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これも「文化の違い」!?海外の台所で起こった「丸つけ作戦」の落とし穴 @中東

ここはヨルダンの本屋(詳しくはこちら)。当店で働くスタッフ8人には、本屋、キッチン、アートなど色々な業務があった。この記事では「キッチン」の仕事を紹介する。

キッチンをちょこまか移動する様子

●キッチンでのドタバタ業務

当店は本屋でありながら、カフェでもある。朝から晩まで料理の注文が入り、キッチンは結構忙しい。本屋で働くためにヨルダンに来たのに、なぜか毎日キッチンで働いているのだから困惑することも正直多かった。

一気に6人分なんて注文がドカっと入れば、キッチンでおしゃべりしていた私とラウラは大騒ぎ。「まず何からやればいいわけ!?」と言いながらバタバタ準備していると、店長がキッチンに入ってきて「お前たち!さっさと動くんだ!」と怒られながら、3人であわあわと料理していた。

当店ではこんなに美しい料理を提供していた

「あわあわしてしまう」には色々な原因が絡み合っていた。

例えば、店長に「ザタールをかけておいて!」と言われても「はて?ザタール?なにそれ?」となる。アラブのハーブなんて、何も知らなかった。

さらに「野菜をフライして」と言われても、英単語の「フライ」にあたる日本語には「揚げる・焼く・炒める」など数々の意味が当てはまってしまう。恐る恐る「どういう意味のフライ?」と確認すると「はあ?」と聞き返されてしまうこともしばしば。

「ナス」にも困った。店長はナスのことを「エッグプラント」ではなく「オーバジーン」と呼んでいた。のちにイギリス英語とアメリカ英語の違いだと発覚するのだが、それが分かるまでは「何言ってんの?分かりにくい..」と困惑していた。

「団体予約」にも翻弄された。ツアー団体に「この日に大勢で行くかも」とだけ言われるのだがその時間は告げられなかったり、別の時にはなんと「来ない」ことさえあるし、または連絡なしで突然大勢が来たりなどだ。これって、予約の意味あるのか。

とにかくもう、てんやわんやだった。

一番のストレスは、店長の仕事の進め方だ。彼は「ちょっとトマトを切っただけの包丁」「ちょっと卵を焼いたフライパン」を、使った瞬間にシンクの汚い水に入れて「ふ〜いっちょあがり」と言うことだ。一体、何が一丁上がっているのか。

当たり前なことに、数分後にお客さんから注文が入った。その時になって彼は「くそっまたかよ!」と言って、すぐに使えたはずの包丁を洗い直すところから始める。そのままにしておけばよかったのに..。

当店には「後先考える」という概念が、なかったのである。

●羨望のラストオーダー

さらに困ったことに、当店の閉店時間は「曖昧」この上ない。涙の避けられないことに、残念ながら「ラストオーダー」という概念もなかった。

夜になって私とラウラが「今日はもう終わりにしましょ」と部屋に帰ってまったりしていると、突然店長から電話が来て「注文が入ったぞ!すぐにキッチンに集合!」と招集がかかることが時折あった。

ベッドでヨガをするラウラ、読書する私。あと猫

もうとっくに退勤したつもりの私たちは、ベッドで各々の「くつろぎ」を体現した姿勢のまま「え…このタイミングで?」とギョッと目を見合わせ、「なんなの?もう閉店(したつもり)なんだけど」「なんでウチにはラストオーダータイムがないわけ?」と文句を言いながら、キッチンにトボトボ戻っていく日々を送っていたのであった。

●効率的に働くために

一日のキッチン業務をスムーズに進めるためにも、せめて朝の在庫チェックを徹底しようという話が出た。大忙しで料理しているときに「ミントが無くなった!」「牛乳が切れた!」と発覚するのはみんな避けたかったのだ。

それには「在庫チェック表があった方がわかりやすいな」と思い、早速チェック表を作ってみた。

縦列に「トマト」「卵」などの品目を、横列には曜日を

朝この表を持ってキッチンを回り、各材料が十分あれば「◯」、足りなさそうだったら「△」、なければ「×」を書く。そのままチェック表をスーパーに持って行って買い出しができる仕組みだ。

この表はなかなか画期的だと思い、店長に見せると「フウ!すげーよこれ!」と大喜び。印刷屋さんにルンルン持って行って大量にコピーしてくれて「今日からこれをみんなで使おう!」となった。

●在庫チェック表の「落とし穴」

しかしまさかの問題が起きた。イギリス、フランス、イタリアなどヨーロッパのメンバーがこの在庫チェック表を見たときに「使い方がよくわからない」と言ったのだ。こんな分かりやすいのに、どういうこと!?

なんと彼らは、「◯=十分」「△=まあまあ」「×=不足」という、記号のニュアンスを持ち合わせていなかったのだ。

ええ!この"記号感覚"って世界共通じゃなかったの!

そういえば、「◯」と「×」について、その意味が日本と逆の国もあると聞いたことがあるのを思い出した。留学先でテストを受けたら「◯」だらけだったのに実は全部不正解という意味だった話や、ゲーム機を作る会社が輸出用にコントローラーの「◯」と「×」を反転したりする話を一気に思い出したのだ。

でも今回の場合は「意味が逆だった」ではなく「意味を成さなかった」ため、まだややこしいことにはならずに済んだ。

私は急遽「記号の説明書」を作って、チェック表の近くに貼ってみた。みんなは新しい数学の公式を見た時のように「ふむふむ」と眺めている。

でもこれだと記号に親しみのないメンバーは、在庫だけでなく記号の意味も確認しなければならない…なんか、全然スマートにチェックできないよな!?

私の中で「◯×△作戦」は、失敗に終わった。ああ、明日からもきっと、怒涛のキッチン生活が始まるであろう…。

キッチンのお仕事編:fin

●次回:クッキーを作る仕事もある

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