていおり、画面のアプリもスワ
  イプに合わせて正常に動いている。
  庵、目を見張りながら顔を上げ、
庵「わぁ…ありがとうございます! 芝尾整
 備副班長!」
  丸メガネの整備員、塩田芝尾(28歳・男
  ・以降、シバ)、腰に左手を添え、
シバ「気軽にシバでいいよ。ルーキーくん」
佳奈「みんなそう呼んでるから、大丈夫よ」
シバ「そうそう!」
庵「…了解しました。しかし、整備班の皆さ
 んは本当にすごいですね。この通信機から
 アウルスガリバーまで…」
シバ「それが俺たちの仕事だからね。だが、
 次からはできる限り、壊さないでくれよ」
庵「(すまなさそうに)は、はい…すみませ
 んでした…」
シバ「な〜に、わかればいいさ」
老男性の声「…今日は賑やかだな」
  三人が振り向き、シバは直立不動になる。
  そこには作業着姿の老男性が立っており、
シバの声「おはようございます! 班長!」
  庵と佳奈、シバの後ろから顔を覗かせ、
佳奈「おはようございます。小坂班長」
  その老男性、小坂順景(62歳・男・以
  降、班長)が三人の前で立ち止まり、
班長「おはよう。佳奈の嬢ちゃん。(庵に目
 を向け)で、隣のあんちゃんが…」
  庵、背筋を伸ばし、
庵「…あ、蒼羽 庵です! よろしくお願い
 します…」
  班長、庵に近づき、じっと覗き込む。
  庵、その迫力に仰け反りながら唾を飲む。
  班長、庵の肩に手を載せ、
班長「…なかなかいい目をしているな…」
庵「…え?」
班長「(微笑み)ま、よろしくな。ルーキー
 ボーイ」
  肩から手を離し、シバに目を向け、
班長「よし。早速だがシバ、コンテナの回路
 チェックだ!」
  歩き出すと、シバは敬礼し、
シバ「はっ! 了解しました!」
  振り返って庵にニコリと笑いかけ、親指
  を突き出し、足早に班長の背後を追う。
  呆然としている庵、佳奈に肩を突かれ、
佳奈「よかったわね。気に入られたみたいよ」
庵「え? あれ、そうなんですか?」
佳奈「小坂班長、初対面の人に対してあまり
 微笑んだりしない人なの」
  佳奈が歩き出すと、
佳奈「さて、私たちも司令部に向かいましょ」
  庵、にこりと微笑み、
庵「…はい!」
  庵も後を追って歩き始める。

