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第1話 「ここで働かせてください!」でアラブの本屋に住んでみた(創作大賞2023入選)
あらすじ:「ここで働かせてください!」で中東ヨルダンの素敵な本屋に住んでみた。不思議なことにその本屋には、私と同じように様々な国から飛び込んできたスタッフが集まっていて…。すべて実話・書籍化予定のアラビアンエッセイ。
●「ここで働かせてください!」実写版
誰もが思ったことのあるように、私もふと思った。「なんかこう、すごくワクワクすることがしたい…」。例えば、「全く知らない異世界で『ここで働かせてください!』と頼み込む」ぐらいのことを。
そんなことができたら、なんてアドベンチャラスで、エキサイティングなんだろう。
ということで、ヨルダンである。
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やりたいなら今からやればいいじゃない、ということで色々調べてみたら…。
イラク・パレスチナ・サウジアラビアという「なかなかな」耳障りのメンバーに囲まれた「ヨルダン」というよく分からない国に、最高すぎる本屋を見つけた。
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この店に私は、完っ全心を掴まれた。そしていてもたってもいられなくなり、あの千と千尋のように「働かせてください!!!」と言ってしまったのである。
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誰が予想できただろうか。その申し入れは現実となり、ヨルダンの本屋で働くどころか住むことになった。そう、これは全部実話のヨルダン突撃滞在記である。
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●全ての始まりは、ひとつの作戦から
私は大学生のうちに17か国ほどをフラフラと旅してきた。けれど今度は、旅ではなくて「滞在」っていうのをしてみたいと思っていた。さて、どうすればできるだろうか?
パッと思いついたのは、農園を手伝う方法。でも、私は虫が大の苦手である。
他に現実的かなと思ったのは、どこかの家族の「ベビーシッター係」として行く手段。なんだか需要がありそうだ。しかし、私は小さな子供と接するのがあまり得意ではない。だいたい、「高い高〜い」は英語で「High-high, right?」で大丈夫なのだろうか。それでは四つん這いの「ハイハイ」との混同を招き、彼らの脳発育への悪影響は免れられない。
・・・そうだ!
虫もBABYもいなさそうな店を手伝って、そこに泊めてもらう作戦はどうか。
ふっふっふ。そうすれば「海外滞在」を実現できるかもしれないぞ。しかしそれって一体、どこの国の、何屋さんなのだろう。
●ひたすら探した、国と店の候補
そうと決まれば「どこかの国に"グッとくる店"は無いだろうか」と血眼になって調査を開始。すると、ある二つの候補店が浮かび上がった。
(1) 一つ目は、色鮮やかで国際的な雰囲気を醸すメキシコの宿。ふむふむ、私の今までの旅経験も活かせそうだし。ラテンで陽気なスタッフや客たちとタコスを食べる日々を想像すると、とっても楽しそうだ。
(2) もう一つの候補は、中東ヨルダンの本屋。私は本屋で過ごすのがとっても大好きなので、本屋というワードにピンときたのだ。アラブの世界に馴染みはないけれど、だからこそいい経験になるかも?
そうして中東の本屋についてさらに調べてみると、どうやらこの店はまさに「熱烈岩肌!」「砂壁上等!」と、いわゆる"アラブ全開系"。つまり、「超イケてる本屋だ」というのは明らかだった。
な、なんだこれは・・・
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でも、待ってくれ。ヨルダンって何?
一体どんな国で、大丈夫なところだろうか。何を食べるんだろう。大丈夫なところだろうか。というかどこにあるのか?大丈夫な…。
・・・。
そういう訳で、ヨルダンの本屋にアタックしてみることにした。
●緊張のアタック
まずはメッセージを送ってみることに。しかし、いきなりこんな極東の国から突然、
ハロ〜!店を手伝うので1ヶ月泊めてくれません?♪
と軽い文を送るのはきっと、いや間違いなくNGだろう。「ふ〜ん、旅好きのジャパニーズね。グッドラック〜」とスルーされるリスクは、コーランを読むまでもなく明白である。
こういう時は、熱意と誠意が大切なのでは…?
そう。天は私に、そういった「マナーの直感」を授けてくれたようだった。
しかしそのバランスを取るためか、アラビア語の能力を与えなかった。
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・・・なんてことだ。
まあよい。とりあえず英語で、ロングロング・ラブメッセージを送ってみることにしよう。
遥か遠く、ヨルダンの本屋の店長さんへ。
ついに、私の熱意を伝えます。こんにちは。私は日本に住む大学生です。店をお手伝いさせていただきたく、願わくばあなたの素敵なお店に1ヶ月ほど泊まらせてもらえませんか。
なかなかいい書き出しだ。理由を続けた。
・本そのものもだけど、本屋という空間が大好き。・店の雰囲気がめちゃくちゃナイスで魅了された。・あなたが本屋をオープンするまでの歴史を全て調べて感銘を受けた。・素晴らしいコーヒーマシンもギターもあり、そちらでの生活が最高なものになると確信している。・イラストも好きだからできることがあればやりたい。・寿司も作れます。よろしくお願いします。
よし。こんな感じで、熱意と自己アピールを込めた「超長文」のラブレターが出来上がった。文学界隈の皆様には申し訳ないが、あの千夜一夜物語も顔負けの超大作である。何度も何度も読み返し、送信ボタンを押した時はほんとう〜にドキドキした。
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返事を2日待ったが、音沙汰なし。しかし完全にこの店に惚れてた私はこのドキドキに耐えられず、「恋に追いLINEは禁物」という掟を破って禁断の催促をした。
「あの〜・・・、届いているでしょうか。もしダメならダメって言ってもらえませんか?それはとても残念ですが・・・」
●震えるスマホ、震える心臓
するとしばらくして、なんとあのヨルダンから返事が来た。今でも覚えているけれど、びっくりしすぎて洗面所の床に座り込んで、誰も来ないのにドアを閉めて、深呼吸してからゆっくり返事を開いた。
タイトル:愛のあるメッセージありがとー
本文:OK
店長より.
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え?ヨ、ヨッシャアア〜〜〜!!!
・・・よし、よし。
これで無事、店長の許可が降りたというわけだ。天にも昇る思いとはこのことである。ああ、あの本屋で過ごす日々。いいんですか!?うおおおおお、妄想が止まらない・・・
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でも、、、ちょっと待ってくれ。
もしかして返事、短すぎん?
「OK」
本屋を営む人物が書いた…とは到底思えぬこの返信だけで、ジャパンのガールを住ませる契約は成立ってこと?手続きとかなんか、いらんのか?
とりあえずふつうにヨルダンに行って、ふつうに本屋に向かえばいいのか?
それで本当に、住めるのか?
・・・。
・・・。
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よく分からないけれど、こうして私の滞在先は、「アラブ全開」のヨルダン書店になったのである。
つづく
「ヨルダンの本屋に住んでみた」は書籍化を目指しています
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●次回(2話):店長とビデオ電話で面接してみた
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