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完全年功序列・家族主義で成果を上げる

社員の評価制度や賃金制度をテーマに各社とお話する機会があります。そうした機会に、時々「いまどき年功序列ではだめですよね」と経営者・経営幹部の方から言われることがあります。その際、「決まった正解はなく、自社のありたい姿、理念やビジョンによる。年功序列が有効な人事戦略になり得ることもある」と答えています。

BizHintで殿堂入りとなった「完全年功序列、日本一綺麗を謳う青果仲卸に求職者が殺到」(2020年6月3日(水)掲載)という記事を目にしました。京都中央卸売市場内にある青果の仲卸業、万松青果株式会社の取り組みに関する記事です。卸売市場での取引高が年々減り、仲卸業者数も減っている中で、同社は増収増益を続けているということです。「完全年功序列・家族主義・日本一綺麗な仲卸」を標榜しながら、求人募集の際には応募が殺到するということです。

同記事で紹介されている専務取締役中路和宏氏のお話を一部抜粋してみます。

実は以前、能力主義・成果主義を導入したことがあるんですよ。売上が上がれば給料も上がる、という具合に。しかし結果として、売上の増加には結びつきませんでした。

能力・成果主義での給与体系について従業員に聞いたことがあります。すると「売上の増減で給料が上下したら、モチベーションは下がることが多い」と言われました。その時、「売上を指標にして、それに給料で応えるのは 必ずしも従業員のモチベーションにはつながらないのではないか? 」と考え、能力・成果主義をやめ、売上ではないものを指標に据えました。その過程で気づいた 「会社全体で従業員の能力を押し上げていく文化や仕組み」 が、「年功・勤続年数序列、家族主義」に繋がっていきました。

弊社のような中小企業で働いている人は、「この仕事がやりたかった」とか「この業界に憧れていた」ということが、真の入社動機であることは少ないのです。これはとても、とても重要なポイントです。

「この仕事をしたかったからこの会社に来た」わけではなく、仕事以外の目標のため、例えば「結婚や子供のためにこの会社に来た」という方が大半なのです。

中小企業やブルーカラーで働く方々の多くは、それまで「高い目標」を持ち、一般に称賛されるような「成果」を出してきたわけではありません。いわば、「フツーの人たち」です。そういった方々に「突然の成果主義」「教科書通りの上昇志向」を押し付けても、馴染むわけがなかったのです。

しかし、そんな「フツーの人」でも、当社での仕事を通じて「少しデキる人」になってほしい。そのためにはどうすれば?ということを考え「会社・社員全体で、一人ひとりをフォローする」ような企業文化にしたいと結論しました。いわば、家族のような関係性です。

家族間で個々人の評価は行いません。年長者には一日の長があって、皆が自然とそれを敬います。年少者が何かできなくてもそれは当たり前、誰かが助けます。そして大事なことは、みんながみんなの幸せを願っているということです。これは仕組みではなく、まさに文化です。

こうして、厳密な個々人の評価はやめ、会社全体で、みんなで成長を目指す「年功・勤続年数序列・家族主義」を掲げることにしました。

同社は「年功序列」や「家族主義」を基本理念とし、それに基づく人事戦略で成果を上げている組織と言えそうです。しかし、闇雲に「年功序列」や「家族主義」を導入すれば成功するかというと、そういうわけでもありません。同社が成功している理由を、いくつか挙げてみます。

ひとつは、自社の存在意義と関連付けて、そのようにしたい理由を明確にしていることです。

経営学者のドラッカーは、どの会社にも当てはまる存在意義として、「独自の良い商品・サービスを提供して、お客さまに喜んで頂き、社会に貢献する」こと、「働く社員に幸せになってもらう」ことを挙げています。これを、自社では何をもってしてどのように実現させたいのかを考え、まとめていったものが、その会社の存在意義(使命)になります。

同社は、「業界のイノベーター&日本一綺麗な仲卸」として、「中央卸売市場の常識を覆す綺麗な店舗」「圧倒的品揃えと最高の鮮度を持つ商品」を実現させることを宣言しています(HP参照)。同社の「経営理念」では例えば、「誰に対してもやましいことは一切しないことがスタッフの指標となっています。」「結果はあとから必ず付いてきます。」と掲げています。この経営理念をはじめとする会社の考え方を読んでいくと、なぜ「年功・勤続年数序列・家族主義」の文化にしたいのか、それが自社の存在意義を実現させることにつながるのかが、よく表れているのがわかります。

「成果主義」がただのお題目に過ぎなければ機能しないのは、冒頭の記事内容の通りです。同様に、「年功主義」や「家族主義」もただのお題目であれば機能しないと思います。同社にとってそれが有効と考える理由が明確になっていることが、注目すべき点だと思います。

HPでは次のような説明もあります。これもひとつの価値観であり、他社もこのような考え方であるべきとは必ずしも思いませんが、とても魅力的で心に残る問いを含んでいると感じます。

万松青果は「面倒くさい会社」を目指しています。
色々なことで世話を焼いたり、おせっかいなことをしてみたり。
近頃あまり流行らないかもしれませんが、それって本当に不必要なことなのでしょうか。

万松青果は「人とのつながり」を大切にしています。
万松青果にも、過去には様々なピンチがありましたが、その都度、類まれなるチームワークで困難を乗り切ってきました。したがって、仕事以外でのつながりを否定する今の風潮は、万松青果の考えとは相いれません。

家族同士の付き合いができる会社。
元法政大学の坂本教授は、「いい会社は、その社員の子供が多い。いい会社を作れば、少子化問題も解決するのではないか」とおっしゃっています。

万松青果のスタッフは、子供が2人・3人は当たり前、5人の子供たちを持つ家族もあります。したがって家族のイベントでは、物凄い参加人数となります。
経営者の皆様、社員の家族全員の名前をご存じですか?

続きは、次回以降の投稿で考えてみます。

<まとめ>
自社のありたい姿と明確に関連付けることによって、年功・勤続年数序列、家族主義で成功している会社もある。

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