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現預金の貯蓄と支出のバランスを考える

3月18日の日経新聞で、「成長なき預貯金滞留 家計金融資産、初の2000兆円台」というタイトルの記事が掲載されました。預貯金を中心に、家計の金融資産が増え続けているという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~日銀が17日発表した2021年10~12月期の資金循環統計(速報)によると、21年末時点での家計の金融資産は前年同期比で4.5%増の2023兆円と初めて2000兆円台に乗せた。最も多かったのは現預金で1092兆円と全体の54%を占めた。金融資産が初めて1000兆円を超えたのは1992年で、30年かけて2倍になった。

新型コロナ禍も結果的に金融資産を増やす要因になった。家計と企業の金融資産は20年3月末と比べて、それぞれ200兆円ほど増えた。新型コロナ対応の給付金などで預金が増えたためだ。米欧と比べると、家計の金融資産に占める現預金比率は日本が突出している。米国は1割、ユーロ圏が3割といずれも日本の5割を下回る。

金融資産の膨張が豊かさを反映しているとは言い切れない。日本経済はバブル崩壊後、低成長が続いてきた。国内総生産(GDP)は540兆円ほどで伸び悩み、足元はコロナ禍前の水準をなお下回ったままだ。1990年代後半からは潜在成長率が米欧を下回る状況が定着した。家計の金融資産が成長マネーにまわらない一方、低成長で現預金の滞留を迫られる悪循環に陥る。

家計がマネーを投資に回さなくても預貯金を預かる金融機関が投融資にまわせば、日本経済は活性化するはずだ。ところが、金融機関の預金がどれだけ貸し出しにまわっているかを示す預貸率は2021年3月末に58.1%まで低下。金融機関はひたすら国債に資金を振り向けている。社会保障への支出が増え続ける政府も公共事業や成長事業に資金を向ける余力が減り、日本経済全体でみればマネーが成長投資に十分に回っていない構図が浮かびあがる。~~

金融資産は6つの種類に分類されます。現預金(外貨を含む)、株式(外国株を含む)、債券(日本国内の社債・国債・地方債・外国債)、投資信託、生命保険(掛け捨てタイプを除く)、商品券や小切手、です。増え続ける金融資産のうち、大半の5割は現預金です。投資信託や株式は増えているものの、全体の1割程度だそうです。ほとんどが現預金と保険で、基本的に利益を生むことを目的とした投資がなされていない状態のものと言えます。

30年かけて金融資産が2倍になった一方で、賃金はほとんど増えていません。過去30年間で米国の名目平均年収は2.6倍、ドイツやフランスも2倍程度に増えた中で、日本は4%しか増えていません。入ってくるものが変わってなくて、貯まっているものが増えているということは、以前と比べて個人がお金を使わなくなった結果だと言えます。

消費は、お金をわざわざ何かに変えることで、お金のままでは得られない何かを手に入れて満たされようと意思決定する活動です。その意味では、新たな所得を生むためのいわゆる投資活動に加えて、自己啓発にお金を使う自己投資はもちろん、一般的な消費活動も広い意味では投資と言えると思います。そう考えると、この30年間で投資意欲が減退したと言うことができるのではないでしょうか。

投資意欲を減退させている主要因として、いろいろなところで指摘されているのは、先行きへの不安感です。将来どうなるかわからないことへの不安から、現預金を貯めて安心感を得ようとします。その度合いが、30年間で2倍高まったと言えるのかもしれません。

そして、このことは個人だけではなく法人にも当てはまります。例えば3月17日の日経新聞「「人への投資」見劣り 日本企業、米欧の半分以下」の記事では、次のように取り上げられています。一部抜粋してみます。

~~付加価値を総労働時間で割って求める労働生産性は、近年、働き方改革による労働時間の削減で改善傾向だが、依然、主要7カ国(G7)で最低だ。持続的な賃上げには働き手の意欲と能力を高め、賃上げの原資となる付加価値を増大させなければならない。

日本企業は1990年代以降、固定費削減を優先し非正規雇用を拡大してきた。民間の人材投資の国内総生産(GDP)比は2008~18年平均で0.26%。1997~2007年平均より2割低下し、米国の半分、ドイツの3分の1だ。細る人材投資が生産性を停滞させ、賃上げの勢いを鈍らせている。~~

同記事では人への投資がテーマですが、人に限らず有形無形のモノへの投資も伸び悩んでいます。その結果、内部留保が膨れ上がってきました。投資に使われていない状況は、冒頭の記事の預貸率低下からも見てとれます。投資が行われない分、経済の伸びる可能性を狭めてしまっていると言えます。

また、企業による人への投資が限定的なことと、個人による自己投資が限定的なことが、スパイラルのように回っているのが現状ということもできます。

私たちがコロナ禍でも経験したように、予期しない出来事のために一定の現預金を確保しておくことは、法人も個人も必要な視点です。そのうえで、現預金を貯めておくということも、「お金という資源を、現預金を増やすことに使うという意思決定をしている」と認識するべきです。

インフレ以上に金利が高い環境であれば、預金による金利-インフレ率の差分が、安定的に資産を増やすことにつながります。しかし、今の日本は金利よりインフレ率の方が高い環境です。インフレ率-預金による金利の差分ほど、安定的に資産を減らすことになります。つまりは、現預金を増やすということは、安心感と危機時の余剰力を高める代わりに、衰退の選択をしているということになります

危機時の余剰力を高める現預金への投資と成長につながるリスクをとっての投資は、10対0や0対10の問題ではないでしょう。どちらも必要で、バランスが重要になります。そのうえで、前者に傾き続けることは、中長期的に「できることが増えていかない」という結果につながることも認識して、意思決定するべきだと思います。

<まとめ>
現預金を増やすことも、何かを得て何かを手放す投資だと捉える。


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