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【登山ガイドとして】境界の美学〜あるツアー、八ヶ岳を南から北へ

ヘイヘイ。
八ヶ岳を拠点に活動する登山ガイド&野菜ソムリエです。

コロナの3年、皆さんは、自然とどんな風に付き合って来られましたか?
人混みを避けて、ご家族や近しい仲間と、キャンプや登山を始められた方もいっしゃると思います。私は、登山自粛ムードの中で、登山ツアーのガイド業からは遠ざかり、野菜作りを始めた3年でした。

山について思えば、3つの年齢を加えて、もう山をご案内することはないかなと思っていたこの10月のこと。知り合いのご縁で依頼を頂き、秋の一日、四国から関東に転勤されて来た方を、八ヶ岳の 個人ガイド登山にお連れしました。

八ヶ岳といえば、どんな登山を思い浮かべるでしょう。多くの場合、南八ヶ岳と呼ばれる荒々しいエリアの山頂を極めるイメージをお持ちだと思います。荒々しい岩肌を見せる主峰の赤岳、阿弥陀岳の登山。

連峰の南端近い権現岳から、大きく降るキレットを越え、赤岳に向かう歩きがいのある縦走路。エキスパートの方は、岩登り要素が強いバリエーションルートを思い浮かべる方もいらっしゃると思います。

あるいは、初夏、岩肌に咲く高原植物を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。

でも一番、考え込むのが、初めての八ヶ岳を訪れる方で、一日だけのガイディングを依頼頂いた場合です。登山は個人でも、友だち同士でもできます。わざわざガイド登山を依頼されるのは、何かご希望があるはずです。

特に一日ですと時間が限られることもありますが、八ヶ岳の多彩な魅力の中で、どこをお見せするか。どんな山旅がお好きなのか、何度かメールなどでやりとりをさせて頂くことにしています。好みの山旅の相性というのがあるからです。

ガイド登山の依頼はありがたいことです。でも、例えば、コスパや時間的に効率よく山頂を踏みたいという方の場合は、東京から早朝バスが出る団体ツアーをお勧めすることもあります。ロッククライミングを楽しみたい方の場合は、岩登りを専門とする仲間のガイドをご紹介することもあります。

実は、八ヶ岳は、南北に40キロ近く山々が連なっています。私のおすすめは、この長い連峰の南北の地形や植生の変化がみせる、山の空気感の違いを感じゆく山旅です。南は編笠山または西岳から、北は蓼科山まで。実は、その先も霧ヶ峰へ、美ヶ原へと歩いていくこともできます。

霧ヶ峰より八ヶ岳の北から南をみわたす

南側の岩山は、 北に向け、やがて亜高山帯入り、岩の焼けた匂いから、針葉樹の深い香りへと変わってゆきます。この地形や植生の変化は、八ヶ岳連峰の100万年近い昔から始まった火山活動の結果生まれたもので、広い裾野の里の暮らしと山岳信仰や、連峰の東側の佐久と西側の諏訪をつなぐ人々の往来にも、深く関係しています。私が、八ヶ岳連峰を好きな理由を振り返ると、この「自然と人との関わり方」にあるようです。

権現岳山頂にある山岳宗教は、山麓の富士見町乙事地区にある権現講のもの。

私自身が、これまで八ヶ岳をご案内した登山を振り返ると、やはり連峰の南北の違いにご興味を持たれたゲストとの相性が良いようです。テントを背負って歩き通す山旅(縦走といいます)が一番のお勧めですが、日数がかかります。通常、3−5日を用意して頂く必要があります。何回かに分けて訪れることが可能なら、山小屋を使いながら区間をつなげていく、セクション縦走も夢があります。

さて、今回ご依頼を頂いたワンデイ八ヶ岳登山。四国の山に馴染み、八ヶ岳は初めてのゲストに、どのように魅力をお伝えしようか。当初は、ワンデイの八ヶ岳登山で代表的なピークハントを計画しました。

