看病

多分2、3年前くらい? に書いたものです。

 友人に呼び出された。すっかり人間として堕落していて、部屋のそこらじゅうにみせつけるみたいにビールやハイボールの空き缶が散乱していた。
「体調が優れない、精神も落ち込んでいる。これはきっと大病だ。どうしよう」
 これでも彼は親友なのでおれも連絡を寄越された時は青くなったし、気を遣ってポカリやらゼリーやら冷えピタなんかを買って行ったのに、彼はただの風邪のようだった。酒の飲み過ぎで具合が悪くなっているのかもしれない。しかし落ち込んでいるのは本当だったのだろう。汗や脂で黒ぐろとした前髪をかき分けて冷えピタを貼りながら、カレー食べたい、と唸るみたいに呟いた。
「カレーって、大丈夫なのか。刺激物だろう、胃がびっくりしてしまう。ますます体調を崩すぞ」
「違うよう、大丈夫。甘口のやつなら大丈夫だからさあ、カレー作ってよ」
 仕方がないので、おれは近所のスーパーでカレールウ、人参、じゃがいも、玉ねぎ、豚こま、そしてりんごを買った。友人の家に戻り、なんでもかんでも材料をみじん切りにして炒め、煮詰めた。りんごを摺り下ろしながら、おれは友人の近況について聞かされた。女に捨てたれた話、単位がぎりぎりだった話、バイトが辛い話、金がない話。
「お前の作るカレーさあ、美味いよねぇ。なんでそんなに美味く作れるんだい、料理ができるというのは、モテるだろう」
「おれはカレーしか作れないんだよ」

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