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「気候退職」を考える

6月7日の日経新聞で、6月2日付 英フィナンシャル・タイムズ記事「「気候退職」企業の心構えは 若手確保は行動が大事」が紹介されていました。企業が環境問題へどう対応するかが、従業員の退職に影響を与えると説明している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

環境などへの取り組みが不十分であるという理由から退職したり、内定を断ったりする「気候退職(climate quitting)」が一般にも広がり始めたということなのか――。企業は、若い従業員を逃さないようにするには環境への配慮を示すことが今や必須という状況になったということなのか――。

そうなりつつある可能性が高いことを示す証拠は増えている。しかもロンドンのような大都市に限った話でもない。

筆者がこう考えるのは、コンサルティング大手の米デロイトが5月に公表した世界44カ国・地域のZ世代とミレニアル世代の約2万3000人を対象とした調査報告書を読んだからだ。

デロイトの定義ではZ世代は1995年以降生まれ、ミレニアルは83〜94年生まれを指す。つまり、現在、ほぼ20代と30代の人々だ。米国では2021年の正規雇用者の半数近くをこの世代が占めていた。

デロイトは同様の調査を毎年実施しており、今回が13回目だ。これによると、環境問題への懸念から勤務先や業界を変えたことがあると回答した者は約20%おり、将来そうするつもりだと答えた割合はこれを少し上回った。さらに、70%を超える回答者が求職活動で企業を選ぶ際は、環境問題への取り組みの実績や方針を重視すると答えた。

この調査結果は、23年に欧州投資銀行(EIB)が欧州の20代の若者を対象に実施した調査の結果と合致する。EIBの調査でも、気候変動にどんな影響を与えているかは就職先を選ぶ際の重要な要因だと回答した比率は76%に達し、22%が最も重要な要因だと回答した。

デロイトの調査結果でより顕著だったのは、企業には単に気候変動に関する方針を策定する以上の取り組みが求められつつあるという点だ。

自分が勤める会社に対し気候変動対策の行動を起こすように、単独または同僚とともに強く求めていると答えた20代の割合は、22年の48%から24年には54%に上昇した。ミレニアル世代も同様の上げ幅を示した。

彼らが求める行動は、持続可能性に関する従業員教育や、環境にもっとやさしいオフィスへの改装といったことから、会社の中核的な事業モデルそのものを気候変動に配慮したものに改革するといったよりハードルが高いものまで多様だ。

とりわけ事業モデルの改革は、調査対象の20%近くが挙げている。同じく20%近くが会社に対し「政府ともっと緊密に連携し、持続可能性に向けた様々な取り組みを推進する」ことを求めている。

筆者はこうした傾向が西欧や北米でより顕著であると予想し、デロイトに詳細なデータの提供を依頼したところ、意外な答えが返ってきた。西欧や北米よりも、タイやシンガポール、マレーシア、インドネシアを含む東南アジアの方が上回っているというのだ。

東南アジアで気候変動対策の行動を起こすよう自分の勤め先に強く求めていると答えた割合はZ世代が66%、ミレニアル世代が71%という驚くべき高さだった。同じ質問に対する西欧と北米の回答者の比率は、それぞれ50%と42%にとどまった。

私が就職活動をしていたころは、環境問題への取り組みを就職先の会社に対する評価にするなど、自分も含めて周囲では皆無でした。

「〇〇世代」という括り方が必ずしも適切とは限りませんが、若手世代ほど環境問題への意識が高いということは、いろいろなところで指摘されていることです。環境問題に対する取り組みの有無が、その企業に対する評価の重要な要素となり、今後もさらに重要性が高まるというのは、間違いない方向性だと思われます。

個人的には、同記事の調査で、東南アジアの若手のほうが西欧・北米より環境問題への意識が高いという結果が出ている点が驚きでした。

私は、約20年前に数年間、東南アジアから来日した皆さんと集中的に仕事でご一緒したことがあります。当時来日した人たちですので、エリート層の部類に入る人材です。そのころ一様に聞いていたのが、「環境のテーマは大切でこれからさらに問題になると思うが、国として優先されるは産業振興。人々もあまり環境への意識は高くない」という反応でした。当時の記憶による勝手な先入観をもっていたため、同記事の結果に驚いてしまったわけです。

もちろん、国や地域によって環境問題への取り組みと成果に差があります。それらがある程度進んでいる国や地域での回答と、まったく進んでいない国や地域での回答とは、重みが異なるとも言えます。そのうえで、同記事の著者も意外だと言っているということは、東南アジアでの回答結果が以前の傾向とは異なる内容になってきていると言えるのだと思います。

「企業に環境問題への取り組みを期待する」といったトーンを超えて「行動を起こすよう強く求める」と踏み込んでいるのが印象的です。「東南アジアで気候変動対策の行動を起こすよう自分の勤め先に強く求める割合が、Z世代66%、ミレニアル世代71%」という事象は、(これも先入観かもしれませんが)西欧や北米のみならずおそらく日本よりも高いのではないかと想像します。

同記事からは改めて、次のように認識すべきなのだろうと感じました。

・自社としての環境問題への取り組みに納得してもらえるかどうかが、今後ますます、消費者や取引先から支持されるかどうかに加えて、従業員から選ばれ続けるかどうかにもつながってくる。

・東南アジアをはじめとした他国のほうが、その傾向が顕著である可能性がある。

6月19日の日経新聞では、2023年度飲食業調査で、外食企業の44%が24年度以降に海外出店を拡大する意向を示していて、前回調査から大幅に増えたと紹介しています。日本で人口減少、少子高齢化で外食の需要量が減っていくことを見越して、内需産業から外需産業への転換を進めていく必要のある背景を受けての動きです。

例えば、日本国内の事業活動でこれまで一般的な感覚として運営してきたやり方が、国外に出たときに不十分で、想像以上の環境対策を求められるという事象もあり得ます。今後上記などの動きが加速する中で、さらに留意しておくべき点になりそうです。

もちろん、国内の事業活動においても同様です。国内外の投資家や取引先から一層の環境対策を求められてくる可能性もあります。外国人従業員から自社の環境対策に対する疑問や苦言を呈される場面が出てくる、なども今後あるのかもしれません。

<まとめ>
環境対策の取り組みが、従業員から選ばれかどうかの理由になり得る。

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