長期的な視野に立った人材投資
2月20日の日経新聞で、「日本マクドナルドHD社長に日色氏 課題は再成長策」「日本マクドナルドHD次期CEO 人材育成で頭角現す」という記事が掲載されました。
以下に同記事を一部抜粋します。
~~日本マクドナルドHDは19日、社長兼最高経営責任者(CEO)に日本マクドナルドの日色保社長(55)が昇格する人事を発表した。サラ・カサノバ社長兼CEOは会長に就く。カサノバ氏は鶏肉偽装問題で苦境に陥った同社を立て直した。新型コロナウイルスで消費行動が変わるなか、日色氏の下で成長拡大を目指す。
日色氏は、前職の米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)では従業員のやる気を高める「モチベーター」として知られていた。部下と顧客先を訪問する際、上司である自分は口を出さなかった。上司が口を挟むと部下は成長しない。部下の課題は商談後に伝えることを徹底した。J&Jでは歴代最年少の46歳、初の生え抜きの社長に就任した。異例の人事だったが、社内の人気は高く「彼を慕う部下は多かった」(元J&J社員)
サラ・カサノバ氏が日本マクドナルドに引き抜いた理由の一つも「人事や組織開発の高いスキルと経験」だった。幹部登用だったが、入社後は店舗でクルー(従業員)として働いた。わずか半年間だったが「短期間に店長やパートタイマーとしっかりとした関係を築いていた」(カサノバ氏)。
「現場を含め、相手を理解しようとする姿勢で臨むと、新たな視野が広がる」と語る。新型コロナウイルス下で消費が落ち込む昨年8月。パンケーキやカラフルなジュースなど明るいハワイアンメニューを大々的に打ち出した。現場を頻繁に見る中、「自粛の中でも楽しみを求める動きは必ずある」とふんだ。結果は成功だった。
新型コロナ後の消費動向はまだ見通せない。21年に創業50周年を迎える同社は再成長に向けたステージに入った。「最高の資産はクルー」と語るモチベーターの真価が問われる。~~
日本マクドナルドをV字回復・発展させた立役者が、次の発展のために社長を交代するということです。注目すべきは、日色氏が「幹部登用ながら入社後に店舗でクルー(従業員)として働いた」とあることです。
東洋経済にも過去に次のような記事があります。
~~日本マクドナルドに上席執行役員として招聘された日色氏は、その時点で「社長就任を打診する可能性がある」とも伝えられていた。ただ、カサノバ社長が「彼が入社後の半年間、店舗で情熱的に働いていたことが印象に残っている」と語るように、日色氏はハンバーガー作りやカウンターでの注文受付など、アルバイトスタッフが行うような店舗での実務を精力的にこなした。また、その間も周りのスタッフや顧客と積極的にコミュニケーションを取ったという。~~
つまりは、J&Jで要職を務め、次の社長候補としてヘッドハントされて入社した人材が、半年間店舗の現場業務に集中したということです。半年間、1スタッフと全く同様に現場業務だけに没頭したのか、経営にも携わりながら半身だったのかはわかりませんが、ヘッドハントした後継候補者をこれだけの期間現場業務に集中させる会社はなかなかないと思います。
ここからは、大きく2つのことが感じられます。
ひとつは、長期的な視野に基づく経営・意思決定です。絶好調期に社長を交代して後任に託すのは、個人的には、人気絶頂期に連載終了した鬼滅の刃を彷彿させます。なかなか簡単でなく、一般的でない意思決定ではないでしょうか。しかし、今後の会社の舵取り・事業のさらなる発展を考えると、このタイミングで次の打ち手に臨むということでしょう。長期的な視野を感じます。
もうひとつは、人材育成に対する意思・意欲の強さです。これだけの人材に半年間現場業務というOJTを課すのは、とても大きな投資です。マクドナルドといえば、人材育成を象徴するハンバーガー大学が有名です。今回の事例がすべてではなくひとつの表れでしょうから、ハンバーガー大学含め、同社の人材育成は日常的にこのような投資が行われているのだろうと推察されます。
日本企業はかつて、「物をつくる前にまず人をつくる」(松下幸之助氏)に象徴されるように、人材育成に投資する文化と取り組みが強さの源泉だと言われた時期もありました。しかし、それは昔の話となっています。
厚労省の調べによると、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、日本では0.1%ほどで2%を超える米国の1/20以下だそうです。米国に加え、同調査対象だった英仏独伊のすべてを下回っているようです。加えて(最新のデータは見当たりませんが)、日本は1999年に同割合が0.4%を超えていたのが、2014にかけて0.1%まで減っています。この間に同割合を高めた米国とは動きが対照的です。米国系でもある上記マクドナルド社の記事内容は、これらのことを感じさせます。
長期的な視野に立って経営・意思決定を行うこと、人材育成に強い意識と取り組みで臨むこと、同記事はこれらのことを示唆していると思います。
<まとめ>
人材育成というテーマには、長期的な視野に立って相応の投資で臨む。
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