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「この会社で仕事をする理由」を明確にする

先日、ある企業様での打合せで、「仕事に対する社会的承認」が話題になりました。
同社様は、社会のインフラを支える資材を供給する事業に取り組まれています。コロナ禍の影響は受けたものの高収益を保っていて、一般的には優良企業に当てはまる企業です。ミッション(経営理念)もしっかりとした内容のものが確立され社内で浸透しています。社内の各種仕組みづくりにも熱心で、従業員の人材育成支援のための施策もかなり充実しています。

他方で、打合せではビジョン(中長期目標)の明確化で課題感が大きいことに言及しました。将来的に事業や組織がどういう状態に到達しているのを目指すのかが、あまり明確に描けていないということです。

加えて、従業員の皆さんが取り組まれている仕事が、お客さまを通じて社会にいかに貢献できているかの実感(社会的承認の充足)が弱いのではないかと問題提起しました。背景として、これまでお話したことのある幹部社員を含めた従業員の皆さんから、そのような事象や印象を見聞きしていたということがあります。

すると、社長からは「自分たちの事業や仕事の社会的意義をあまり言葉に出してこなかったと思い当たるところがある。その点については大いに反省がある」とのコメントがありました。

「仕事の動機付け」や「モチベーション」は、いたるところで話題にも課題にもなります。何に仕事のやりがいを見出だすかは、最終的には人それぞれです。そのうえで、自分たちが取り組んでいることが社会にいかに貢献しているかを実感できること(社会的承認の充足)が、個人の価値観を超えて共通の土台になるべきものだろうと、私は思います。

書籍『誰にも負けない努力』(稲盛和夫氏著)の第6章「組織を生かす」にある「仕事の意義を説く」の項目で、従業員の皆さんに仕事の意義を語り掛けることの大切さについて触れられています。

~~粉をこねたり、形をつくったり、毎日毎日単調な仕事だと、皆さんは思っているかもしれない。単純に見えるけれども、(中略)こういうものに使われる可能性があります。社会的に大変な意義があるんですよ。(中略)ただ単に「乳鉢でこの粉をすりなさい」というふうにしてしまえば、全然面白くありません。~~

別のある企業様では、「うちの製品が止まると社会が止まる」をスローガンにして、従業員の皆さんに目の前の仕事の意義、お客さまからいかに喜ばれているかを繰り返し刷り込んでいるそうです。この頃になって、その結果が日々の仕事の様子で表れているように感じられるようになったと、同社社長は言います。

サービス業の最前線にいて、商品・サービスの提供でお客さまと直接的な接点のある立場の仕事であれば、相手の反応を通して、目の前の仕事がいかに社会の役に立っているかが実感しやすいです。例えばテーマパークの従業員が生き生きしていると話題になりやすいのも、この点が要因のひとつと言えます。

一方、サプライチェーンの途中の工程で仕事をする立場の人は、なかなかそのような実感が持ちにくいものです。そこで上記企業様では、「うちの製品が止まると社会が止まる」というスローガンから、目の前の小さな作業にも社会的意義を感じてほしいという思いなのでしょう。

ミッションやビジョンを、目の前の作業レベルの仕事にまで関連付けて考えることのできる従業員は、一部の幹部社員などを除いてほとんどいないと思います。特に、直接お客様と面談や交渉をする機会のない部署の従業員の場合は、その傾向がより強いはずです。目の前の作業がどのようにお客様に評価されて喜ばれているか(あるいは改善を要望されているか)について、しっかりフィードバックし続けなければならない。上記書籍はそのことを示唆していると考えます。

キャリアビジョン・キャリア開発を重点テーマとして、組織的な取り組みをしている企業も多いです。会社に依存せず個人で自律してキャリアを歩んでいけるようにするための機会づくり、スキル開発は重要ですが、それだけで豊かな職業生活を送れるわけでもないと思います。少なくとも、「この会社で仕事をする理由」はまた別のところにあるはずです。

「この会社で仕事をする理由」を組織としていかに発信することができているか。働き方や雇用形態の自由度が高まるからこそ、より一層重要になってくる要素だと言えるのではないでしょうか。

<まとめ>
目の前の小さな作業にも、「その作業を通した社会的意義」を感じられるようにする。


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