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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務③法47条1号に関する事項(2)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年3月号』より、「法47条1号に関する事項(2)」を掲載します。

法47条1号に関する事項(2)

 今回は瑕疵の種類のうち、物理的な瑕疵について調査ポイントを解説する。

 一般に物理的瑕疵とは、取引物件に「物理的な欠陥」がある場合をいうので、主に土地に関する瑕疵と建物に関する瑕疵に分けられる。土地についてよく見られる物理的瑕疵としては地中埋設物や越境などが代表的である。一方、建物については、床・柱の傾きや雨漏りが多い。以下、これらに関する調査実務について考えてみたい。

1.土地の物理的瑕疵

⑴地中埋設物
 地中埋設物に関する紛争のほとんどは、買い主が建築する際の地耐力調査や基礎工事に発覚して問題となることが多い。中古戸建住宅用地を例にとれば、典型的な地中埋設物として過去の建物の一部(基礎や浄化槽など)や産業廃棄物、隣地の配管などがあげられる。

①過去の建物の一部(基礎・浄化槽)
 昔あった建物の解体が不十分で、基礎や浄化槽が地中に埋まっていることがある(写真1)。中には、明らかに処分費用を抑えるため基礎の一部を残したり、意図的に埋めてしまったりするケースもある。近年は産業廃棄物の処理について規制が厳しくなったため適正に処理されるケースが多いと思われるが、最近取り壊された建物でもこのようなケースが依然として報告されているので、過去に建物があった土地を取引する際に注意が必要である。

写真1 道路際に浄化槽が埋まっていったケース

 このように解体業者の問題もあるが、解体範囲の指示が具体的でなかったために完全に撤去されていなかった、といった発注者側が原因で起こることもある。建物取壊しを前提とした取引では、たとえ発注者が売り主で自ら仲介業者の立場であっても、解体業者が作成した見積書の内容は理解しておきたい。

②産業廃棄物
 ゴミやガラなどの産業廃棄物は、取引物件の種類として更地の取引に多い。特に長い間更地の状態であった場合、土地所有者の知らないところで第三者に産業廃棄物が埋められていることもある。この点は誰が土地の所有者であるか(あったか)とは関係なく注意したいところである。

 例えば地方公共団体が何十年も昔に開発した住宅団地の土地を1区画購入したところ、地中から大量の廃棄物が発見され、これらを撤去するために多額の費用が追加で発生したというケースもいくつか報告されている。他に、土地の所有者が長年付近に住んでおり熟知していた更地から第三者が埋設した産業廃棄物が見つかるといったことはよくあるケースで、土地所有者に関係なく長期間更地の場合は注意しておきたい。

③隣地の配管
 取引した土地に隣地所有者の排水管が埋設されており、あらかじめ説明をしていなかったため紛争になるケースも後を絶たない。このような隣地の配管が取引対象の土地を経由しているケースでは、生活関連施設に関する図面の確認だけでなく、売り主の聞き取り(告知書)で分かる場合がある。

 しかし、土地の前所有者である売り主が知らない隣地の配管があり、前々所有者まで遡って事情が分かることもある。大昔の所有者が隣地配管の埋設を承諾していたようなこともあるため、売り主だけでなく可能な限り近隣や関係者からも聞き取り調査をしておきたい。

⑵越境
 
土地に関する物理的瑕疵の代表として越境があげられる。越境についても、買い主に引き渡した後の確認申請の段階で気付き、紛争になることが多いようである。

 越境の見落としを防ぐには、あらかじめ建物図面などの資料をもとに現地で境界付近を注意深く観察することが基本的な調査となる。この場合の建物図面は、取引物件だけでなく隣地の建物図面も可能であれば入手しておきたい。

 越境で特に見落としがちな部分は屋根や庇など上空部分の越境で、現地確認の際に注意しておきたい部分である。これらの越境については、確定測量をしても土地家屋調査士から越境の指摘がなく、取引当事者や宅建業者も専門家に境界確定してもらっているから大丈夫と思い込み、後日紛争になるケースがいくつか報告されている。宅建業者としては専門家に依頼しても自ら境界付近の確認は行なっておきたい。