□司令室
  自動扉が開き、佳奈と庵が入ってくると、
佳奈「おっはよ〜ございま〜す! って…」
  佳奈、庵が驚くほど大きく目を見開き、
佳奈「ああ〜っ!」
  中央に置かれた折り畳みテーブルを、南
  雲佑磨(24歳・男)と石岡桐人(25歳・
  男)が囲んでいる姿が見える。
  頬の膨らんだ佑磨が、口の中のものをゴ
  クンと飲み込み、
佑磨「おお。来たか」
  桐人が気まずそうに二人を見ると、
桐人「おはよう…二人とも…」
  佳奈、興奮気味に佑磨の前まで近づき、
佳奈「ちょっと佑磨隊員、私たちを差し置い
 て、何を食べているの!?」
佑磨「…まぁ、今朝届いた、エリオスト皇国
 御用達のお菓子盛り合わせを、ちょ〜っと
 つまんでただけ…」
  佳奈、テーブルを見て、愕然とする。
  テーブルには、綺麗な箱に収められ、可
  憐にデコレーションされたクッキーやチ
  ョコレートが置かれているが、もう既に
  空っぽになった箱もいくつかあるようだ。
  佳奈、目を涙で潤ませ、
佳奈「ああああ…どれもこっちでは高くて買
 えないものばっかり…」
  佑磨を睨みつけると、
佳奈「…これのどこがつまんでるだけって!?」
佑磨「(苦笑いで)あ、いや〜、俺、朝飯食べ
 そびれちまってさ〜」
佳奈「朝ご飯はちゃんと食べなさーいっ!」
  獲物を狙う猫のように佑磨に襲いかかり、
  しっかりと腕固めが決まると、
佑磨「いでででで! そこまでやるかよ普通!?」
佳奈「うるさい! お菓子の恨みは恐ろしい
 のだーっ!」
佑磨「痛い痛い痛い! やめてもう限界…」
  その様に庵は呆然とし、隣の桐人は冷静
  に腕を組みながら、
桐人「佳奈はお菓子に目がないから、佑磨み
 たく独り占めするともれなくこうなる。(
 庵を見て)気をつけてね」
庵「は…はい……」
桐人「そうだ、君宛ての物が届いていたよ」
  白くて硬い小さな箱を差し出す。
  庵、箱を受け取り、
庵「あ、ありがとうございます。では…」
  蓋を開く。
  中には、中心に菱形の穴と、幾何学的な
  文字が刻まれた、三角形のアクセサリー
  が収められている。
  庵、そのアクセサリーを右手で摘み、
庵「…これは…」
  桐人も顔を寄せ、じっくりと眺めながら、
桐人「異界の文字が書かれているみたいだ…」
庵「…汝、強く願えば、永久の輝き石が導き
 の光を与える…名は、チェンバー…」
桐人「(驚き顔で)…庵隊員。もしかして異
 界語、読めるのかい?」
庵「(ハッと気づき)あ、いえ……まぁ…」
桐人「すごいな庵隊員。僕でも少しカタコト
 になってしまうのに…それで、さっきのは?」
庵「ああ。これ、チェンバーっていう異界の
 お守りで、さっきのは、これに書いてある、
 典型的なおまじないの言葉みたいです」
桐人「おまじないか…どんな意味だろう?」
庵「さぁ、俺もそこまでは…」
桐人「そうか。何にしろ、大切にしないとね」
庵「(頷き)はい」
  庵、そのアクセサリー、チェンバーを掲
  げながらじっと見つめると、
庵「(小声で)レイナ、何でこんなのを俺に…」
  ブザー音が鳴り、庵と桐人が振り向く。
  自動扉が開くと、近藤慎一隊長(51歳・男
  )と副長(尾川喜美子・49歳・女)が現れ、
隊長「おはよう。諸君」
副長「…盛り上がってるところ悪いけど、ミ
 ーティング、始めるわよ」
  佳奈が振り向くと、腕が緩み、佑磨の口
  から魂のような煙が出てくる。
     ×    ×    ×
  大型モニターの画面には、街中を進むタ
  ウロギアの映像や写真が映し出され、
副長の声「庵隊員も知ってのとおり、先の事
 件では、様々な事態が発生した。旧市街か
 ら出現した巨大異界生物、タウロギア…」
  タウロギアとアルスナイトが戦っている
  映像に切り替わると、
副長の声「そして、そのタウロギアを倒した
 鎧姿の巨人、アルスナイト…」
  映像が止まり、アルスナイトの顔がドア
  ップで映る。
     ×    ×    ×
  隊員たち、モニターを見ながら、
庵「アルスナイト…って、確か俺が…」
佳奈「そう。あなたが本部に話してた名前よ」
桐人「どうも市長が気に入って、正式採用に
 なったらしい」
佑磨「覚えやすくてかっこいいしな。いてて…」
庵「(庵、照れ臭そう)あ…ははは…」
  モニターの前に立つ副長タブレットを操
  作しながら咳払いし、
副長「彼のことはもちろんだけど、今回はタ
 ウロギアの方ね」
  モニターに倉庫が破壊される定点カメラ
  映像と、瓦礫の山と化した倉庫跡が表示
  されると、
隊長の声「タウロギアの出現が自然発生的な
 ものか、何者かの人為的な操作によるもの
 か、それを調べるのが目的だ」
  隊長、隊員たちを見て、
隊長「佑磨と桐人はガリバーで、佳奈と庵は
 ビルクワンで、倉庫跡に向かってくれ」
  隊員たちの表情は真剣そのものだ。
隊長の声「あの場所で何が起きたのか、その
 手掛かりを、一刻も早く掴んできてほしい」
  隊長、両手を叩き、
隊長「それじゃ、お仕事を始めよう」
  隊員たち、敬礼し、
隊員たち「了解!」
  全員が自動扉の方に体を向けると、
副長の声「その前に!」
  一斉に振り返る。
  副長、テーブルを指差し、
副長「テーブルのもの、片付けて」
  テーブルのお菓子を羨ましそうに見つめ
  る隊長に、鋭い眼差しを向ける。
  臆した隊長、苦笑いし、しょんぼり。

