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レジで座っての接客を考える(2)

先日、店舗を運営する企業の経営者様から、次のような話をお聞きしました。

「これまでは、従業員の染髪やマニキュアを禁止してきた。それらが自社の接客サービスのあり方に合っていないと考えてきたため。しかし、最近容認に転じることにした。そのままだと採用ができないから」

6月15日の日経新聞で、「スーパー店員 髪色自由に サミットやマルエツ、個性尊重し人材確保へ」というタイトルの記事が掲載されました。一部抜粋してみます。

スーパー各社がパートやアルバイトなど従業員の髪色やアクセサリーなど身だしなみの規定を相次いで緩和している。小売業の人手不足は深刻な状況だ。働き手の個性を認める働きやすい環境整備を急ぎ、人材確保につなげる。

東京を地盤に食品スーパー約120店舗を展開するサミットは、5月からパートやアルバイトを含む全従業員を対象に身だしなみ基準を大幅に緩和した。従来は自然色、染める場合はやや明るめの11程度の色調までとしていたが、原則自由とした。金髪や髪の内側のみを染めるインナーカラーも新たに認めた。ヘアネット付きの帽子の着用で赤や青などの原色も可能とした。

従来は禁止していたマニキュアを認め、つけまつげやカラーコンタクトの着用も自由とした。「清潔感や安心感があり、接客に支障が出ないこと」(同社)としながらも従業員の個性を尊重する姿勢だ。服部哲也社長は「以前は大学進学時に髪を染めるため、アルバイトをやめてしまう人がいた。緩和で採用や離職防止に効果がある」と話し、新規採用や人材つなぎ留めにプラスの効果が出ることを期待する。

イオン傘下で首都圏約300店舗を展開するマルエツは6月から、髪色やアクセサリーの装着を自由とした。

また従来は、制服であるエプロンの下に着るインナー類は白い襟付きのシャツやブラウス、ボトムスは紺や黒のスラックスと定めていたが、上は自由とし、下も長ズボンであれば自由とした。Tシャツやジーンズでの勤務も可能とするなど服装基準を大幅に緩めた。

従業員が集まらないから規制を緩和するという視点も大切ですが、本質は別のところにあると思います。それは、お客さまが何を求めているか、その規制やルールがお客さまにとって価値があるか、です。

別の話題に移りますが、6月24日のNHKニュース(おはよう日本 7:00~)で、「“座って働く”で負担軽減」という特集が放送されました。これまで立ち仕事が当然と考えられてきた業務に「いす」を導入し、身体にかかる負荷を軽減する取り組みをしている企業への取材を内容とした特集でした。

同特集での説明内容やインタビュー内容から、一部紹介してみます。

大手ディスカウントストアで、一部の店舗にレジで座るいすを導入した。使い方はそれぞれの従業員に任されている。買い物客が途切れた合間に座る、座ったまま接客するなど。

従業員「ちょっと年齢が高いのですごく楽。4~5時間立った状態でいるのと座れるのとでは、ずいぶん気持ちも違う」

従業員「お客様の目が気になったりとか、立って当たり前の仕事だと思っていたので、すごく抵抗があったが、今では、ないと困るくらい重要」

当初は従業員から慎重な意見もあったというが、導入後に客から寄せられた声のほとんどは好意的なものだった。

買い物客「私も接客業をしているので、いすがあれば膝に負担がないのがわかる。従業員さんの負担が減るならいいことだなと思う」

買い物客「座って失礼とか、そういうのはない。全然問題ない。違和感はない」

このいすは、大手就職情報会社がいすメーカーと共同で開発した。現在小売業中心に9社導入済み、45社が今後導入予定。座面が斜めに傾いているのがポイント。お客さんの目線が気になることを考慮し、背筋を伸ばした姿勢で座れるようになっている。

先日の投稿でも、同じテーマについて考えました。同番組では大手就職情報会社の社名までは紹介されませんでしたが、その内容から、おそらく先日の投稿で取り上げたマイナビではないかと想定されます。

