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雲の中のマンゴー |#9 似つかわしくない論文

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura 
Author Toshikazu Goto

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第9話 「第2章~その2~」

「叔父さん、ハウスって思っていた以上に立派だね!」

登は元サワムラの役員であり、父、沢村一の弟である沢村次郎のグリーンアスパラの農場を訪れていた。

「まさか登が農場にくるとはな。どうしたんだ、兄貴に聞いたのか?」

「そう親父から聞いた。しかし暑いね、ハウスの中は何度ぐらいあるの?」

「今は、32~33℃ぐらいだな。これで暑いなんて言っていたらハウス内では仕事できないぞ。アスパラは気温が35℃を越えると伸長が鈍り、38℃を越えると高温障害が発生してしまう。だからほら見てみろ、ハウスの横を。できるだけ外気温に近づけるため、ハウスのサイド及び妻面等を開放しているんだ。これくらい涼しいもんだ。金をかければシェードの開閉や空気循環、換気扇などを自動で制御できるけどな。いろいろと心配や気苦労はあるが、自然と向き合うのもまた楽しいものだ。」

次郎はサワムラ時代、開発部門を仕切っていた時と同様に自分が手をかけることを惜しまない仕事ぶりを続けているようだった。

「しかし、叔父さんは変わらないね。あのさ、サワムラグループとして新規事業の取り組みを本格検討したくて、農業も選択肢のひとつかなと思っている。いろいろと研究をしたいんだよ、今度農作業の体験をさせてよ。」

「へぇ~そうか、農業は様々だ。いろいろと勉強してみるといい。うちはいつでもいいぞ、勝手に来い。ほぼ365日このハウスにいるしな。」


登が次に訪れた場所は、富士山の西麓に位置する有機栽培農業のメッカでもある富士宮。

「剣一郎さん、親彦くん。今日はありがとうございました。剣一郎さんの異業種から農業参入した話は大変勉強になりました。と同時に、やはり露地栽培、しかも有機無農薬栽培への挑戦は、現在の私ども企業にとってかなりハードルが高いと感じさせられました。ただ個人レベルではいつか挑戦してみたい農業スタイルではありますね。」

遡ること数ヶ月。
まだ農業の研究をすると決める前の時期に、地元の金融機関の勧めでビジネスマッチングに参加し、そこで渡辺親彦と出会った。彼は(株)静岡ヒューマンサービスという人材総合サービス会社で、アイディアバンクという事業に携わっていると聞いた。

その事業では、一般の方や個人事業主・企業の新規事業開発部門担当者などが提案する、新規事業アイディアと企業の様々な問題課題をマッチングさせてソリューションに結び付けるという取り組みを展開していると聞いて興味を持ったのだ。その際に、実家では農業をやっているとも聞いていた。そのアイディアバンクという事業自体に興味があったが、親彦くんの親父さんがやっている農業がとても気になり、農場を見学させてもらっていた。

ここでふと、畑には似つかわしくない論文を目にする。

~じゃがいもの熟成効果~

「ん?親彦くんこれは何?」


#10に続く。


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