□基地内・装備品ロッカー
  ロッカーが開き、防護ジャケットとヘル
  メット、警棒に光線銃、ガントライザー
  (以下、ライザー)が現れる。
  佳奈がジャケットのチャックを上げる。
  佑磨の腰のホルダーにライザーが入る。
  桐人の腰のホルダーに警棒が刺さる。
  庵がヘルメットを被り、顔を上げる。

□同・格納庫
  整備員が忙しなく動き回る中、隊員たち
  が走ってくる。
  ビルクワンの運転席に佳奈、助手席に庵
  が乗り込み、ドアが閉まる。
  複座式戦闘機であるガリバーのコックピ
  ット手前には桐人、奥には佑磨が乗り込
  み、キャノピーが閉まる。
  ガリバー、車輪でゆっくりと動き出し、
オペレーターの声「アウルスガリバー、二番
 エレベーターからカタパルトへ」
  エレベーターに向かっていく。

□ビルクワン車内
  庵と佳奈がシートベルトを締め、
オペレーターの声「ビルクワン、第四エレベ
 ーターから出動願います」
  佳奈がハンドルを持つと、
佳奈「了解。ビルクワン、出動します!」
  その目は真剣そのものだ。

□格納庫
  ライトが点灯し、ビルクワンが走り出す。
  班長、シバたち整備員が敬礼で見送る。

□同・第四エレベーター
  格納庫から出てくるビルクワン、自動車
  用のスロープを降りていく。

□基地甲板
  エレベーターから上がってきたガリバー。
オペレーターの声「アウルスガリバー、第二
 カタパルトから発艦します。甲板作業員は
 退避してください」
  第二カタパルトまで移動していく。
  機体を前方に向け、畳んでいた主翼を広
  げる。
  後方の甲板が斜めに迫り出し、
オペレーターの声「発艦準備完了、いつでも
 離陸できます」
桐人の声「了解。アウルスガリバー、出る!」
  ガリバーのジェットエンジンが唸りを上
  げ、炎が一直線に出てくる。
  甲板作業員が合図すると、ものすごい勢
  いでカタパルトの上を駆け抜ける。
  甲板から飛び出すと、車輪をしまいなが
  ら、徐々に空へと上がっていく。

