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KPIのミスリード

前回の投稿で、営業担当者のアセスメントを検討しているという企業様の事例について考えました。そして、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標、重要達成度指標などと訳される)について言及しました。KPIによるミスリードの観点について、今一度考えてみます。

KPIは、「売上高」「利益率」など組織として最終的に手に入れたい成果を目指すための、途中のプロセスとなる指標です。成果指標としての性格が色濃いKPIもあれば、成果に至る手前の行動指標としての性格が色濃いKPIもあるでしょう。

社員が行動した結果どんな状態の達成を目指すかの的確な定義は、社員の適切な行動を促す上で重要です。同時に、相応の難しさを伴います。なぜなら、その指標が独り歩きして暴走し、「手段が目的化」すると、社員の行動をミスリードしてしまうからです。

教えていただいた話によると、日本を代表する温泉旅館の加賀屋では、「接客時間の長さ」をKPIにしているそうです。仲居さんが可能な限り長い時間をかけて接客するのを目指しているということです。同旅館を知り尽くしていてその土地のプロでもある仲居さんが、時間をかけながら非日常空間を盛り立ててくれるわけです。宿泊客と一緒にいる時間そのもの・そこで交わされる会話量が、顧客満足に直結するというのが想像できます。優れたKPIだと思います。

しかし、これが他社でも同様に機能するとは限りません。例えば、営業訪問を行う会社が「訪問先での滞在時間の長さ」をKPIにした場合、どうでしょうか。それがうまく機能する可能性もある一方で、「何とか滞在時間を稼ごうと、お客様にとって聞きたくない会話を延々と続けて時間を引き延ばす」など、それが重要な指標だとされていることで営業担当者の行動をミスリードするかもしれません。

これまで見聞きした中で、例えば下記のようなミスリード事例があります。

・見積り作成金額をKPIにする。
受注に至る一歩手前の行動である、見積書付きの提案を活発にしよう、その結果受注が増えるのではないかという考えは一見論理的です。しかし、KPIとなったがために、この企業では確度が限りなく低い見積書の作成が乱発し、「見積書作成事務作業の手間が増えた」「要らないと言っている見積書を渡されたとお客様の苦言が発生した」という逆効果に終わりました。

・報告書の文量をKPIにする。
ある企業では、お客様に成果物の一環として届ける報告書について、ボリュームのあるもののほうが満足度が高いという結論にたどり着き、報告書を厚くすることがKPIとなったそうです。しかし、「とにかく文書を多くしろ」という誤った指示と理解が浸透したために、「昨今の世界情勢を受けて・・・」のようなどの企業にも当てはまるどっかからコピーした文章があちこちの報告書に書き足されることで、お客様の評価を下げる逆効果に終わりました。

・改善提案件数をKPIにする。
「内容の優劣は問わない。自由な発想による積極的なKAIZEN活動を推進したく、件数をKPI化する。さらに、すべて1件につき500円会社から報奨金を支給する。」開始後まもなくして、どう考えても見るに値しないような内容でも500円支給されたという情報が広まり、小遣い目当ての人が取るに足らない改善提案を乱発。報奨金を廃止したところ件数は皆無に。効果も出なかったことから、しばらくして会社が活動終了を宣言しました。

KPIは、下記が揃った条件下ではじめて機能すると考えます。社員の行動をミスリードしないよう、そのKPIが的確かどうか振り返ってみるとよいでしょう。

・自社の理念、ビジョン、戦略と合致していて、一連のストーリーの中で有機的な要素として位置付けられている。
・自社の求める重要な成果を高めることが確認されていて、なぜ高めるかの理由が明確になっている。
・それらをメンバーが本質的に理解している。

<まとめ>
設計思想の伴わないKPIは、社員の行動をミスリードする。

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