 越境の有無を確実に調査するには、下げ振りやトランシットのような測量機器を使用しないと分からない。これらの測量機器を使った調査は、宅建業者として通常の調査範囲を超えた領域であり、土地家屋調査士や測量士、建築士といった専門家に依頼することとなる。

⑶土地の物理的瑕疵に対する対策
 
以上を踏まえ、土地の物理的瑕疵に関する調査実務を考えてみる。

①物理的瑕疵の可能性を探る
 宅建業者が行なう通常の調査で土地の物理的瑕疵を完全に明らかにするのは不可能である。しかし、注意深く調査することで、瑕疵の有無について危険性のレベルは把握することができる。

 土地に物理的な瑕疵がある場合は必ずそうなった過去の経緯があるので、瑕疵の可能性を探るには「地歴」を調査することとなる。具体的な方法としては馴染みのある次の3つがあげられる。

①売り主への聞き取り調査
②隣地所有者等への聞き取り調査
③資料の収集確認

 このうち特に資料の収集は宅建業者の調査として重要である。通常の調査で必ず入手する生活関連施設などの図面はもちろん、過去に建物があった場合はその建物配置図や基礎伏図、設備図などの建築に関する資料も入手しておきたい。

 そのほか過去の地歴を表す資料として代表的なのが「航空写真」である。例えば、地中埋設物の可能性が高い土地として次のものがあげられる。

①過去に建物があり解体済みの更地(基礎等が埋設されている可能性)
②長い間更地のまま利用されていない土地(ゴミなどの産廃が埋設されている可能性)
③古い時代に分譲された土地(隣地配管が埋設されている可能性)

 このような過去の状況を知るには航空写真が有効であり、物理的瑕疵の調査として活用したいところである。

②危険性がある場合は専門家へ相談
 もし通常の調査で物理的瑕疵の可能性があれば、専門家へ相談すべきであろう。相談すべき専門家として、越境に関しては土地家屋調査士、地中埋設物に関しては建設会社や設備事業者などがあげられる。その場合、自ら調査した内容のほか、買い主の購入目的(どのような土地利用を予定しているのか)など、できるだけ自ら調査した内容をこれら専門家へ情報提供するのがよい。

 例えば、過去の建物基礎が埋まっている可能性があれば、建設会社に相談の上、買い主が予定している建築物の基礎ラインに沿ってあらかじめ油圧ショベルで1m程度試し掘りしてみる方法もある(写真2)。実際にこのような調査で地中埋設物が見つかり命拾いしたケースも多く報告されている。しかし一方で前述した隣地の配管が埋設されている場合などは、試掘することで配管を傷める恐れもある。実際に、あらかじめ宅建業者自ら収集した図面があったにもかかわらず、それを提供せず試掘調査をしてもらったため配管を破損させてしまい損害が生じた例もある。

写真2 油圧ショベルによる試掘

 土地家屋調査士へ依頼をする場合も、例えば自らの調査で屋根の越境が疑われるときは、その旨を伝えておけば、同じ測量を行なうにしても注意してもらえるだろう。このように専門家へはできるだけ情報を提供した上で依頼することが望ましい。

2.建物の物理的瑕疵

 建物の物理的瑕疵として代表的なのが床や柱の傾き、雨漏りや白蟻被害などである。以下、実際の紛争事例を紹介しながら考えてみる。

⑴床・柱などの傾き
 建物の物理的瑕疵としてよく紛争になるのが床や柱等の傾きである。築後十数年以上経過している中古住宅は特に注意が必要である。床の傾きについてはよく知られた「1000分の6」という基準があるが、極端な傾きでなければ事前の調査や内覧では体感で気付かないことも多い。