□坂浜市・大通り
  遥か先まで続く道路を、ビルクワンがま
  っすぐ進んでいき、その上をガリバーが
  飛んでいく。

□同・旧市街・全景
  薄汚れたビルや倉庫、破壊された建物が
  並ぶ街の上を、ガリバーが飛んでいる。

□倉庫跡・爆心地近く
  飛び去ったガリバーの下には、巨大な足
  跡がついた瓦礫の山が広がっており、そ
  の上を、機動隊員や国連軍兵が、金属探
  知機のような機械で探っている。
  一方、瓦礫の山の一角で、簡素なTシャ
  ツ、短パンに簡素な鎧を付けた犬耳の青
  年の隣で大きな杖を持った修道士風の女
  性が地面に杖を突き立てる。
  地面に青白い光の波動が広がっていく。
  その様子を遠くから見ていた庵と佳奈、
  その光に照らされながら、
庵「…あの人、魔術師ですね」
佳奈「市から派遣された冒険者ね」
  周りを見渡すと、瓦礫の所々から青白い
  小さな光が放たれる。
  犬耳の青年が佳奈たちの前に来ると、
犬耳の青年「お二方、アウルスの方っすよね?
 手伝っていただけますか?」
佳奈「了解しました。庵隊員」
庵「はい」
  しゃがみこみ、光っている地面の瓦礫を
  退ける。
  庵たち、驚いた様子で地面を見つめ、
庵「…これは…」
  周りが青白く輝く、異界の文字が刻まれ
  た小さな白い破片が現れる。

□同・外周の一角
  草と建物の破片しかない空き地には白い
  テント、周りにはビルクワンや警察車両、
  国連軍の軍用トラックが停まっており、
T『倉庫跡・現地調査本部』
  機動隊員、国連軍兵、異界人の冒険者が
  行き交っている。

□同・テント内
  庵と佳奈の他、機動隊員、国連軍兵が、
  テーブルをコの字で囲んでおり、
佳奈「…ひとまず、お名前を伺っても?」
  修道士風の女性と犬耳の青年が向かい合
  って立っており、
修道士風の女性「はい。私はマリカ・カウラ」
犬耳の青年「オイラ、ワスマ・コーギっす」
  佳奈、軽く会釈し、
佳奈「ありがとうございます。で…」
  テーブルに目を向けると、
佳奈「これが発見された遺留物ね…」
  テーブルに敷かれたブルーシートの上に
  は、あの白い破片に加え、剣の柄や、透
  明なクリスタルがついた杖の残骸が並ん
  でいる。
  他の一同もテーブルのものを見ながら、
マリカ「はい。形からして、異界の冒険者が
 使っていたものだと思われます」
ワスマ「それから、その辺りにまだ、異界生
 物の体液の匂いが残ってたっす」
佳奈「(顔を上げ)異界生物の体液?」
ワスマ「しかも、タウロギアの匂いとは明ら
 かに違う奴だったっす」
庵「…他にも異界生物がいたと…」
機動隊員「他の班からも、同じような報告が
 入っています」
国連軍兵「その班にいる冒険者によれば、床
 下いっぱいに円を描くような形で残ってい
 るそうです」
佳奈「床下に円形を…?」
ワスマ「匂いの感じからしても、それは間違
 いないっす」
佳奈「でも、なぜ…」
  庵、なおも真剣に白い破片を見ており、
佳奈「どうかした?」
庵「(振り向き)あ、ああ…いえ…」
  突如、通信機から着信音が鳴る。
  佳奈と庵、腕の通信機に目を向け、
佳奈「はい」
佑磨の声「(無線)こちら佑磨、小型の異界
 生物の反応を確認した」
佳奈「なんですって!?」
  それには庵たち一同も驚いた様子だ。

□旧市街・大通り(夕)
    をビルクワンが走っていく。

□ビルクワン・車内(夕)
  佳奈が運転し、助手席に庵、後部座席に
  マリカとワスマが座っており、
桐人の声「(無線)倉庫跡の周りを調べていた
 んだが、ここから先にあるボウリング場近
 くで、生体反応を確認した」
佑磨の声「(無線)どうやら、ここを根城に
 しているみたいだぜ…」
  庵が持っているタブレットに、鋭く尖っ
  た耳と鼻、黄色い眼に小柄で全身真っ青
  な怪物の画像と詳細データが表示される。
  佳奈、チラリと見て、眉間に皺を寄せ、
佳奈「…ガブリエン…ちょっと厄介ね…」
  庵、マリカとワスマにも画面を向け、
マリカ「土地から土地へと移動しながら増
 える、凶暴な種族ですからね」
ワスマ「今のうちに倒しとかないとっすね」
隊長の声「(無線)いきなり大勢で突入すれ
 ば、奴らに逃げられる可能性もある」
庵「だから先に俺たちが潜入して、奴らを混
 乱させた隙に大勢で攻めると…」
副長の声「(無線)それまであなたたちに、
 かなり負担を掛けることになる。できる?」
  佳奈、後部座席に目を向ける。
  マリカとワスマ、頷く。
  庵を見ると、彼も頷き、
佳奈「問題ありません。何とかしてみせます」
  佳奈の表情は真剣そのものだ。

