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2000字小説たち

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2000文字ぴったりで書いた小説たち置き場
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#2000字ジャスト

【小説】午後の最後の光

五限目が始まるチャイムで席に着くと、教室には誰もいなかった。 みんな絶滅してしまったのだ…

富士見 ヒロ
1か月前
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小説:イグニッションガール 【2000字ジャスト】

「低気圧ぶっころす」と、私は目が覚めると同時に呟いた。 パジャマにしているパーカーのフー…

93

小説:ハルノシュラ【2000字ジャスト】

「いやーモトサなんてするもんじゃないね」 そう言って彼女は、手に持ったペットボトルで丸め…

10

小説:ファイアズ 【2000字ジャスト】

踊り場の大きな鏡には、一か所だけ歪んでいる部分があった。 誰かが、ガラスは液体だと言って…

8

【小説】 ラテ

庭にときどき猫がくる。 餌を与えたりはしないし、名前をつけたりもしない。 ただそこにいるだ…

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小説:フェスティーヴォ 【2000字ジャスト】

冷凍庫を開けると、それはあった。 僕はそれを手に取り、冷凍庫を閉めた。 こんなものがあるな…

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小説:ケサランパサラン 【2000字ジャスト】

僕はそれをケサランパサランだと言い張った。 海苔の佃煮の瓶に入れたそれを、僕は大切に机の上に飾っていた。 ときどき手にとっては眺め、そのたびにひそやかな興奮に浸っていた。 まるで共通の秘密を分かち合うみたいに。 できるだけそれを誰にも見せないようにしていた。 隠したかったのではない。 否定されるのが嫌だったのだ。 「雑草の綿毛でしょ」「動物の毛じゃないの」 皆はそろって僕を絶望させようとした。 可能性なんてくそくらえと思った。 あるのは僕の現実だけでいい。 「そう。あなた

小説:イエスタディ【2000字ジャスト】

僕が生まれた年に生産されたそのバイクを、僕は二十歳の誕生日に手に入れた。 結婚することに…

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小説:ブーゲンビリアが咲いていた夏 【2000字ジャスト】

目を覚ましたのがとても早い時間だということは、室内を染めている光の青さでわかった。 ただ…

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小説:ツヅクオンガク 【2000字ジャスト】

カラカラカラと自転車のホイールが鳴く。 また今日も嫌なことがあった。 あの人にラインしそう…

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小説:絶つ鳥【2000字ジャスト】

階段を一段上るごとに、テキーラの匂いは強くなった。 できることなら胃の中のものをすべて吐…

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【小説】なし太【2000字ジャスト】

なし太は自分の名前が嫌いだった。 漢字で書けば果物の梨なのだけれど、瑞々しく生命力のある…

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【小説】花【2000字ジャスト】

時すでに私は発狂していた。 私はそう思うのだけれど、それは誰が決めるのだろう。 周囲が決め…

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小説:EMBERS

取調室は、映画やドラマで見ていたものとは随分様子が違った。 顔を強く照らすためのライトもない。 西日が差し込む窓もない。 至って簡素なひとつのデスクと、プリンターだけがあった。 デスクの片隅には、おそらくインクが色移りしてしまったのであろう染みがあった。 その染みは、なぜかあまりよくない印象を与える文字に見えた。 もちろん具体的な意味を為している文字ではない。 それはまるで僕が失った平常心を嘲笑うかのように、いろいろな文字に変化した。 前と後ろには鍵のかかるドアがあり、その一