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雲の中のマンゴー |#8 そうだ農業か

この物語は、自動車部品メーカーを営む中小企業の若き経営者「沢村 登」が様々な問題に直面しながら、企業グループの新しい未来づくりを模索し新事業に挑戦する「実話を軸にしたフィクション」ストーリーである。

Novel model Mango Kawamura 
Author Toshikazu Goto

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第8話 「第2章~その1~」

「変わるとき.... 」とはいったい。。

登は日本に戻り『変わるときかもしれない』という父、沢村一のつぶやきを頭の中で繰り返しながら、日々思案をつづけていた。

新規事業の必要性を意識してから約6年。中国の労務問題に必死に向き合っていたこともあり、新規事業の取り組みに関しては、ほとんど何もできないまま、あっという間に時が過ぎていた。

ふと社内を見渡すと、皆それぞれに年を重ねている。

サワムラ本社は、設計・開発・品質管理がメイン部門であり、営業部門そして総務人事部門がグループの管理業務を担っている。製造は中国協力工場が主となっているので、若手工員の新規採用など、ここ5年人材の動きはない。元上司であったベテラン営業マンも50代半ばを過ぎ、黒岩が所属する総務人事部門は40代及び50代の人員で構成されている。一番人数が多い設計・開発・品質管理部門は、高精度のセンサー機器を扱っていることもあり、高度の技術力と身体的な健康視力が重要となる。

「平均年齢は52歳か。とすると10年後は62歳...。うーん。。」

登は、企業グループ10年後を想像しつつ、様々な視点でイメージしてみる。

これからの雇用体系や年金を考えた場合、定年の延長、年金受給年齢の引き上げは必須であろう。社員が働き続けられる環境を整えていくとなると、既存事業のセンサー機器の設計・開発・品質管理については、ストレスのかかる細かな作業と品質管理上の身体視力が必要とされ、高齢者には難しい職種になるだろう。

各地各国に協力工場を増やしノウハウ提供と管理機能を強化するということも考えられるが、品質は勿論、コストが非常に重視され、例として「中国がだめなら他の人件費が安い国へ」となり堂々巡りになってしまう。また、その国の情勢によって一気に事業が出来なくなるリスクも考えられる。そもそも「海外での事業が日本の国益になるのだろうか?」と常々思っていたので矛盾がさらに生じる。

既存事業の延長や発展型モデルでは難しい。。地元の金融機関や商工会にも新規事業のネタについてたびたび相談をしてはみたが、ピンとくるものはなかった。

「変わる... か 」堂々巡りで、また沢村一のつぶやきに戻ってきてしまっていた。

「叔父さん... アスパラ... 農業...。」沢村一の弟である元サワムラの役員である叔父が、現在アスパラ農家を営んでいることを思い出した。工業から農業に転換した身近な例である。

「んん、農業か。あ、玄さん!そうか農業なのか!」つい声に出してしまった。不思議なものを見る社員の目が登に集まる。

現在、日本の農業は高齢化や後継者減少問題、耕作放棄地増加や自給率減少問題など様々な問題を抱えている。自然相手なので大変ではあるだろうが、やり方によっては非常に可能性がある業種なのではないのか?叔父さんの例もあるが、農業は意欲さえあれば一生できる仕事でもあるはず。サワムラとしても、社員が働き続けられる環境づくりの選択肢のひとつになりえるのではないだろうか?
人間は必ず食糧が必要だ、これからの安全安心を考えたら国内で作り供給するのが一番だとも感じる。

「農業か、そうだ農業だよ!」また、声に出してしまった。

よし、農業を研究してみよう。玄さんにも相談してみよう!


#9に続く。


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