□旧市街・ボウリング場・外観(夕)
  黒く汚れた二階建ての、ボウリングピン
  のオブジェが建つ建物の前に広い駐車場
  がありビルクワンが停まっている。
副長の声「(無線)了解。健闘を祈るわ」
  ガラス扉の右手側に、庵と佳奈、マリカ
  とワスマが待機している。
  佳奈、庵に目を向け、
佳奈「庵隊員、ライザーの準備」
庵「はい」
  庵、腰のホルダーからライザーを取り出
  し、バッテリーを装填。
  佳奈、ライザーを構え、左手をそっと伸
  ばしてガラス扉の取っ手に手を掛ける。
  一呼吸おき、
佳奈「現時刻、一八一二(ひとはちひとに)、突入開始!」
  一気に開き、入っていく。

□同・エントランス内
  佳奈が扉を押さえている間に、マリカと
  ワスマ、庵が突入してくる。
  庵、腰から出した懐中電灯を灯し、マリ
  カが軽く杖を振り、杖の先が光り輝く。
  古びた柱やゲームの筐体が明るく照らさ
  れるが、その奥は真っ暗で何も見えない。
  左手に懐中電灯を持った佳奈が合図し、
  マリカとワスマ、庵の順番で、暗闇の中
  へと進んでいく。
  その先に、レザー革の扉がある。

□同・ボウリングスペース
  扉が開き、佳奈、マリカ、ワスマ、庵が
  入ってくる。
  まっすぐ進みながら、懐中電灯と光る杖
  で辺りを照らす。
  が、杖で照らしても、数メートル先が暗
  闇になるほどに広いようだ。
  全員汗ジトで進むなか、『ゴト!』とい
  う音が響き、佳奈の合図で歩みを止める。
  佳奈が右手側を向き、床を照らす。
  床の上にボウリングの球が転がってくる。
  佳奈、安心したようにため息をつくと、
  背後に突然二つの丸くて黄色い光が灯り、
佳奈「……!?」
  振り返ってライザーを構え、撃つ。
  『ギャッ!』の声とともに光が消えるが、
  その光が四つに増える。
  驚いた佳奈の背後で、光が六つ、八つと
  増えていく。
  佳奈たち、天井から背後に至るまで、増
  えていくその黄色い光に囲まれ、
庵「佳奈隊員!」
佳奈「(悔しそうに)…囲まれたわね…」
マリカ「まさか…こんなに…」
ワスマ「マジヤバっしょこれぇ〜!」
  突如、照明が灯る。
  佳奈たち、思わず目を瞑り、
佳奈「うっ……」
  目を開けると、思わず固まってしまう。
  ボウリング場一体に数十体のガブリエン
  が所狭しと姿を現し、まさに鬼のような
  形相で睨んでくる。
  レーンの隅には巨大な昆虫の脚らしきも
  のが転がり、黄緑色の液体で描かれた魔
  法陣、その中心には、みすぼらしい布を
  被ったガブリエン(以下、魔術師)が立
  っている
  庵たち、呆然と立ち尽くし、
庵「あれは…異界生物の残骸…」
ワスマ「あそこの匂いと同じだ…」
佳奈「それじゃあ…あの円というのは…」
マリカ「…魔法陣…」
  マリカ、恐怖で思わずたじろぐ。
  魔術師が手招きの動作を始める。
  マリカ、目を見開き、
マリカ「うっ!」
  ボールラックの上に倒れ、ワスマが振り
  向くと、
ワスマ「マリカさん!」
  気を失ったマリカが緑色の光に包まれ、
  浮き上がる。
  ワスマが彼女の手を掴もうと手を伸ばす
  が、見事にすり抜け、杖ごとレーンの方
  に向かっていく。
  魔術師、手招きし、やってきたマリカの
  杖を手に持つ。
  寝かせたような状態で来たマリカを立た
  せると、彼女が目を開き、
マリカ「(抑揚なく)よく聞け、人間たちよ」
  庵と佳奈はライザー、ワスマがナイフを
  構え、
庵「一体何を…」
ワスマ「…どうやらこいつら、何か話がした
 いみたいっすね…」
マリカ「貴様らに話すことなどない。我々の
 言葉を伝えるだけだ。命惜しくば、この地
 を去れ」
ワスマ「…なんだと!」
  ナイフを向けようとするワスマの前に佳
  奈が腕を出して制止し、
佳奈「ここで何するつもり?」
マリカ「我らは地を這い、喰らい、命繋ぐ者…
 我らの行く地は、全て我らの者…故に、阻
 むものは全て壊し、全て喰らう…」
  マリカの周りにガブリエンが集まり、
マリカ「その準備は、既に整っている」
ワスマ「整っている…まさか…」
庵「…お前たちがタウロギアを…あの異界生
 物を生み出したということか…」
マリカ「我らは地を這い、喰らい、命繋ぐ者…
 故に、全て壊し、全て喰らう…」
佳奈「そう。なら、私はあなたたちを阻み、
 一気呵成に殲滅するわ」
  佳奈、ライザーの銃口を向け、
佳奈「それが、この街に生きる者の使命よ」
  庵、佳奈を見て、
庵「……佳奈…」
マリカ「それが答えならば、もう用はない!」
  魔術師が杖を振る。
  庵、佳奈、ワスマが浮き上がり、マリカ共々、
  扉の向こうへ吹き飛ばされる。

