リバースメンタリングという取り組み
9月15日の日経新聞で、「資生堂、若手が幹部を指南 AIやトレンド伝授、延べ1000人が参加」というタイトルの記事が掲載されました。若い世代が年配者のメンターとなり、立場を超えて縦割り打破する取り組みということです。
同記事の一部を抜粋してみます。
ベテラン社員や先輩社員がメンター(指導や助言をする人)となって、若手社員特に新入社員の仕事やキャリアの相談に乗るメンター制度は普及しています。しかし、若手社員のほうがメンターになるメンター制度は聞き慣れません。同記事によると、米国発祥で行われ始めた取り組みのようです。
少し前から各所で言われている「1on1ミーティング」の、両者の属性が逆バージョンのもの、と言ってもいいかもしれません。たいへん興味深い取り組みだと感じます。
同記事からRMの意義について大きく2つ考えました。ひとつは、「年上に指導する/年上に教える」「年下に指導される/年下から学ぶ」ことに慣れるということです。
年齢が高く社会人経験も長い人のほうが、若手の人より教えるべきものを多く持っていると考えるのが一般的な構図です。しかし、すべての領域においてそうとは限りません。SNSやデータ活用などは、学生時代から自然に使いこなして今に至っている若手世代のほうが年長者の自分より詳しい、などはよくあることです。
また、どんな人であっても万能ではありません。不得意領域や弱み領域の要素があります。自分の手の届かない領域で強みを持ち合わせている人は、年齢に関係なく若手人材にもいるはずです。
私自身も現在、月に1回コーチングを受けていますが、コーチは自分より15歳ぐらい年下の人物です。とても冷静な視点、かつ私にはない視点で、いろいろな意見を打ち返してきます。純粋な「コーチング」というより「ティーチング」の性格もあわせ持つ場で、一方的に教えてもらうことも多いのですが、学びの深い場になっています。
しかしながら、私たちは「年下に指導される/年下から学ぶ」ということにあまり慣れていません。普段いろいろな企業に訪問する機会がありますが、「年下の話に耳を傾ける」「年下にマネジメントされる」ということへの抵抗が、組織活動の発展を妨げている話は、程度差はあれほぼすべての企業に当てはまる印象です。「年下からものを言われるのを嫌う」というのは、人間の本能と言ってもいいと思います。
「年上に指導する/年上に教える」も同様です。年齢は、マネージャーや指導者を務める上で、適任者となることを促すかもしれないひとつの要素に過ぎません。年齢が若い人であっても、それまでの時間の過ごし方で身につけたものが、ある環境下でのマネジメントや指導に有効な何かを持っていれば、マネージャーや指導者の候補となります。
しかしながら、部下や指導を受ける立場となった人が自分より年上の場合、思ったようにものが言えない人がほとんどです。RMがひとつの訓練の場となり、RM以外の場でも年上の人に対して意見を出しやすくなることが期待されます。
そのことが、そもそも普段の組織構造の中で上位者やマネジメント層に対して適切な意見を言えるようになる、年齢以外の多様性も受け入れて活かしていく組織的なコミュニケーション活動に波及していくと思います。
もうひとつは、「ルールにすることで促される」です。
私たちには「ルールにすることで従う」面があります。特は40代以上の人で、トップダウンの組織統治に慣れている人はその傾向が強いでしょう。
「若手から積極的に学べ、交流せよ」とスローガンのように叫ばれるだけでは、「年下からものを言われるのを嫌う」私たちはなかなか動けないものです。「若手から教えてもらう定期的な場をつくるのを、会社方針としてルールとする」と強制力を伴うことで、「ルールなら従わなければならない」となります。
最初は消極的な参加で始まっても、それが有意義な場であれば同記事のように活きた取り組みになっていきます。きっかけが「ルールによる強制力」というのは、有力な方法のひとつです。
そのうえで、1on1ミーティング同様、ルールにさえすればうまくいくというものではありません。年齢の関係から、一般的に取り組まれている上司+部下による1on1ミーティング以上にうまくいきにくい取り組みとも言えます。メンター・メンティー双方に対して、趣旨の丁寧な説明、年上の人に対する指導スキルなど、企業側の十分なサポートも配慮されるとよいと思います。
<まとめ>
年下のメンターを制度化するのもあり。
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