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組織内のエコーチェンバー現象

先日、ある企業様にて経営者をはじめ社員の皆さんと個別にお話する機会がありました。同社様では、経営陣と社員の間で溝がある感じです。そして、社員間においても派閥のようなものが存在しているようです。一般的によくある話ではありますが。

エコーチェンバー現象という概念があります。ウィキペディアでは次のように説明されています。要は、似た者同士がつながって思想が極端化していくことです。

~~エコーチェンバー現象とは、閉鎖的空間内でのコミュニケーションを繰り返すことによって、特定の信念が増幅または強化されてしまう状況の比喩である。比喩の対象となっているエコー・チェンバーとは、閉じられた空間で音が残響を生じるように設計・整備された音楽録音用の残響室のことであり、レコード会社のレコーディングスタジオなどに設置されている。

世の中には様々な人がおり、様々な意見を持った人と触れ合うことが出来る。世界に開かれたグローバルでオープンな場で、「公開討論」のような形で意見を交換し合うことができるコミュニティがある。一方で、同じ意見を持った人達だけがそこに居ることを許される閉鎖的なコミュニティもあり、そのような場所で彼らと違う声を発すると、その声はかき消され、彼らと同じ声を発すると、増幅・強化されて返ってきて、「自分の声」がどこまでも響き続ける。それが「エコーチェンバー」である。

「エコーチェンバー効果」とは、エコーチェンバーのような閉じたコミュニティの内部で、誰と話しても自分と同じ意見しか返って来ないような人々の間でコミュニケーションが行われ、同じ意見がどこまでも反復されることで、特定の情報・アイデア・信念などが増幅・強化される状況のメタファーとなっている。~~

そして、インターネット時代以降、このエコーチェンバーがますます身近になっていると言えます。インターネット上には、自分の考えとよく似た、あるいは自分が賛同できるような特定の見解をすぐに探し出せるためです。スマホで1回タッチするだけで「いいね!」したり「リツイート」したりできるシステムがあるので、自分と同じような興味・考え方の人との間で情報をやり取りすることになりやすいとされています。そういう人たちが寄り集まることで最終的に形成されるオンライン・コミュニティが「インターネットにおけるエコーチェンバー」であると指摘されています。

同社様とお話する中で、上記のことを実感しました。「社員からはこういう声もあるようだ」と社長に対して私のほうから切り出してみると、「いや、それはおかしくて、そういう風に誤認しないように普段からこういう説明をしていて・・・」と、違う意見が耳に入っていかないような拒絶反応が見られます。その声を採用するかどうかは別として、声が出ているというのは事実ですので、事実をまず認めなければなりません。社員に対して「社長からはこういう発言も聞いたが」と切り出してみても、同様の反応です。

社員の全般的な傾向として、普段属している派閥のメンバーとコミュニケーションをよくとっている一方で、他の派閥の人とはあまり交わっていないようです。「彼らとは考えが合わないんだよね」ということで、意見交換する行動も伴っていないわけです。経営陣の関係性の中でもいろいろとあるようで、経営会議をしても何も決まらないで終わり、ということも散見されると聞きます。

これらは、組織内部で起こっているとエコーチェンバー現象ということができるでしょう。コミュニケーション活動が、自分の信念や意見を肯定し合える人との情報交換に偏り、自分の信念や意見を増幅させその他を受け入れにくくするということです。信念や意見を強く持つこと自体は悪くはないと思いますが、それを省みたり新しいことを取り入れたりしないのであればやはり問題でしょう。

エコーチェンバー現象の悪影響を回避し、客観的な視点から自分の信念や意見を高めていくには、大きくは2つの要素が必要だと思います。様々な立場・多様な人の声を聞く機会を持つことと、それらの声を聴く耳を持つことです。

同社様は現在収益性が高い企業です。今の状況はよくないということで、私に第三者としての組織マネジメント支援を依頼されました。収益力があるうちにエコーチェンバー現象などとは一線を画したよい組織づくりを目指す必要性に既に気づかれているわけですので、今後の取り組みによって改善が期待できると思います。

エコーチェンバー現象を回避するために個人ができる一般的な取り組みとしては、自分が興味を持てない情報を取り入れる訓練をすることが挙げられるでしょう。例えば、新聞を毎日読む習慣がそれに当たります。世の中で起こっている出来事、知っておくべき重要なことと判断された事象を、興味がなくてもある種無理やり自分に取り入れる訓練をすることで、広い視野の思考につながります。新聞自体も、新聞社や記者の価値観に彩られているため完全な客観情報とは言えないでしょうが、情報の質としては高い方に入ると言えるでしょう。

<まとめ>
自分の信念や意見が意図せず増幅されないよう、様々な立場の声に触れる。


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