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地図博士 ノノさんの鳥の目、虫の目④

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

「地図博士 ノノさんの鳥の目、虫の目」では、地図にまつわるエピソードを毎号紹介しています。執筆は、(一財)日本地図センター顧問の野々村邦夫氏です。

★2019年4月号
「ぼこいが母恋はヒット」

北海道の先住民アイヌが「マシュキニ」または「マシュケ」と呼んだ地を、和人といわれた移住者たちは「ましけ」と称し、「増毛」という漢字を当てた。この字を当てるのにどれだけの必然性があったのかは知らないが、「魔時化」や「真志気」とするよりはよかったと思う。

1921年に留萌本線の留萌・増毛間が延伸開業し、増毛駅が誕生した。その後の栄枯盛衰はいかんともしがたく、2016年12月、この区間が廃線となり、増毛駅は廃止された。しかし、この間にこの駅の入場券は、頭髪の増加を願う人々に大いに売れたという。当て字が功を奏したといえよう。

北海道室蘭市内に「ぼこい」というところがある。アイヌ語でホッキ貝がたくさんある場所という意味の「ポク・オイ」から転じたそうだ。この地が「母恋」となったのは単なる当て字とも思われるが、非業の死を遂げたコタンの長老夫婦をその娘が探し歩いたという室蘭民話によるともいう。

ここに1935年開業の室蘭本線母恋駅がある。室蘭駅の隣の無人駅だが、母の日に因む入場券や乗車券を発売している。そして、「母恋めし弁当」という駅弁まである。箱の中には、特産品のホッキ貝の炊き込みご飯のおにぎり2個、燻製玉子、チーズ、漬物などが貝殻を添えて小分けの包装で入っており、手づかみで食べられる。

京王百貨店新宿店(東京都新宿区)は毎年、「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」を開催している。2019年の第54回大会は1月9日から22日まで開かれ、今年も連日大にぎわいだった。人気の駅弁には長蛇の列ができたが、その一つに「母恋めし弁当」があった。中身もさることながら、ネーミングのよさも見逃せない。

「サリ・ポロ・ペッ」または「サッ・ポロ・ペッ」が「札幌」、「ルルモッペ」が「留萌」、「ヤム・ワッカ・ナイ」が「稚内」、「ト・マコマイ」が「苫小牧」などなど、アイヌ語に由来する北海道の地名の漢字表記にはいろいろあるが、それらの中でも「母恋」は、クリーンヒットといえるのではないか。


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★次回予告

次回は5月13日(金)に『月刊不動産流通2019年4月号』より、
「日本全国不動産掘り出し情報4」を掲載します。お楽しみに!


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