□同・ボウリング場・外観(夜)
  駐車場に警察車両や軍用トラックが停ま
  っており、重装備の機動隊や国連軍兵が
  集結している。
  飛ばされてきた庵と佳奈、入り口の前で
  受け身を取りながら転がる。
  すぐに起き上がり、庵はワスマ、佳奈は
  マリカを受け止める。
  ワスマ、起き上がり、マリカを見て、
ワスマ「マリカさんは!?」
佳奈「彼女は大丈夫。気を失ってるだけ…」
ワスマ「(息を吐き)…よかったっす…」
  地面が揺れ始め、佳奈たち、走り出すと、
佳奈「逃げてーっ!」
  その瞬間、建物から閃光が走り、屋根を
  突き破って、巨大な鎧のガブリエンが出現。
  黄色く光る眼に鎧で覆われた耳と鼻、両
  腕のサイドに杖のようなものが飛び出た、
  融合鬼士・ガブリエムがこちらを向く。
T『融合鬼士・ガブリエム』
  機動隊と国連軍兵、マシンガンやバズー
  カ砲を撃ちながら撤退していく。
  ガブリエムは狼狽えるが、かすり傷程度
  であり、片手の杖を向け、発光させる。
  機動隊、国連軍兵は車両ごと、ちり紙の
  ように吹き飛ばされる。
  それを見て、楽しげに肩を揺らすガブリ
  エム、振り返って歩き出す。
  見上げていた庵、悔しげに拳を握り、
庵「くそっ…あいつも巨人に…」
  ハッと気づき、ポケットに手を入れる。
  ポケットからペンダントとチェンバーを
  取り出すと、
庵の声「…そうか、これって…」
佳奈の声「庵隊員!」
  顔を向けると、ビルクワンに乗った佳奈
  が顔を出し、
佳奈「庵隊員、私は二人を近くに降ろして、
 アイツを追いかけるけど、どうする?」
  庵、決意の表情。

