空っぽ
個展に"人生は夢のように儚い"なんてタイトルを付けたように、終わった途端に夢から覚めたような日々が押し寄せてきた。その時、自分の中身はちゃんと空っぽになっているのを感じた。
────「次」へ進みたい。10周年を迎える前に強くその衝動に駆られた。旅路に持って行けるものは限られる。新しいものを入れたいのなら、前の旅で使い古した洋服やお土産は抜いてスペースを作る必要がある。なのに自分のスペースがすでにパンパンなところへまだ入るかも〜とか言いながら無理やり押し込んでいる状態だった。キャリーバッグに全体重を乗せながらよく蓋を閉めてたけど、あれはきっとキャリーによくない(笑)
そんなパンパンなキャリーから出せないのはきっとやりきってないからだと思い、限界までアウトプットすると決めた。それが個展だった。このご時世でスタンダードなライブをしても、まずご時世がスタンダードではないから不完全燃焼になるのは目に見えていた。ならスタンダードじゃないことをすればいい。そう思った。
自分の中のスタンダードを崩すのはとても難しい。そもそも何がスタンダードになっているのかを見つけるところから始めなければならない。ライブは大声を出して盛り上がらなきゃ物足りないよねとか、たくさんの人たちが同じ日同じ時間に同時に集まらなくちゃいけないよねとか、音楽で飯食ってるんだから有料じゃなくちゃいけないよねとか。SSWの私はこれらをずっと当たり前にやってきた。その当たり前という自分ルールは時として自らを苦しめる。そこにはまり続けようと変化する歪みをなんとか修正しようとするから。キャリーバッグに全体重を乗せながら蓋を閉めるみたいなことになる。スライムみたいに変幻自在の方が収まりはいいはずだ。
声を出さなくても物足りないと感じず、たくさんの人たちが好きな日好きな時間に来られて、入り口は入りやすいように無料にする。今までの自分のスタンダードをひっくり返して、このご時世でも完全燃焼できるステージを作った。そこで限界までアウトプットができればきっとまだ見えない「次」へ進めるはず。そうして持てる時間とスキルと脳みそを使いに使いまくった個展を終えて見事、私のキャリーバッグは空っぽになった。
もうなんでも入る。枕なんかも入っちゃう。旅先での枕の寝心地の悪さは毎回気になってたんだ。ここまで空っぽになると、逆に何を入れればいいのか分からないなんて悩みが出てくるのを知った。100色使って何でも描いていいですよって言われるより、青1色だけ使って描いてくださいと言われた方が空とか海とかのインスピレーションが湧きやすいみたいな感じ。目の前に別れ道が数え切れないほどあるような感覚だった。
そうして「次」が見つからないまま、自分が一つのことに執着していると気がついた。スタンダードだ。あんだけスタンダードを崩すとか言っておきながら、また何を基準にしているのかよく分からない謎のスタンダードを気にしてる。世の中の29歳はこうだからとか、今の流行りはこうだからとか、誰々ちゃんはこうだからとか何ですかそのこうって言うのは。こうってどう?!(逆ギレ)枕を入れるんじゃないよ、もっと大事なものがあるでしょうよ。
気にするべきは過去の自分だけであって、誰かのいいね数や再生回数じゃない。個展を越える作品を作る。ただそれだけ。「次」が見えた。答えはいつだってシンプルイズザベスト&灯台下暗し。
昨日よりもちょっとだけいいものを。昨日よりもちょっとだけかっこいい自分を目指して。
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