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転勤制度の派生形を考える

1月11日の日経新聞で、「三井住友海上、ちょっぴり転勤 近県限定、キャリア・生活の二刀流 業務に幅・家族負担軽く」というタイトルの記事が掲載されました。キャリアと生活を両立させるのはごく自然のことであり、これも二刀流で例えて説明するのはどうかという気もします。そのうえで、それだけキャリア・生活の両立は依然として難しいものと捉えることができるのかもしれません。

同記事の一部を抜粋してみます。

三井住友海上火災保険が、隣県など一定の地域内に限って転居転勤がある「ワイドエリア型採用」を広げている。転居がない従来の「地域限定型」に比べて勤務地の選択肢が広く、様々な経験を積める。何かあればすぐに地元に戻れる距離で、育児や介護への影響を極力抑えられる。

「まるで違う会社に転職したみたい」。2020年4月から徳島の拠点で課長代理を務める川内一恵さん(45)は笑顔で語る。08年の入社以来、母校のある慣れ親しんだ高知で転居や県外への転勤がない地域限定職として働いてきた。ただ、より規模の大きな職場で新しいキャリアを積みたいという考えが芽生えた。

一方、「娘がまだ高校生。高知にいる両親の面倒を見る必要もあり、全国どこにでも転勤できるわけではなかった」。そこで志望したのが、勤務地を四国4県のいずれかに絞ったワイドエリア型への転換だった。

三井住友海上のワイドエリア型は19年4月に制度化された。まず自分の本拠地となる都道府県を1つ決め、隣県などに原則3年間限定で転勤をする。たとえば山形を本拠地とした場合、他の東北5県のほか、県境を接する新潟に異動できる。

自宅から通えない場合は転居を伴う。赴任期間が終わると本拠地に戻り、3年程度はそこでの勤務が続く。22年春の新卒入社のうち、約3割にあたる54人がワイドエリア型での採用だ。

三井住友海上のワイドエリア型の場合、本拠地を離れている期間の給与は2割増しで、役職にもよるが全国転勤がある社員と同水準になる。結婚や育児に合わせて、地域限定型への転換や復帰を認めるセーフティーネットも設けている。「エリアを絞り期間も明確でチャレンジしやすい。様々な地域や部門で新しい経験を積み、キャリアアップにつなげられる」(人事部の松坂朋実課長)

川内さんも社員数の少ない高知では「何でも屋」として幅広い仕事をこなす必要があったが、仕事が細かく分かれている徳島では「特定分野の専門性を深く磨ける」。高知時代には年次の高い上司で埋まっていたマネジャー職にも就けた。

22年4月からはワイドエリア型の中に、留学を含む海外での勤務も経験できる区分を設けた。転居先を絞る制度としては矛盾するようだが、国内では得がたい経験を積むチャンスが欲しいという社員のニーズに応えた。

転居を伴わない「地域限定職」は、小売りや金融・保険業界から広がったと言われます。同じ仕事をしながらも転居を伴う転勤がある無限定総合職に比べると、10%~20%程度給与減となるのが一般的でした。

同記事内容から、「ワイドエリア型」は、処遇の条件面含め従来の無限定総合職と地域限定職との中間のようなイメージだと見受けられます。働き手にとって選択肢が増えることは、基本的によい流れです。従業員(個人)と企業(組織)の双方に意味のあることだと考えます。

経営コンサルタントの大前研一氏による次の言葉があります。(書籍「時間とムダの科学」より)

人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、「決意を新たにする」ことだ。かつて決意して何か変わっただろうか。行動を具体的に変えない限り、決意だけでは何も変わらない。

同記事中の事例は、ワイドエリア型の適用を受けることで、住む場所と付き合う人が変わった例だと言えます。結果的に、時間配分も変わることにつながります。住む場所まで変わらない場合でも、勤務場所が変われば通勤ルートが変わることで視点も変わり、発想も変わってきます。本人のキャリアにもプラスの刺激になるはずです。

企業側にとっても、新たな人が職場に来ることで今までにない職場改善の気づきが浮き彫りになる、人材配置をやりやすくなるなどのプラスの効果があります。

地域を限定する働き方は、以前は女性の方に適用の多い形態でしたが、今では性別に関係なく希望する人が一定数いるようです。同記事には次のようにあります。

他の損保でも同様の制度の導入が進む。東京海上日動火災保険は16年度から従来の地域限定型を「エリアコース」と改め、ワイドエリア型も選択できるようにした。当初はわずかだった男性のエリアコース利用も急増している。23年春入社予定では65人の男性が選択し、18年春の13倍になった。「地元に根ざし貢献したい」と考える若者が増えているといい、「災害や事故など地域社会の『いざ』を支えるためにも意欲のある人材は必要」(同社)という。

同日付の別記事によると、ディスコが24年卒業予定の学生に実施した調査で、企業を選ぶ際に勤務地に「強くこだわる」という回答が32.1%となり、18年卒に比べ9ポイント増えたそうです。マイナビの23年卒対象の調査では、行きたくない会社の特徴として26.6%が「転勤の多い会社」を選んだということです。

全国どこからでも出勤可能にしたり、完全テレワーク可にしたりするなど、勤務地という概念がない企業も出てきています。住む場所にこだわる人材が増えていることは、今後の採用、人事において考慮が必要だと言えそうです。

上記記事のような制度導入が可能な前提の企業とそうでない企業とがありますが、参考になる視点だと思います。

<まとめ>
住む場所へのこだわりを求める人、それを踏まえた制度を導入する企業が増えている。

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