先日の投稿では、「5月時点で6社・35店舗に100脚程度のイスを設置」と紹介していました。同じマイナビだとすると、5月以降導入先企業がさらに3社増えて9社になったということになります。今後、「従来の立ち仕事が、座り仕事に変化」「そのためのいす」はさらに普及していきそうな気配です。

印象的だったのが、同番組中でインタビューに答えた従業員の多くが、茶髪や金髪など染色をしていることでした。冒頭の経営者様のお話、冒頭の記事に通じるものを感じました。

同番組で紹介されていた買い物客の反応(全員がそのような反応なわけではなく、好意的な反応を中心にサンプルとして取り上げられている可能性もありますが、その点はここでは考慮せず)を参照すると、次のように仮説づけられるかもしれません

・この店の店員が座って対応しても違和感なく、サービスにも影響しない
・この店の店員が染髪であっても違和感なく、サービスにも影響しない

服装や髪形などのルールをどうすべきかは、ブランド戦略などにも関連する要素です。ユニフォームや統一規格の髪形などが、自社が自社の顧客に提供する商品・サービスにおいて軽視できない重要な要素であるなら、そうした方針は有効だということになります。そのうえで、そうした方針を受け入れられる人材を選んで雇用する必要もあります。

一方で、商品・サービスの提供においてほとんど関係ない要素であるなら、服装や髪形などのルールはあまり縛る必要がないということになります。

そのうえで、同番組で紹介された従業員の声からも、お客さまが必ずしも求めていない髪形などの容姿や立ち座りなどの姿勢について、従業員の側のほうが過度に気にしている可能性も感じられます。

同番組では、座って働くスタイルが小売業以外の職場にも広がっているとして、山形県で公共事業の工事現場などの警備を請け負っている警備会社の取り組みも取り上げられていました。その内容を一部紹介してみます。

体力的な理由による退職を食い止めたいとして、折り畳み式のいすを4年前に20脚あまり導入した。いすの導入によって実際に離職率が減っている。

従業員「ずっと立っていると全体的に疲労はたまっていく。足もむくむ。腰痛とか、そういったことが続くと、この仕事を続けられるのか不安がよぎる」

トラック誘導は立って行う。それ以外の時間はいすに座って(設置した簡易パラソルの下で)警戒業務を行う。

従業員「少しでも座ることで足や腰の疲労は抜ける。年齢とともに体力が落ちるが、年齢を重ねても続けられる仕事かなと思う」

最も注意しているのが安全面。工事現場の図面を使って、いすを使っても問題ない場所を慎重に選ぶ。

役員「座ることを優先し現場の安全や身に危険が及ぶようでは本末転倒。現場の皆さんの安全第一。いろんな警備会社が取り入れてもらえると、この業界全体の働き方の定義が変わっていく。社員が長く続けられるということは、安全産業のサービスの提供を持続可能なものにできると思う」

いすを導入して2年。座って働くことへの理解が取引先企業にも広がっている。

警備を発注した建設会社「なんで今までなかったのかな。だって絶対つらいと思う、立っているの。目玉焼きが焼けるぐらいの暑さになる。そういう所で立ってもらっているので。うち(発注元)としては別に問題ない」

キャスター「同年代と話していると、我慢は美徳という考え方は見直す時期に来ているんじゃないか、という声を聞く。疲れたらミスも出る。こういう取り組みはサービスを提供する側、受ける側にとってメリットがあるのではないか」

ここでも、その我慢が、相手や社会、自社、あるいは自身の将来にとって意味のある我慢かどうか、がポイントだと考えます。上記の取引先建設会社の評価も参照すると、同工事現場ではこれらのうちいずれも当てはまらないようです。

そのうえで私たちは、「なんで今までなかったのかな」に象徴されるように、形になって現れると気が付くことも、形になるまで気が付かない=そうでなくてもいいことをそうでなければならないと思い込む固定観念に縛られているものです。

労働力不足への対応が迫られているという状況は、お客さまが何を求めているか、その規制やルールがお客さまにとって価値があるか、という観点で、常識とされてきた慣習を見直してみるよい機会かもしれません。

<まとめ>
お客さまが求めている本質が何かから考える。


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