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一目惚れした街

私が今住んでいる場所へ引っ越した理由は色々と書いてきたけれど、簡潔にまとめると「街に一目惚れしたから」だった。その街に丁度いい物件があって決めたもんだから、どうして引っ越してきたのかを聞かれて答える度に皆んな首を傾げる。変わった人が来たって感じに(笑)どうして首を傾げるのかと言うと、古い家が立ち並ぶ不便な場所だからだ。社会問題にもなっている少子高齢化や過疎化が進んでいて、若者が暮らしていく環境が整っているとは決して言えない。私は約10年間ツアーミュージシャンをやっていたから日本全国の色んな街をこの目で見てきたけれど、この社会問題は本当に深刻化していると感じていた。それは都市部に住んでいると全く分からないだろうけど、ほんの少し足を伸ばした先の街で加速度的に進んでいる。誰もいない閑散としたシャッター街を何度も目にして、名古屋に住んでいたシティーガールな20代の私にとっては結構ショッキングな光景だった。だから見慣れていると言ったらなんだけど、今の私にはさほど問題にはならない。むしろレトロな街並みは風情があって素敵だなあと思ったし、都会にはない自然豊かな暮らしを求めていたから。

だけど、そこにはどんな人たちが住んでいるのかまでは、実際に住んでみないと分からない。田舎へ移住したら大変なことになったみたいな話題も目にする。街がよくても、住まう人たちとの相性がよくなければ暮らしていけない。暮らしというものは家や便利さよりも、人同士の繋がりが何よりも大事だと感じている。核家族化が進み、SNSが発展した現代社会で直接的な人同士の繋がりが薄まりつつある中、私が暮らす伊東市にある「新井」という街は、その繋がりが色濃く残っている場所だった。

大きな漁港がある港街で、歴史も深く、昔は船も作っていたらしい。この辺りはもっと掘り下げて調べていきたい。数年前までは、裸になって真冬の海の中で神輿を担ぐというぶっ飛んだお祭りがあったみたい。だから昔から住んでいる人たちが多く、皆んなが知り合いで横の繋がりも強い。

そんな街とは知らずにいきなり入り込んだ新参者だったけれど、日々ご近所さんたちにも仲良くしてもらい、道端ではよく声をかけてもらい、日常で挨拶をする機会も増えた。若者が(三十路だけど)来てくれたのをとても喜んでくれて、困ったことがあれば何でも聞いてねと言ってもらえている。昨日はお向かいさんから脚立を借りて、屋根下にある蜂の巣退治を手伝ってもらった。他の地域のことは分からないけれど、新井という場所はとても静かで、穏やかで、温かい人たちが暮らす場所だ。地区の集まりでは、区長さんが積極的に私のことをピックアップしてくれるおかげで知り合いも増えてきている。皆んなへ絵を見せたり、MVを流したりしてくれて、ちょっと目立ちすぎてないかなあと時折り心配になるものの(笑)私が芸術ごとをしている以上、それは承知の上でいなくてはならないのだろう。その芸術をやっているおかげで、地域の皆さんとの繋がりをこんなにも早く持てたのは間違いない。

月一で開催される地区の集まり
カラオケしたり踊ったりゲームしたり弁当食べたりする

完全に後付けだけれど、私がこの街へ来たのは、芸術を通して街の良さを伝えていくためだと感じている。一時期何もできなくなってしまった私はこの街や、自然や、住まう人たちから元気をもらい、また作りたいという気持ちを持たせてもらった。だからこの気持ちは、この場所へ返していきたい。外から来た人間にしか見えない新鮮なフィルターを通して作ったものに響くものがあるのならば、それは外へ伝えていくべきだし、一目惚れしたから引っ越してきたという私だからこそやるべき理由にはなる。これからは藤森愛のためではなく、誰かのために自分のスキルを使っていきたい。

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