社内の信用取引

先日、ある企業の幹部社員の方からお話を聴く機会がありました。「自社では、社員に対して約束したことを実行できていなかった。そのツケが回ってきて社内が荒れているのを反省している。」ということでした。

書籍「任せるリーダーが実践している1on1の技術」(小倉広氏著)を参考にすると、「信用」と「信頼」は下記のように捉えることができます。

「信用」とは条件付きで相手を信じること。
「信頼」とは無条件で相手を信じること。
「信用金庫」や「信用取引」という言葉は存在するが、「信頼金庫」や「信頼取引」という言葉は存在しない。つまり、「信用」とは、担保や実績という条件のもとで成り立つものであり、裏切られたら信じない公的な営みである。
他方、「信頼」は担保や実績などなくても、無条件に相手を信じることである。裏切られても信じる、非公式な営みである。

冒頭の企業様では、人事として社員に約束したことが放置されていたようです。
・「社員説明会でのQ&Aの記録を全社で共有する」と管理部長が明言したが、2か月たってもなされていなかった。
・「〇について△日までに結論を出し回答する」と社長が社員に伝えた内容を、忘れてしまっていた。
・社員から管理部長に申し入れされた意見に対し、「社長に決裁を仰いでみる」とした上で社長に上申したが、スルーされたままになっている。・・・等々

内容を聞くと、一つひとつはそれほどたいそうなものではなく、その気になれば10分・15分程度でできる些細なことばかりでした。しかし、放置されてしまったために、社員から苦情が上がってしまい、慌てて対応しているところというわけです。

会社対会社は信用をベースとした関係です。定めた条件付きで信用をベースに取引し、金銭の出資・貸し借りや掛け売りなどもします。いざという危機時に資金繰りの相談をしようと思っても、過去のやり取りで条件を履行した上での信用取引が成立してなければ、相談には応じてもらえないことでしょう。

これは、社内の関係性でも同じだと思います。経営対社員、上司対部下、同僚同士において、ベースになるのは信用取引の積み上げです。マネジメントは、それぞれがなすべき約束事を果たして、信用取引の積みあがった結果、成り立つもののはずです。それなしには、ましてや信頼関係に至るなどないということです。

信用取引には、書面・口頭を問わず、なされたどんな小さな約束事であっても当てはまります。もちろん、決めたことすべてをこなせる完璧な人などいないでしょうが、履行しようとする姿勢や行動を相手はよく見ているものです。同社様の例では、信用が崩れかけていることに気づき、慌てて対応することになった事例だと言えるでしょう。

信用が崩れているというアラートを従業員が発してくれたのは、幸運だったと言えます。ものを買った消費者も同じですが、不満があってもそれを相手に伝えてくれるのは、むしろ少数派です。アラートが届く組織風土のうちに、信用取引を立て直すことが求められます。

<まとめ>
社員に対するどんな小さな約束事も、真摯に履行する。


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