海外での日系企業を取り巻く労働市場を考える(2)
前回は、タイでの日系企業離れについてテーマにしました。タイの日系企業元従業員への取材内容を例に、他社との比較も含めた賃金面(外部公平性)での訴求力低下が日系企業離れの一因となっている現状について考えました。
仕事を通して得られるものはいろいろありますが、前回挙げた以下の4つの切り口について考えてみます。
1.金銭的報酬(内部公平性)
2.金銭的報酬(外部公平性)
3.キャリア(自身が志向する)の充足・キャリアに関連した職務能力開発
4.職務満足感
1.~4.のうち、何をどの程度重視するかは、個人によります。例えば、自分の描くキャリアに合ったスキル開発の手ごたえ感=3.があれば、1.2.はそこまで気にならないという人もいます。その会社や自分の関わっている仕事が、社会や誰かのために役立っているという実感=4.が満たされていれば、3.はそこまでこだわりないという人もいると思います。
そのうえで、すべてがそれなりに成り立っている必要があります。「1.3.4.は80点で2.が10点」などだと、「3.を最重視する自分としては3.の80点はOKだが、さすがに2.が10点ではやっていけない」となります。どれかひとつでも赤点をとってしまうと、そのまま続けることはできなくなります。
私の知人に東南アジアの出身者がいますが、その人は「自分のキャリアに明確に役立つか、給与の絶対額が高いか、どちらかが満たされていれば自分はその仕事を続けていける」と言っています。人それぞれで一概には言えませんし、統計に基づくものでもなくあくまで私自身の経験からの感覚という前提ですが、これまで見聞きした外国人の方は1.4.も必要なものの、2.3.に敏感な人が多い印象です。
前回参照した日系企業元従業員の話では、2.以外に1.3.4.も満たされていないことを示唆していました。中でもとりわけ、2.3.の充実度が低いと感じている印象でした。上記に通じるものを感じます。会社の賃金テーブルが本人にとって訴求力がないのもさることながら、「日本企業は私の能力ではなく勤務年数を見ていた」という話に表れている、昇格や昇進に経験年数の縛りがある評価制度も合っていなかったということです。
国外で法人を展開する上では、その国の従業員が会社に対して求める全体的な傾向を踏まえた制度にすること、その中で、各人のキャリアや成果貢献等に個別に応じることが出来る要素も可能な限り含めていくことが大切になってきそうです。
前回参照した1月30日「NHKニュース おはよう日本」では、人材獲得を目指して新たな対策を打ち出した企業ということで、上記の視点に対応した日系大手機械メーカーのタイ法人(現地社員80人)の例を紹介していました。以下に挙げてみます。
上記の項目のうち、特に3.4.について現地従業員に訴求できる内容を追求していることがうかがえます。賃金面で見劣りしないよう自社の水準をメンテナンスすることもさることながら、同社のような視点の取り組みも今後ますます有効になると考えられます。
同番組では、人事制度改革に加えて職場環境の満足度向上も有意義な視点だとして、従業員1500人の日系企業の例も紹介していました。以下が概要です。
このことからは、職場環境の充実も大切な視点だということに加えて、ヒアリングを行って従業員のニーズを把握することの重要性も感じられます。
従業員の主張をすべて鵜呑みにするのがよいとは限らず、迎合すればよいというわけでもありませんが、現地従業員に直接問いかけた結果の一次情報(自身が行動し、直接の体験、調査などを通して得られる情報)からは、やはり貴重な示唆が得られることもあります。他国の現地法人従業員に対しては、対日本人従業員以上に気付いていないニーズや価値観があるという前提で、一次情報を集めることが大切だと思います。
また、上記タイ人の話で、節約したお金を自分のために使うということではなく、家族のために使うということが真っ先に出てくるのも示唆的だと思います。
東南アジアから他国に渡る多くの人にとって、一番の目的は家族や親族を養うことにあります。最近では、日本からオーストラリアなど賃金の高い国にワーキングホリデーなどで出稼ぎに行く日本人が増えていると聞きますが、その目的が自分のためという人も多いと思います。このあたりの価値観の違いも、感覚としてもっておくことが必要だと思います。
東南アジアでは、欧米系の企業に加えて、中国系の企業の進出が盛んになり、ますます人材獲得は競争が激しくなっています。現地で長期的な競争力を発揮するためにも、現地の雇用や人事の仕組みはさらなる見直し・発展が求められそうです。
<まとめ>
賃金に加えて、自社が従業員にとってキャリアの展望を描きやすい職場かどうかを評価する。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?