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定年制度の今後

6月23日の日経新聞で、「再雇用で給与減 様変わり」というタイトルの記事がありました。私も先般、ある企業様の再雇用制度の改修に参画していたことがありますが、これからの雇用について考える上で、シニア層の雇用制度は重要なテーマになると思います。

同記事では、事例としてTIS社の新制度内容が下記のように紹介されていました。

・定年を迎えた従業員に対し、現役時代と変わらない処遇を基本とする。
・具体的には、雇用期間は1年ごとに更新。会社への貢献による評価を徹底する前提で、基本給は定年前水準を維持、賞与や各種手当も定年前と同種を支給。
・従来の再雇用では年収は半減したが、新制度で40-50代よりも稼ぐ「スーパーシニア」が登場する可能性もある。
・定年も60-65歳の選択制にする。

私が先般参画した企業様の人事制度も、
・定年を60歳から65歳に変更(定年延長)。
・以前は、50代で基本給が減り始めて、定年にかけてピーク時の約33%減となっていた基本給を、ピークの据え置きに変更(減額なし)。
・会社への貢献を評価し次期の報酬に反映。
・定年後の報酬は、個別の貢献度と人材価値に基づいて個別に決定。
という感じの内容で、上記TIS社の事例と考え方の共通点が見出せます。

定年と年功型賃金は、日本の正社員制度の基本要素として多くの企業で取り入れられてきました。今でも、「60歳定年+65歳までの再雇用制度、賃金は50代に漸減」が主流です。定年制度は世界でスタンダードではありません。定年制度がある国もあれば、ない国もあります。米国や英国は年齢差別を認めない考え方から、かつては存在していた定年制度を廃止しています。カナダやオーストラリアなどにも定年制度は存在しません。

日本企業はこれまで、新卒一斉入社・特定の年齢での一斉定年によって、「メンバーシップ型雇用」(仕事内容・勤務地などを限定せず、会社に合致しそうな人を採用する「就社」)の考え方で人材登用してきました。成果創出が限定的な新人に成果以上の報酬を与え(貸し)、雇用を守る代わりに、晩年は報酬頭打ちとなり人件費を抑え、貸し分を精算して一定の年齢で退出して新陳代謝を促すものです。その結果、双六のあがりが見えた(あるいはあがった)シニア層のモチベーション・パフォーマンスダウンが問題となってきました。

しかし、シニア世代も貴重な人材力として活用する必要性から、TIS社のように見直しが行われています。私が参画した同企業様も、シニア層の不満・ローパフォーマンスが問題になっていました。そこで人事制度を上記の通り改修したところ、シニア層の活性化が見られています。効果を金額で正確に算出するのも難しいですが、シニア層の活性化による成果創出の向上は、従来以上の報酬を払うことによる人件費増加分を十分に上回るものであると、同社様も私も考えています。

他方、日本のシニア層の就業は他国より盛んです。労働政策研究・研修機構によると、2018年で65歳以上の働いている人の割合は、日本は24.7%となっています。米国の19.6%、英国の10.6%などを上回り、韓国やシンガポールなどと並んで高い割合となっています。おそらく理由としては大きく2つで、年金のみの生活への不安と、職場以上の人や社会とのつながりを得られる環境が見つけにくいためでしょう。このあたりは、年を取ってまで働きたいと思わず、貯蓄はすべて使い切って死ぬのが美徳と考える文化圏との、価値観の違いもあるでしょう。

「メンバーシップ型雇用」ではない、世界的に主流な「ジョブ型雇用」(担当職務を明確にした上で採用・勤務する「就職」)への切り替えを今後の課題とする企業が増えてきました。当然、ジョブ型雇用と、加齢に伴う一律の定年制度・役職定年・賃金の漸減などは相容れないものです。ジョブ型雇用の考え方を通すのであれば、何歳だろうと入社何年目だろうと同じ仕事の価値なら同じ賃金、何歳であっても賃金に見合うなら雇用するのが妥当、という仕組みが理に適っています。ジョブ型雇用への切り替えを検討するのであれば、定年制の廃止も同時に検討するべきでしょう。

以上のことから、今後のシニア層にとって下記が課題と言えそうです。

・いつ仕事を引退するのかは、制度に決められるのではなく自分で決める。
・ジョブ型雇用で価値を発揮できる強みを開発する。

<まとめ>
社会的に一律の年齢による定年制度は、今後ますます衰退する。

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