□市街地・大通りのビル街(夜)
  兵装ビルの巨大マシンガンやミサイル砲
  が火を吹き、戦車隊が次々と砲撃する。
  ガリバーもビーム砲が発射される。
  ガブリエム、左手の杖でバリアを張り、
  ミサイルも砲弾もビームも防ぎながら、
  右手の杖からエネルギー弾を発射する。
  ガリバー、さっとエネルギー弾を躱す。
  エネルギー弾が兵装ビルや戦車に直撃し、
  大爆発。
  右手の杖を左に振り、炎ごと瓦礫が左手
  側に舞い散ると、構わず進んでいく。

□同・シェルター(夜)
  蛍光灯がぶら下がる、コンクリート打ち
  っぱなしの空間に、数多くの避難民がひ
  しめいている。
  ワスマが見守る中、レジャーシートの上
  でマリカが目を覚まし、
マリカ「あれ…私…」
ワスマ「よかったっす!」
マリカ「ワスマ…アウルスの皆さんは?」
  ワスマ、顔を上げる。
  マリカも同じ方向を向く。
  テレビモニターには、爆炎の中を進んで
  いくガブリエムが映し出されている。

□同・どこかの通り(夜)
  誰一人もおらず、街灯や停まっている車
  のライトで照らされた通りの中で、庵が
  顔を上げながら、
庵「二人をシェルターに届けました。すぐに
 そちらへ向かいます」
佳奈の声「(無線)了解。無理しないでね」
庵「…はい」
  右腕を目線の高さまで上げる。
  右手首の通信機の裏にチェンバーを取り
  付け、菱形の穴にペンダントのクリスタ
  ルを入れると、刻まれた文字が青く光る。
  庵、少し微笑み、
庵「…レイナに感謝しないとな…」
  顔を上げ、真剣な表情で、通信機の腕輪
  を回し、チェンバーを表に向ける!

□変身シーン!
  チェンバーのクリスタルを押し、魔法陣
  が光り輝く。
  庵、大きく腕を振り下げ、
庵「チェンバー・セットアップスタート!」
  天高く掲げる。
  チェンバーから強烈な光が放たれ、庵を
  包み込むと、神々しい龍のような姿に変
  身していく。
  天から鎧が降りてきて、腕や肩、腰、胸
  に装着され、顔にも取り付けられると、
  口から蒸気を出し、後頭部に生えた角と
  目に光が灯る。
  鎧の龍が右腕を上げ、巨大化していく。

□市街地・どこかの通り(夜)
  建物の明かりに照らされ、アルスナイト
  参上!
  自分の体を見渡し、顔を上げると、勢い
  よく走り出す。

□同・ビルクワン車内
  運転する佳奈、唖然とし、
佳奈「…アルスナイト!」
  車窓に映るアルスナイト、軽々と追い越
  して去っていく。
  
□市街地・大通りのビル街(夜)
  なおも進むガブリエム、両手を目の前の
  ビルに向ける。
  が、その横からアルスナイトのタックル
  を受け、その衝撃で吹き飛ばされる。
  道路に転んだガブリエム、起き上がる。
  アルスナイトがこちらを向き、臨戦態勢。
  ガブリエムが襲いかかり、格闘になる。
  パンチやキックの応酬でよろけたガブリ
  エム、両手の杖を向け、発光させる。
  アルスナイト、その閃光で思わず目を覆
  い、衝撃波で吹き飛ばされ、兵装ビルに
  倒れこむ。
  ガブリエム、エネルギー弾を発射。
  アルスナイトに直撃し、後頭部の角が点
  滅する。
  少しだけ起き上がり、右手を向くと、兵
  装ビルのロケット砲が転がっている。
  そのアルスナイトにジリジリと迫るガブ
  リエムにビームが直撃し、思わず辺りを
  見渡す。
  ガリバーが右へ左へとを旋回する。

□ガリバーのコックピット内(夜)
  操縦桿を握る佑磨の後ろで、佑磨、スコ
  ープを覗きながら、
佑磨「佳奈! 一発ぶちかませ!」
  ビーム砲のスイッチを押す。