しかし、何度かやりとりする中で、登頂だけでなく、自然や文学がお好きなことがわかりました。

そこで、私が大切に思っている八ヶ岳に関する随筆「北八ツ彷徨」(山口耀久著)をご紹介したところ、すぐに読んで頂き、とても興味をもってもらいました。所々に出てくる山口さんの南北八ヶ岳の対比の表現を引用されたメールのお返事をみて、ルートを決めました。「南北八ヶ岳の境目を体験して頂こう!」。

南北八ヶ岳の境目とは。いろんな説があるのですが、一般に、夏沢峠が南北の境目だとされます。夏沢峠は、南八ヶ岳エリアの北側、硫黄岳から北方面に降りて、天狗岳に向かって登っていく鞍部にあります。その峠から東に降りると、通年営業としては最高標高にある露天風呂「雲上の湯」がある本沢温泉に向かいます。歩かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、硫黄岳を降り、夏沢峠を越えると、とたんに針葉樹の森に入ります。いよいよ北八ヶ岳に入っていくな、という思いとともに、一人のときには、岩山を歩いた緊張が解かれ、森の中を延々と彷徨っていくような錯覚に陥る瞬間です。

北八ヶ岳に入った、その森。

「境目」が、スイッチを切り替える場所であるなら、夏沢峠は、まさにそういう場所だと思っています。南北が切り替わる「境目の美学」。

ちょうど、秋の山が美しい季節。今回のゲストには、南北40キロの縦走路のうち、境目のハイライトを味わって頂くことに決めました。

南八ヶ岳の北端、硫黄岳から夏沢峠を経て、北八ヶ岳に入り天狗岳へ。

登山ルートの難度としては、さほど高くありませんが、駐車場への周回を考えると、やや距離が伸びます。ガイド登山では、ゲストの安全が何より大切ですので、特に日が短い晩秋の日帰りで、八ヶ岳が初めての方ですと、体力と行動時間への配慮が大切になるルートです。

この日、秋空に恵まれて、ゲストには初めての八ヶ岳を楽しんで頂くことができました。地域ごとに山の地形には特徴がありますが、西日本の山との違いは、やはり森林限界を越えることだと思います。

今回、少し時間が足りなくて、天狗岳までは届きませんでしたが、八ヶ岳連峰の40キロの縦走路の中で、一番美しいと思っている根石岳から、羽を広げたような天狗岳に続く白砂と岩の縦走路の姿を見て頂くことができました。

天狗が羽を広げたような双耳峰の天狗岳

振り返って、秋空に浮かぶ南八ヶ岳の姿を堪能して頂くことができました。

ゲストとセルフィーをしていたら、登山者の方が撮ってくださいました

濃いめのコーヒーがお好きだと聞いていたので、夏沢峠では、エスプレッソを淹れて、ホットサンドのランチを一緒に食べながら、山や日頃のお仕事のお話を、たくさん聞かせて頂きました。ゲストの八ヶ岳の山旅を楽しむ様子を、うれしく思います。

東京に帰るゲストを見送りながら、思ったこと。ぜひ、また八ヶ岳に来て欲しい。四季折々、その魅力を楽しんで頂きたいです。
そして、自分自身、やっぱり、山のガイドの仕事が好きだなあ、と思います。私自身、忘れかけていた登山ガイドとしての喜びを噛みしめました。

これまでは、北アルプスや八ヶ岳連峰など、高い山でガイドをやってきました。

これからは、八ヶ岳の自然を愛でる山旅や、欧米で人気がある軽量スタイルの縦走トレイルハイキング、北欧スタイルの森のキャンプを体験したいゲスト向けに、個人ガイドとして、ルートやアクティビティのご提案をしてゆきたいと思っています。

これから、八ヶ岳連峰は雪が降ります。アイゼンを氷に食い込ませる雪山登山と言わずとも、安全に配慮しながら、雪山の輝きや美しさを体験したい方がいらしたら、お声がけください。あなただけの八ヶ岳での時間をデザインさせて頂きます。

雪の森、スノーハイキング。

今日も、読んでいただき、ありがとうございました。
ヘイドー。


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