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「働きがい」という無形資産への投資

12月8日の日経新聞で、「「働きがい」で出資を判断 人間関係など9項目分析」というタイトルの記事がありました。ベンチャーキャピタル(VC)のニッセイ・キャピタルが、投資先への追加出資で、社員が持つ仕事や会社に対する熱意(エンゲージメント)を判断基準に取り入れるというものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~現状で追加出資を決める際は投資先の業績や潜在成長力、経営者のリーダーシップなどを基に判断している。これに2022年からエンゲージメントの観点を加える。国内の機関投資家で異例の取り組みだという。

新規の投資先のうち、事業を拡大する「ミドル」や上場直前の「レイター」と呼ばれる時期にあるスタートアップを対象とする。年間で6社前後になる見通しだ。創業から間もない「シード」や「アーリー」の企業は社員数が少ないため対象外とする。

ニッセイ・キャピタルの安達哲哉社長は「企業の成長性を判断する上で、売上高など財務指標は一部の情報でしかない」と指摘する。成長途上のスタートアップは営業担当者やエンジニアなどを増強しながら事業を拡大する。「経営陣の目が届かない範囲が広がることで、離職が増えたり、営業成績が下がったりする傾向がある」(安達社長)とみる。

こうしたエンゲージメントの変動を見極めるため、アトラエの「Wevox(ウィボックス)」を活用する。アトラエが19年に調べたところ、エンゲージメントの数値が高い社員は営業成績が優れている傾向があったという。

具体的にはまず、投資先の社員に「職務内容にやりがいを感じているか」「会社の事業戦略や方針に納得しているか」といった32個の設問について、それぞれ7段階で答えてもらう。結果を基に人間関係や職務との相性など9項目を0~100点で表示する。その後も定期的に同じ調査を繰り返し、社員のエンゲージメントの動向を把握する。数値が低い企業に対しては経営陣の認識を確認し、改善策を聞き取る。業績など他の項目と合わせ、追加出資するかどうかを最終判断する。

生命保険協会が4月に公表した調査結果によると、中長期の投資・財務戦略で重視する項目として「人材投資」を挙げた投資家は67%に達した。9つの選択肢のなかで最も多く、「IT投資」(66%)や「研究開発投資」(63%)などを上回った。人的資本に対する関心は高まっており、「エンゲージメント投資」は今後も広がる可能性がある。~~

エンゲージメントが高い組織は生産性や業績が高いということが、様々な調査結果から報告されています。日本の人事部によると、エンゲージメントについて次のように説明されています。

~~「エンゲージメント(engagement)」は、「婚約、誓約、約束、契約」を意味する言葉です。ここから派生して、人事領域におけるエンゲージメントでは「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」という意味合いで使われています。

その根底には「個人の成長や働きがいを高めることは、組織価値を高める」「組織の成長が個人の成長や働きがいを高める」という考え方があります。このように、企業と従業員の結びつきが強い状態を指して「エンゲージメントが高い」と表現されます。~~

冒頭の記事では、創業から間もないステージの企業は対象外とし、事業を拡大するステージの企業を対象にするとあります。理由として、創業直後の企業では社員数が少ないことを挙げていますが、それだけではないと思います。創業直後は、メンバーが目的意識をひとつにして、必然的に固いエンゲージメントで結ばれているために、わざわざ見極める必要もないのでしょう。それが事業拡張期に入ると、当初の目的意識も分散しやすくなり、新規のメンバーも増えてきます。エンゲージメントが維持発展できるかは、そのステージで真価が問われるのだと思います。

同記事に関連して、2つのことを考えました。
ひとつは、無形資産を先行指標として評価する重要性です。

企業には目に見える有形資産と目に見えない無形資産があります。無形資産は形として確認できないため、無形資産に投資してもそれが価値ある投資になっているかわかりにくいという面があります。そして、今すぐには結果が形になりにくいため、優先順位がどうしても低くなりがちです。しかし、中長期的に組織の競争力を分けるのは、無形資産の価値の高さにあります。

日本企業が人材育成や研究開発など、すぐに形にはならない無形資産への投資で他国企業に見劣りしてきた現状について、これまでも過去の投稿で取り上げたことがあります。それがそのまま、何年・何十年もかけて各種国際ランキングでの順位を落とすなど、競争力の減退につながってきた経緯があると考えられます。

このことは、個人の生活でも同じです。私たちは、家、車、家電など効果が分かりやすいものにはお金を使おうとします。他方、健康、自己啓発など、効果がわかりにくいものにはお金を使うのを躊躇しがちです。しかし、中長期で豊かなライフキャリアを送ることを目指すなら、そうした無形資産に日常的・継続的な投資をすることが重要であると、いろいろなところで言われています。

無形資産への投資が生み出している効果については、測りにくいものがあります。特に、人材投資はその代表格です。これについては、何らかの定性的な切り口から最終的に定量化することが望まれます。

冒頭の記事の事例もそうです。「会社の事業戦略や方針に納得しているか」という設問に対してどのぐらいそう思うのかは、個人の主観に基づくものです。それを7段階で答えてもらって100点満点でスコア化したり、変化の度合いを定点観測したりして、定量的な評価に変える工夫をしています。「定性の定量化」であるため、どこまでいっても実態を正確に計測しているという保証はありません。しかし、その結果が対象となる組織の本質を表しているだろうとみなすわけです。この「みなし」を、組織の今後の発展(もしくは衰退)を示唆する先行指標だと捉えて、結果を活用するべきだというのが、冒頭の記事の示唆だと考えます。

同記事では、投資家がこれから注目する要素として、無形資産で先行指標の人材投資を挙げているとあります。上記の考え方は、今後わたしたちの事業活動でますます必要になる視点ではないでしょうか。

2つ目については、次回以降に取り上げてみます。

<まとめ>
無形資産の拡充を先行指標として評価し、積極的に投資する。


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