 よく見られるのは、買い主が入居後1~2ヵ月程度生活してから気付くケースである。その際、極端な床の傾きがあると、一定時間住むことで次第に軽い吐き気やめまいなどを感じるようである。そこではじめて床の傾きを疑い、売り主や仲介業者と紛争にまで発展する。

⑵雨漏り
 中古戸建住宅の雨漏りは新築時の施工の良し悪しにかかっていることもあり、築年数が相当経過したものでなくとも発生しやすい。また一度雨漏りが発生すると再発する可能性が高いのも特徴である。

 宅建業者にとって雨漏りに関する調査は、売り主に対して聞き取り調査や告知書が頼りになるが、売り主も知らずに生活していることがある。押し入れの内部ぐらいは開けて確認しておきたい。

⑶白蟻
 白蟻を物理的瑕疵と呼ぶかどうかは被害の程度によると思われるが、床・柱や雨漏りと同様の対策が考えられることから、とりあえずここで考えてみたい。実際の紛争事例を紹介する。

 宅建業者は長い間空家であった中古住宅の媒介依頼を受け、売買契約を成立させた。その際、売り主の瑕疵担保責任を免責とし売り主にも告知書を提出してもらったところ、告知書の白蟻に関する事項に「無し」と記載されていた。しかし引き渡し後、買い主がリフォームしたところ白蟻が発見され建物が一部腐食していたため、買い主は仲介業者に対し防蟻処理やリフォーム費用の一部負担を求め訴訟になった、というケースである。

 通常は白蟻に関しても告知書の取り付けで済ませていることが多いと聞いている。本物件は長期間空家であり売り主が正確に現状を把握しているとは思えないことから、本来は告知書に「無し」と断定的に記載があった場合は、売り主に白蟻がないと記載した根拠を確認し、場合によっては「知らない」への記載を促す必要があったかもしれない。

⑷建物の物理的瑕疵に対する対策
 これまで見てきたケースはいずれも中古の建物であった。新築住宅などは住宅の品質確保の促進等に関する法律をはじめとする法律があるため、物理的瑕疵に関する紛争は少ない。そこで中古住宅(既存住宅)に関して建物の物理的瑕疵に関して考えてみる。

①建物状況調査の実施
 先述した白蟻などは床下に潜ることをしなければ知ることはできず、そのような調査まで宅建業者が行なうことは困難である。建物に関する主な物理的瑕疵は、建物状況調査の範囲と重なる部分がほとんどであるから、中古住宅の取引では建物状況調査を実施することが対策として望ましい。

 建物状況調査の調査範囲は最低でも「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」とがある。これまで取り上げてきた建物の物理的瑕疵については、建物状況調査を実施することでかなりの程度が明らかになるだろう。

 建物状況調査は既存住宅売買瑕疵保険のためと考えられがちであるが、たとえ保険適用にならないことが明らかな住宅であっても、建物の物理的瑕疵を防ぐための手段と考えて実施するべきである。

②建物状況調査の実施上の注意点
 建物状況調査に関しては制度開始当初の見込みと異なり、現在は購入希望者から調査を希望するケースがほとんどである。その場合は事前に売り主の承諾が必要となるが、売り主から拒否されるケースも報告されている。しかし、そのようなケースで引き渡し後に買い主が建物状況調査を依頼し、瑕疵が見つかることで売り主や仲介業者とトラブルになるケースがいくつか報告されている。

 また建物状況調査は完全ではないことに注意しなければならない。建物状況調査により見つかった劣化事象のほかにも、引き渡し後に別の劣化事象が発見されトラブルになるケースも報告されている。調査できない部分もあるし、簡易な目視、計測により調査するのであるから、劣化事象が明らかになったことを保証するものではないことは、重要事項説明の際に相手方へ強調して説明しておきたい。

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★次号予告

次回は4月11日(月)に、『月刊不動産流通2019年3月号』より、
「地図博士ノノさんの鳥の目、虫の目」をお届けする予定です。

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