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採用活動で入社後の実態を伝える(2)

前回の投稿では、採用活動では応募者に対し、現場の実態をきちんと伝えるべきだということについて取り上げました。無理して入れても辞めてしまうだけでなく、次の候補者に悪影響を与えるためです。今回もその続きです。

3つ目の理由は、採用した人材が、低い労働生産性で自社にとどまり続けてしまう可能性があるため、です。この視点は、すぐに辞められてしまうことより、ある意味重大とも言えます。

6月30日のプレジデントオンラインで「日本人の「勤め先に期待しない割合」は世界最悪…経産省が「これはヤバい」と顔面蒼白になった衝撃データ」というタイトルの記事が掲載されました。経済産業省内に設置された「未来人材会議」がまとめたものに関する内容です。以下に一部抜粋してみます。

一番ショックだったのは日本企業の従業員エンゲージメントは世界でも最低の水準だというデータです。ギャラップ社の2021年の調査によると、従業員エンゲージメント(個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係がある従業員数の割合)の世界平均は20%ですが、日本はわずか5%でした。米国/カナダが34%、中国が17%、韓国が12%で、日本の低さは突出しています。

さらにパーソル総合研究所の2019年の調査によると、「現在の勤務先で働き続けたい人の割合」で、日本は52%と調査対象国の中で最低水準です。同じ調査では、転職意向のある人の割合は25%、独立・起業志向のある人の割合は16%で、やはり最低水準です。

つまり日本人は、自分の勤め先に不満があり、ずっと働き続けたいとは考えていないが、転職するつもりも、起業するつもりもない、ということです。

人材投資(OJT以外)のGDP比を比較すると、アメリカが2.08、ドイツが1.20、イギリスが1.06であるのに対し、日本は0.10です。また社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は、日本は46%でダントツに高い。諸外国との違いは歴然です。

それはなぜか。転職が賃金増加につながらず、また企業内での昇進も遅いからです。リクルートワークス研究所などの「転職前後の賃金変化の国際比較」によると、転職で給与が増えた人の割合は、中国が76%、アメリカが55%であるのに対し、日本はたったの23%です。

さらに、日本は課長の昇進年齢が38.6歳、部長の昇進年齢が44.0歳ですが、アメリカは課長34.6歳、部長37.2歳、タイは課長30.0歳、部長32.0歳です。また、別の調査では、日本企業の部長の年収は、アメリカはもちろん、タイよりも低いことが示されています。

上記のギャラップ社のデータは、いろいろなところで引用されています。個人的には、以前投稿した「日本人社員の熱意のなさはどの程度なの」で考えてみた通り、上記の%を額面通り認識してよいかは、疑問の残るところです。しかしながら、今私たちが身を置く環境に関する課題を表しているのは、間違いないと思われます。

上記を参照すると、自社というバスに乗るべきでない乗客が入ってきたとして、出ていくことなく、エンゲージメントの低い状態で、不満を持ちながら、淡々とバスに居続けることになる可能性も高いわけです。このような場合の生産性が、高いはずがありません。

適切でない人をバスに乗せたことで、適切な人を新たに雇う予算が取れなくなり、低い生産性のままバスを進めていかないといけない。これでは負のサイクルが回るだけです。これから新たに採用する人を、職場の実態を隠してまで無理に引き入れる意味はないと言えると思います。

私たちの考えるべきは、仮に今すぐ頭数を増やせないとしても、今バスに乗っている人材に投資も行って生産性を上げ、適切な人を選んで採用し、人材に関する正のスパイラルを回していくことだと思います。回りきるまでは苦しいですが、安易な頭数確保よりも、そのほうが妥当な視点ではないでしょうか。

上記によると、典型的な日本企業の44歳の部長の年収は、典型的なタイの企業の32歳の部長の年収をすでに下回っているというイメージになります。このあたりも、対応しないといけない課題だと言えそうです。

同記事には、次のような内容もありました。人材投資に関する課題を示唆していると思います。

かつての日本は、新卒を一括採用することで「求められるものを安く大量に作れる人材」を多く育ててきました。それが世界経済における強みになっていたわけですが、いまは逆に弱みになってしまっているのではと感じます。

いままで通り求められるものを安く大量に作っているだけでは、2030年、2050年に経済競争の土俵に立っていることはできません。これからは、一人ひとりのアイデアや行動力がより試される時代になっていきます。そこで求められる人材も従来とは大きく違ってくるでしょう。ゲームに例えるなら、もはや高度経済成長期とはルールもプレイヤーもまったく変わっている。

海外を見渡すと、多くの企業はこの「新しいゲーム」にすでに対応しています。私が思うに、日本は1980~1990年代の成功体験が強烈すぎて、それゆえそのやり方から抜け出せないのではないでしょうか。

本来、日本人は熱心に働くのが特徴で、イノベータースピリッツや上昇志向も持ち合わせていました。もともとの国民性や能力から言えば、海外企業に太刀打ちできないはずがありません。時間はかかっても、新しいゲームに対応できるマインドを養っていくことは可能だと考えています。

経営戦略と人材戦略がしっかり紐づいているかどうか、そこに企業の命運がかかっていると認識していただきたいと思います。多様な人材の採用や育成、賃金アップなど、人材にかかる資金は、カットする対象の「コスト」ではなく、投資する対象である「アセット」として見るようマインドを変えていっていただきたいですね。これは、私たちがいちばん訴えたいメッセージでもあります。

<まとめ>
自社にとっての適切な人を採用し、人材投資を行い、人材に関する正のスパイラルを回していく。


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