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レジで座っての接客を考える

5月16日の日経新聞で、「「レジは座って」接客改革 人材確保へ身体的負担減」というタイトルの記事が掲載されました。「レジの従業員は立って接客するものだ」という、長年定着していた固定観念を覆して、レジに作業用のイスを設置する取り組みについて取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

5月上旬、ベルクのすねおり店(埼玉県鶴ケ島市)を訪れると、目に入るのはレジの各列に置かれた黒いイス。深々と腰掛けている人もいれば、使わずに立ち仕事をする人もいて、その割合は半々だ。同店の担当者によると「手が空いた時に座って一息つくなど、上手に活用している人が多い」という。

ベルクは2023年12月~24年2月に、3店に計約30脚のイスを設置した。23年に社員が米国大手スーパーを視察した際に着想を得たという。他国に目を向けると、欧米だけでなくお隣の韓国でも座って接客する店舗が増えている。

人手不足が深刻化し、生産年齢人口が減少するなか、広報担当者は「シニアや腰痛を抱えた人も働きやすい環境づくりを今のうちに進めておく必要がある」と話す。

ベルクの特徴的な経営戦略の一つが、店内レイアウトや接客基準などを標準化していることだ。最適な運営方法を迅速に全店展開し、経営効率を高めている。24年2月期の従業員1人当たりの売上高は3702万円で、同業他社の22年度の平均と比べ1.28倍の生産性を実現した。

イスの導入も生産性を高める「テスト」の一つと位置付ける。実際に従業員からは「体が疲れにくくなった」「取り組みを継続してほしい」といった声が上がる。気になるのは買い物客の反応だが、否定的な意見は少ないそうだ。今後は他メーカーのイスも比較検討しつつ、導入店を拡大していく方針。

マイナビは3月中旬、立ち仕事のパートやアルバイト、雇用主を対象とする意識調査をした。「立ち仕事からくる肉体的な要因」で辞めた経験があるパートやアルバイトは5人に1人(19.7%)。一方、座っての接客を許可しない理由を雇用主に尋ねると、最も多い33.8%が「お客さんからの印象の悪化を防ぐため」と答えた。

レジなどでイスが普及すれば、約2割の人材の離職を防げるかもしれない。だが、個社の努力では社会の意識を変えるのは難しい。マイナビは機運醸成のためのかじ取り役を担う。
同社は今春、「座ってイイッス PROJECT」と題したプロジェクトを始めた。

求人情報サイト「マイナビバイト」に掲載する企業などに専用のイスを導入。従業員への効果を調査し、消費者の声を雇用主にフィードバックする。求人メディアが主導することで「他企業の事例も理解しやすくなり、導入のハードルを下げられる可能性がある」(同社)とみる。

プロジェクトにはディスカウント店の「ドン・キホーテ」、ドラッグストアの「トモズ」など様々な業種が賛同する。5月時点で6社・35店舗に100脚程度のイスを設置した。飲食や小売りを中心に120社以上からの問い合わせもある。

店員の身体的な負担が減れば、それだけ丁寧できめ細やかなサービスを受けられる。消費者の発想の転換が長年の商慣習を変える原動力となる。

5月24日のヤフーニュースでも、「「立ったままの接客」厚労省が実態把握へ 椅子の設置、実は義務」という類似の内容の記事が掲載されました。一部抜粋してみます。

スーパーマーケットのレジ打ちなどで「立ったままの接客」を強いられていることについて、厚生労働省は24日、事業者にヒアリングをして実態把握に乗り出すことを明らかにした。

厚労省の労働安全衛生規則では、労働者が就業中にしばしば座れる機会がある時、休息のための椅子を置くよう事業者に義務づけている。しかしスーパーなどの接客業では、労働者が椅子の設置を求めても「座ることを許可していない」などの理由で事業者側が拒否するケースがある。座ったままのレジ打ちは海外では一般的だが、日本では普及していない。

労働組合「首都圏学生ユニオン」の有志らでつくる「座ってちゃダメですかプロジェクト」がこの日、厚労省に対し、規則を事業者に周知するなどして改善するよう要請。厚労省側が実態を把握すると答えた。

プロジェクトメンバーの大学4年、茂木楓さん(22)はスーパーでレジ打ちのアルバイトをしており、2年前から店側に椅子の設置を要望。当初は「客の目や世論が課題」と難色を示されたため、店の前で客にアンケートをとると「ほぼ100%賛成してくれた」という。その結果、試験的に椅子が設置されたが、社内アンケートで反対意見が多く、導入は結局見送られた。

両記事から2点考えてみます。ひとつは、お客さまの立場に立った本質は何かという視点です。

国が義務化しているということは、労働者の就業環境のためにはそのほうが望ましいとみなしているということです。もし椅子を設置しないとするなら、その義務に背いてでも設置しないことが正当化されるぐらいの、立つことに対するお客さまによるニーズや、立つことによりお客さまに提供できる便益があるという理由が存在しているはずです。

しかし、上記2つの記事の範囲内からは、お客さまの視点からはあまりそのことが当てはまらないように見受けられます。限られた範囲内の調査であり、店舗の性質によっても結果が異なる可能性もある前提ですが。

それがお客さまにとって意味のあることなのか。次に、それを自社が持続的に行うことができるか。立ったままのレジ打ちも、これらのことを本質的に考えたうえで、採用するかどうかを決める、という流れになるべきです。まず、それがお客さまにとってどのような意味があるのかを、おさえられているかどうかだと思います。

上記記事に「お客さんからの印象の悪化を防ぐため」という回答内容がありますが、そもそもそのことによって印象が悪くなるのか、ということです。

ヤフーニュースに対するコメントの中には、「欧州ではレジ係は皆座って仕事をしている」「日本はどうでもよいことに対して厳しい。何事も形から入るというのは理解できるが、礼儀を厳格に求められる職業は多くはない」「レジは支払いをする場所であり、対応と挨拶が普通にできていれば、立ち座りは問題ないだろう」といったような内容も散見されました。

お客さまが100人いれば100通りの意見が出てくるかもしれません。そのうえで、自社がだれに対して何を提供したいかを明確にし、少数意見をどこまで踏まえるべきかの判断も必要になってきます。

もし自社の提供するサービスにおいて、お客さまにとってあまり意味がないのであれば、見直しを考えるべきでしょう。

2つ目は、思考停止していないかという視点です。

自組織なりに検討し、自組織としての解を見出したうえで、「やはり立ったままの接客とする」と結論づけるならそれもひとつの正解です。

しかしながら、上記ヤフーニュース記事の事例では、お客さまの声というある程度のエビデンスがありながらも「下手に慣習を変えて波風立つと厄介だから、現状維持のほうが無難」という思考停止に陥っているのではないかと想像してしまいます。(もしかしたら、本質的に考え抜いたうえでの現状維持かもしれませんが)

現状維持を標榜する思考停止が文化として固着している組織があるとするなら、椅子の設置だけではなく、おそらくその他のテーマや課題についても同様に思考停止している可能性が高いものです。

・お客さまの立場で本質的に考えているか。当たり前だと思っていたことが、実は本質からずれていないか
・安易な現状維持志向で思考停止していないか

自社や周囲に置き換えて、振り返ってみたい視点です。

<まとめ>
そのことがなぜ必要か、本質的に考えてみる。

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