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小説

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看病

多分2、3年前くらい? に書いたものです。

 友人に呼び出された。すっかり人間として堕落していて、部屋のそこらじゅうにみせつけるみたいにビールやハイボールの空き缶が散乱していた。
「体調が優れない、精神も落ち込んでいる。これはきっと大病だ。どうしよう」
 これでも彼は親友なのでおれも連絡を寄越された時は青くなったし、気を遣ってポカリやらゼリーやら冷えピタなんかを買って行ったのに、彼はただの風邪の

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手紙

拝啓
寒くなってきましたね。こちらは実家の福島なんかよりよっぽど暖かいのに、もうこの関東の温暖さにすっかり慣れてしまいました。悲しいです。例えば、こちらに来てからというもの、私は常に神経を尖らせながら、恐怖と不安の中で思考を巡らせて生活しており、あちらにいた頃のような穏やかさや配慮を忘れてしまい、自己中心的になってしまったようにも感じていて。もしくはあちらにいた頃よりも思考をやめ、ただ呼吸を続ける

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嘘つきと嘘つき

前に書いたものです。いつかはハッキリしません。

「なぁ、触ってもいいかい。顔を近づけておくれよ」
 私は眼鏡を外したのち、目をつむり、言われた通りに顔を近づけた。かみさまの手はひんやりとしていて、頬を撫でたのち、顎を、人中を、下唇を、鼻筋を、眼窩を撫でた。私の顔のつくりを確かめるようだった。
「楽しいですか、これ」
「楽しくなければしちゃあだめなのかい、いいでしょう」
「でも、楽しくないのにしな

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