秒間の白椿

冬の終わりを思い出した。風に飛ばされていっちゃいそうなベージュのベレー帽を抑えながら、頭上を過ぎ去る白い椿を見つめたこと。1秒見つめて歩き去ったこと。瞬間の記憶。もっと他のこと真剣に見たはずなのに、考えたはずなのに。不意に浮かんでくるのは純白の花弁を誇らしく見せつける白椿。濃くて上品な艶めく緑の葉っぱたちを背景に従えて、飛び出た中核の雌しべは砂金のような花粉を抱いていた。乾いた冬の香りと、どこか優しさを取り戻し始めてた北風を私の全感覚器官が呼び起こす。次会うときはもう少し、見つめていてあげようか。

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