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無形資産の形成

9月8日の日経新聞で、「アベノ無形革命 道半ば」というタイトルの記事がありました。トヨタ自動車が初めて、工場や土地などの有形資産とは別に1兆円を超す無形資産を貸借対照表に計上した、安倍政権も無形資産を増やすことを目指したが成果が上がっていない、という内容です。

同記事では、次のように紹介されています(一部抜粋)。

「アベノミクス後、確かに上場企業の自己資本利益率(ROE)は8%超に改善した。設備投資や研究開発費も大幅に増えたが、バランスシートから見えてくるのは有形資産の合計が80兆円近く積み上がったのに対し、無形資産は40兆円強の増加(いずれもQUICK・ファクトセット)にとどまった現実だ。

第2次安倍内閣発足の12年12月26日と首相退陣表明の20年8月28日を比べると、日本がトヨタ、世界は米アップルでトップ企業は変わっていないが、トヨタとアップルの差はほぼ10倍に開いている。

アップルに限らず、世界の上位企業に共通するのはソフトウエアやアルゴリズム、著作権、デザインなど無形資産を巧みに企業価値につなげている点である。だからトヨタが無形資産に関心を寄せ、重心移動を始めたのも、GAFAなどと真っ向から競う必要性を感じたためであるはずだ。」

つまりは、無形資産を重視した経営をしていくべきだという主張です。
「マネー用語辞典」では、無形資産について次のように説明されています。

「物的な実体を伴わない資産。特許や商標権、著作権といった知的資産、従業員の持つ技術や能力といった人的資産、企業文化や経営管理プロセスといったインフラストラクチャ資産などがこれに含まれる。実体を伴わないことから無形資産の評価は難しく、バランスシート(貸借対照表)には計上されにくい。」

評価が難しく、バランスシートにも表れにくいということは、逆に言うと取り組む優先順位を下げられがちということになります。例えば世界の上位企業による、人的資産や企業文化を育てることへの時間・お金の投資レベルは、やはり高いと言われています。日本企業の従業員一人当たりの教育研修費用は、この30年間ほとんど変わっていません。この間他国企業では軒並み人材開発投資を拡充してきました。その差が、上記記事内容のような結果の一因をつくっているのかもしれません。

また、無形資産の重要性は、企業だけではなく個人においても同様でしょう。
『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン著、アンドリュー・スコット氏著)では、人生100年時代になることを踏まえ、今後の私たちにとって無形資産が重要であることを訴えています。同書では、無形資産を3つの要素で説明しています。

1.生産性資産:所得を得るためのもの。主に仕事に役立つ知識やスキルのこと。
2.活力資産:心身の健康を維持するためのもの。健康や、良好な家族・友人関係のこと。
3.変身資産:変化に柔軟に向き合うためのもの。変化に応じて自分を変えていく力のこと。

この考え方を参考にすると、得た所得を物的な有形資産の購入や浪費のためにすべて使い切り、無形資産への投資をしないという生活スタイルは、今後の環境下で豊かな人生を送るためには相性が悪いということでしょう。これからの人生戦略を考えると、無形資産に一定の投資を続けることを習慣化できたほうがよさそうです。

私は仕事を通して、企業経営者や投資家の方にお会いする機会がよくあります。経営や投資で成功している方の共通点として、所得や時間の多くを無形資産形成のために投入していることが挙げられそうです。さらには、所得や時間の何%を無形資産形成に充てるなど、自分や自社なりの投入ルールも決まっている方が多く見られます。売上の〇%を無形資産の研究開発費に充てる、利益を削ることになっても原則としてはそれを徹底する、などができている企業の方が、そうでない企業よりも中長期の競争力は当然優位となります。

無形資産形成に意欲的な組織に、無形資産形成に意欲的な個人が惹かれて集まり、お互い共通の目的のもと最高の仕事を目指す。そのような企業をつくることができれば、最強でしょう。

<まとめ>
得た売上や所得から一定の割合で、無形資産投資を継続的に行う。


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