□市街地・大通りのビル街(夜)
  ガリバーがビームを放ち、狼狽えるガブ
  リエム、右腕を上げ、ガリバーを狙う。

□同・路地(夜)
  後部のトランクが開いたビルクワンの側
  で、佳奈、ロケットランチャーを抱え、
佳奈「了解! 撃てーっ!」
  ランチャー砲が火を吹き、ロケット弾が
  飛ぶ。
  ガブリエムの右腕に直撃し、杖が爆散。
  跡形も無くなった杖を見たガブリエム、
  佳奈の方を見て、左腕の杖で狙う。
  そこにアルスナイト、手に持った兵装ビ
  ルのロケット砲をぶつけ、爆発する。

□市街地・大通りのビル街(夜)
  ガブリエム、よろけながらも両腕をアル
  スナイトに向けるが、左腕の杖は取れか
  けており、もう使えない。
  アルスナイト、腰に右手を添え、剣を抜
  くように腕を天高く伸ばすと、光り輝く
  巨大な剣になる。
  ガブリエム、その大きさに呆然とする。
  アルスナイト、その大剣を一気に振り下
  ろす。
  ガブリエムを切り裂き、大爆発!
  巨大な爆炎を上げ、光の粒子が舞い散る
  中、アルスナイトは仁王立ちし、鎧の隙
  間から大量の蒸気を吹き出す。

□同・路地(夜)
  佳奈、それをただ真剣な顔で見ており、
佳奈「…あなたは一体、何者なのかしら…」
  少し微笑む。

□同・全景(夜)
  アルスナイトが消え、炎と蒸気が夜の街
  を覆い尽くしている。

□同・朝の風景
  破壊された部分は痛ましく残っており、
  その周りを、軍や報道のヘリが飛び交う。

□同・大通り(朝)
  アスファルトが捲れた道路の上には、魔
  術師のガブリエンが倒れており、杖はバ
  ラバラに破壊されている。
  よろよろと立ち上がり、周りを見渡す。
  周りには国連軍兵が集まっており、
国連軍兵の声「国連軍から各局、融合鬼人・
 ガブリエムの素体と見られるガブリエンを
 発見。直ちに捕獲、拘束します」
  魔術師のガブリエン、両手を上げ、バタ
  リと地面に倒れる。

□沿岸地域の一角(朝)
  洋館のような外観の喫茶店があり、月と
  狼が描かれた看板が掲げてある。
  店名もそのまま、『ナイトウルフ』だ。
  
□同・レトロ風味な店内(朝)
  テーブル席に座っている庵と佳奈の前
  には、色とりどりのスィーツが並ぶ。
  ツインテールのような垂れ耳の獣人ウェ
  イトレスが一礼し、
垂れ耳獣人ウェイトレス「では、ごゆっくり」
  立ち去っていくと、佳奈、手を振り、
佳奈「ありがと〜!」
  庵、目をパチクリさせ、
庵「…佳奈隊員、こんなに頼んで大丈夫なん
 ですか?」
佳奈「問題ないない! 後で佑磨隊員に全部
 奢ってもらうから。因果応報よ」
  佳奈、手を合わせ、
佳奈「では、いっただっきま〜す!」
  フォークで一口掬ったいちごタルトを口
  に入れ、頬を持ちながら嬉しそうに、
佳奈「ん〜! やっぱここのいちごタルト
 サイコ〜っ!」
  また一口掬って頬張る。
  庵、苦笑いを浮かべながら、右腕を見る。
  手首の裏にあるチェンバーが光り輝く。
  庵は微笑み、窓の方に顔を向けると、
  『アッ』と口を開ける。
  窓の外から佑磨が二人を覗いており、テ
  ーブルに目を向けると、顔が青ざめる。
  隣の桐人がポンと肩を叩き、佑磨、大き
  くため息をつくと  
                             (END)  (二〇〇字換算八〇枚一〇行) 


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