利益が増えて不安になっていた社員

先日、ある経営者様とお話する機会がありました。同社様ではしばらく前に経営陣が一新され、新しい経営陣が主導する社内改革に取り組まれている最中です。次のようなお話をお聞きしました。

~~自社ではEBITDA(金利支払い前、税金支払い前、有形固定資産の減価償却費及び無形固定資産の償却費控除前の利益)を最重要の経営指標として定義している。しかし、社内ではだれもこの指標の意味を知らなかった。それどころか、売上・経費・粗利益・営業利益の関係も、社員のほぼ全員がイメージできていなかった。

そこで、会社の主要な財務情報を開示し、財務に関する研修会を何度も行うことに取り組むことにした。EBITDAとまではいかなくても、営業利益の意味とどうすれば営業利益を上げられるかについては理解を浸透させた。

自分たちが掲げている経営方針、それを実現するための社内改革、具体的な取り組み項目、なぜそれらをする必要があるのかの理由について、繰り返し説明してきた。先日の決算説明会でも改めて説明した。

当初は社内改革に対して斜めに構えていたり、疑ってかかっていたりした社員も見られたが、だいぶん理解が浸透して日々の仕事のやり方にも落とし込まれてきたと感じている。~~

以前同社様から依頼を受け、社員の方複数人にヒアリングをさせていただいたことがあります。ヒアリングではざっくばらんに様々な意見が出てきました。会社に関すること、上司・部下に関すること、取引先様・業務に関すること、自分に関すること、仕事外のこと。質問項目を準備しつつも話題に制限をかけなかったので、愚痴や不平不満も含め出てきた内容は様々でした。

ある人の言うことと別の人の言うことが真逆、などもありましたが、次の2つの要素についてはヒアリング対象者間に共通するのを感じました。

・会社の方針が分からない。発信してくれる機会が少ない。
・仕事量が減っている。将来この職場が続くのか不安である。

実際は、同社様の粗利益・営業利益は社内改革着手以降増えています。収益性の低い事業の在り方を見直し、業務プロセスの改善、それもできない場合は取引の凍結も含めて合理化をしました。数年にわたる社内改革の後半(今後予定)では、新規事業や取引の拡充が目論んであります。しかし、当面は立て直しフェーズとし合理化によって業務品質の立て直し、現場の疲弊の回復を優先させたわけです。

しかし、社員はそのことの本質に気づいていないため、「現場の動きが減っている。会社は大丈夫なのか?」と不安になっていたというわけです。そうした状態が、冒頭の会社側の取り組みを重ねることで、「そういうことだったのか」と腹落ちし、目的感を新たに現場の業務に向き合うようになっていきました。私も継続的に同社様に関わっていて一部の社員の方にお会いする機会がありますが、明らかに動き、雰囲気、表情が良い方向に変わっているのを感じます。

同経営者様は、「会社方針はそれなりに周知しているつもりではあったが、想像以上に量も頻度も増やさないといけないのを実感した。会社方針を浸透させるうえで、させ過ぎはない。」と言います。

1月27日の日経新聞で「日鉄の復権が示す再生の道筋」という社説がありました。一部抜粋してみます。

~~国内最大の素材メーカーである日本製鉄の攻勢が目立っている。日鉄の業績が好調な要因は過剰な生産能力を整理し、需給を引き締めたことだ。それによって買い手優位だった市場構造を変革し、トヨタのような有力な顧客に対しても値上げを通すだけの価格交渉力を取り戻した。日鉄復権の道のりは、他の日本企業にも示唆するところが大きいだろう。

日鉄の母体である旧新日本製鉄は業界再編を積極的に仕掛け、過去10年で住友金属工業と日新製鋼という2つの競合会社を事実上吸収した。その上で生産能力の整理に着手し、20年秋以降、和歌山や呉(広島)などで4基の生産設備(高炉)を閉鎖し、今後さらに1基を閉め、以前は15基あった高炉を10基にまで絞り込む。

国内の需要が徐々に減る中で、再編や設備集約でそれに見合う水準まで生産能力を落とすのは当然の判断に見えるが、リストラには痛みが伴い、尻込みする経営者も多い。一定の時間をかけて関係者の合意を取り付けつつ、構造改革を粛々と進める日鉄の経営手腕は評価に値するのではないか。

鉄に限らず日本の素材産業は2つの難題に直面している。ひとつは国内事業の伸びが期待しにくいなかで、事業のグローバル化を進め、成長戦略を描き直すこと。もうひとつは地球環境問題への対応である。いずれも相当の先行投資を要するテーマであり、財務基盤が強いことが課題達成のための必要条件だ。~~

同記事にもあるように、まずリソースの整理、業務再編に優先順位を置いて集中し、財務基盤を高めた上で未来戦略に打って出ることは、経営計画の順序としては妥当です。そのうえで特に前半の防戦フェーズでは、従業員に対して丁寧な語り掛けを行い、自社なりのシナリオを描いた上での必要プロセスであることを理解してもらう取り組みが大切だと思います。

<まとめ>
ポジティブな取り組みであっても、社員にはネガティブに映っているかもしれない。


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