ウルフルズ『いい女』

仕事が休みの日は目覚めが良い。目覚ましもかけていないのにいつもより早く目が覚め、そして二度寝にもならない。
卵かけご飯を食べる。十一時半から、電子書籍業界の企業のカジュアル面談。
面談自体は一週間ほど前から決まっていたが、元々ギリギリまでやらない性分であり、また最近は無職という選択肢がなかなかに現実味を帯びてきたこともあり、結局なんの用意もないままに面談が開始する。
当然なんの用意もしていないので、会話は盛り上がらない。質問に対して一問一答という形は予想していたが、質問を用意してきておらず即席でひねり出しているので脈絡が無い。聞きたいことがなんなのかはっきりしていない質問しか出ない。これが面接であれば即座に面接は終了しお祈りメールを待つのみであろう。三十分の面談時間がとても長く感じられ、口の中は完全に乾いていた。
身だしなみを整え高円寺へ。アプリで出会った子とデートをする。古着屋でハンチングを買う。その後街をフラフラと歩き、夕方に居酒屋へ。駅にて時間を潰す。付き合ってほしいと告白。無事承諾を得、彼女ができる。

「どこからどう見ても将来性なし男だけどいいの?」
「別にいいでしょ、私だって無いし」
なんと器の大きな女か、と驚く。実際本当に将来性は無い。今にも仕事を辞めそうだし、辞めてなにか新しい職につくのかと思いきや旅に出るかもとか言うし、そのまま仕事を続けさせてもなんの成長性も無いだろう。
そんなわけで背中を押してくれる人をまた一人得たわけであるが、それはそれとして、仕事を辞めた方が“良い”のか“悪い”のか、それは考えないといけない。
まず始めに肝に銘ずべきは、辞めたい理由と辞めた方がいい理由は全く別物であるということだ。辞めたい理由は止まらなくなる上に広がりすぎるので、とりあえずはやめた方がいい理由を考えてみようと思う。
今のまま仕事を続けたとして、そうして生まれるのは本当に全てに無気力になり、そのくせ世間を呪うばかりの腐った大人であろうと思う。
本屋の仕事はやることが多く、そのくせ読書人口は減り続けるので成長は望めないだろう。こんな業界的な問題を抱えている上に、それとは別のさらにミクロな問題として勤め先がろくでもない、というのもある。如何にろくでもないのかというのは書いたところで仕方が無いので割愛する。そして先輩方曰く、このろくでもなさは僕が入社する前から綿々と受け継がれてきたろくでもなさであるらしく、今更どうのこうのと文句を言っても仕方がないと思われる。というか、散々文句を言い、こうしてくれればこう改善されるのだぞ、と伝えてもなんの音沙汰もない訳だから愛想を尽かすのは当たり前である。
そんな環境でグズグズと仕事をしていても産まれるのは腐ったモンスターである。不幸にもとても小さな企業であるので人事異動などがあるはずもなく、関わる人はほぼ常に一定である。そんな日々に変化など望むべくもない。
昇給の見込み無し、という問題もある。しかしこれは難しい問題だ。仮に仕事を辞めてフリーランスの仕事をしたとしよう。しかしこちらも、会社から評価される給与が直接消費者に変化するということであり、単純に仕事を辞めれば改善される問題ではないことは留意しなくてはならない。
忘れてはならないことは、退職したところで解決しない問題は全く解決しないということである。退職することで解決される問題はとても少なく、その他の問題はそのまま居座り、更に言えば新たな問題が生まれる可能性の方が多いのである。
・辞めた後にどうするのか
・失業保険が切れた後にどうするのか
・超長期的な人生設計
・辞めてはならない理由はあるか
・辞めた方がいい理由は何か

「七月が来ちゃう、七月になったら働かなくちゃだ」と、彼女は肩を落とす。
「俺も辞めちゃおうかなあ」
「辞めたらどうすんの?」
「ひとまずゆっくり失業保険もらって、それが尽きたらバイトして、日本を一周しようか」
「めっちゃいいじゃんそれ」
「そんで帰ってきたら三十歳、全財産はボロボロのバイク一台な」
「でもさあ、私らまともな大人になれないじゃん。それだったら好きなことやった方がよっぽど良くない?」
まさしく彼女の言うとおりである。


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