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採用活動で入社後の実態を伝える

先日、ある中小企業の経営幹部の方から次のような質問を受けました。「採用で苦戦している。現場のありのままの実態を伝えると、応募者がひるんでしまいそう。厳しい現状はある程度伏せておき、良さげなことも言わないと人が寄り付いてこない。かといって、無理して入れてもやめてしまう。実態をどの程度伝えるべきなのだろうか。」

今の採用市場はたいへん厳しいものがあります。同じような悩みを抱えている会社も多いことと思います。私の意見としては、シンプルで、「実態はすべて伝えたほうがよい」です。実態を隠して勧誘し、本人の意思や適性に反して仕事をさせるのは、人材マネジメントの本質ではないからです。

このこと自体は、以前から変わらない原理原則ですが、以前にも増して大切になっていると考えます。その理由は大きく3つあります。ひとつは、入社前後のギャップを拡散されるためです。

以前と違って、今ではSNSを経由して誰でも発信者になれます。入社前に見聞きしていた情報と実態が大きく違ってそのことに不満を持ってしまうと、転職口コミサイトなどでその不満を簡単に発信されてしまいます。(「予想していた以上によかった」という、よい方向でのギャップはもちろんプラスになりますが)

グルメサイトなどと同様に、いち労働者の生の声は、次の応募者の志望動機に大きな影響を与えます。ひとりの不満は次の複数人の候補に悪影響を与えて、さらに応募が減るという悪循環が続きます。

「長期的視野を大切にする」と言い換えることもできます。目の前のひとりを確保するために、未来の多数を犠牲にする短期的視野では、長期的な組織の発展や人材マネジメントがなりたちません。

前回まで、数回にわたって転勤や配置転換をテーマに考えました。例えば、配置や職種が変わらないと聞いていたのに変わるなど、入社前に聞いていた条件と実態が異なると、本人にとっての大きな不満要因になります。業務や勤務地の範囲の明示を義務化するように、国が労働基準法や関係省令の改正に向けて動いているのは、このようなことの発生を防ぐ目的もあると言えます。

2つ目は、無理して入れても逃げられてしまうためです。

全社会的に終身雇用全盛で、転職市場が未発達だった以前の時代であれば、簡単に会社を辞めるということができませんでした。つまりは、「一度入れてしまえば、採ってしまったもの勝ち」になりやすかったと言えます。

転職市場がある程度発達した今では、その気になれば簡単に辞めることができます。加えて、環境的に採用難で、求人案件に溢れています。ごまかして入れても、以前ほどの意味がないわけです。

ある採用エージェントの方のお話では、「今の新卒世代は、(いいか悪いかは別として)新卒で会社を選ぶときからセカンドキャリア(次の会社や次のキャリア)を考える人が多い。転職は履歴書の傷ではなく、箔が付くと考える人すら多い」そうです。このような人たちにとっては、入社後に理不尽なマイナスのギャップのある環境で、苦行のように勤続する意味はないでしょう。

ある企業様では、本社の管理部長が自らインターンの受け入れ現場に出向いて、学生に密着しているそうです。「これだ」と思った学生に対して、現場で一つずつ説明しながら、車での移動中も会社のあらゆる実態について(もちろん機密情報などは除き)説明し、あらゆる質問に答えています。

同社様では肉体労働を伴う、厳しい職場環境なのですが、そうしたプロセスを経て納得して入社してくれる学生が一定数いるようです。入社後の離職もゼロではありませんが、以前に比べるとずいぶん改善したと言います。私たちが目指すべきは、聞こえの悪そうな実態をオブラートに包んで伝えることではなく、同社様のような取り組みではないでしょうか。

続きは、次回以降のコラムで考えてみます。

<まとめ>
実態をきちんと伝えることは、長期的視点で対応するということ。

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