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オンラインレッスンの事例

前回までの投稿で、オンラインレッスンの可能性について考えました。今日は、実際にレッスンをオフラインからオンライン化した事例について考えてみたいと思います。

A社は、英会話教室の事業を展開している会社です。全国規模で拠点があり、利用者数は数万人にのぼるそうです。

A社事業の概況としては、大きく2点挙げられます。1つは、教室事業の伸び悩みです。A社はそのサービス内容と質の高さが支持されて、設立以来拠点数、利用者数ともに増加を続けてきました。しかし、コロナ禍が発生した2020年以降、教室事業の売上・利用者数ともに伸び悩んでいるそうです。

中期計画において2020年度に経営目標としていた売上高に対して、2割以上未達で終了したと聞きました。2021年に入って若干回復しつつあるものの、2019年水準を上回る状態にも至っていません。その間、それ以前から開設の決まっていた教室が増えたため、拠点数は増えています。よって、1教室当たりの利用者数、売上が減り、収益性・利益が減っているという構図になります。

2020年4月の初の緊急事態宣言下では、教室を全て閉める対応をとった結果、教室授業というサービスの提供自体が成立しなくなり、対面教室という業態の弱みが一気に明るみになったそうです。また、英会話教室の利用者には就学児童も多く、いわゆる習い事は学年単位で利用計画を立てようとする子供とその親が多数派だそうです。よって、就学児童の新規利用申し込み数は、例年4~6月の新学年開始時期で年間の5割程度となるのですが、その需要がほぼ消滅したという話です。一方で、3月をもって教室利用を終了する児童数が減るわけではありません。事業収縮の状況が手に取るようにイメージできます。

そのような状況下ではあるものの、A社にとって幸いだったのが、数年前から取り組み始めていたオンラインレッスンだったと聞きます。もちろん、教室授業のノウハウを単純にオンライン化できるというものでもありません。コロナ禍発生前は試行錯誤段階で、オンラインレッスン事業はまったく収益ラインには乗らず、大赤字の事業だったものの、イノベーションを目指した活動として試験運用的に取り組み続けていたそうです。教室を閉鎖していた期間中のレッスン料を、再開後に利用できる権利として振り替えをお願いするのが基本対応だったそうですが、その上で、1対1のオンラインレッスンによる振り替えの対応をした利用者もいたそうです。

A社の話では、レッスンのオンライン化がうまくいくかどうかは、形態、内容、対象者によると言います。特に、対象者の要素が大きく、小学生以下の児童の利用者は不向きだということです。児童本人が英語を学びたいから教室に来ているのではなく、楽しい雰囲気であったり友達と会えることだったりが、教室に通う目的だからです。本人発の学習動機ではなく、親が行かせたいから教室に通い、行ってみたら楽しいからまた行ってもいい、というのが、常連化の流れなわけです。

オンラインレッスンでは、児童にとっての楽しさを対面同様に打ち出せるほどのノウハウは、まだ存在しません。A社もオンラインでグループレッスンなどを試してはみたものの、ある程度のコミュニケーション能力もまだない段階の子供では、グループレッスンも機能しなかったそうです。

教師には、教室の空気感をつくる、生徒が直接言葉で訴えてこないことを察知して対応する、といった力が求められます。特に生徒が子供の場合、学習を楽しんでもらうことが大切な要素となります。実地・対面なら、じゃんけんやボールを投げる遊びなどの工夫ができますが、オンラインではそうした工夫も効果が限定的です。こうした点についてはまだまだ知見が発展途上だと言います。

加えて、「顧客の顧客」にとってもオンラインレッスンは不評です。教室に通う親にとっては、教師に預けている間の時間は、一人で好きなことを楽しめる貴重な時間です。英会話教室はショッピングセンターに開設されていることが多く、A社も例外ではありません。子供を教室に預けている間に、買い物やネイルなどを楽しむわけです。ところが、オンラインレッスンとなると、家で親が待機しなければなりません。教師の指示に従ってPCやアプリの操作などを児童だけで完結させるのは、無理があるからです。結局、A社が児童向けに行っている教室授業のうち、オンラインレッスン化できたのは、最も教室運営が厳しい環境下にあった2020年4~6月でも10%程度で、2021年の今現在では5%にも満たないそうです。

この事例からも、単純に既存のレッスンをオンライン化すればよい、というわけでもないのが改めてわかります。この点は、従来の学習過程を単純にeラーニング化すればよいわけではない、と言われていたことと共通します。一方で、A社事業の中でもオンライン化が有望な分野もあるそうです。その点については、次回以降のコラムで取り上げてみたいと思います。

<まとめ>
対面レッスンを単純にオンラインに置き換えればよいわけではない。


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