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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務⑤法47条1号に関する事項(4)-環境瑕疵-

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年5月号』より、「法47条1号に関する事項(4)-環境瑕疵-」を掲載します。

法47条1号に関する事項(4)-環境瑕疵-

今回は瑕疵の種類のうち、環境に関する瑕疵(環境瑕疵)について調査ポイントを解説する。

1.環境瑕疵の種類と紛争

⑴環境瑕疵とは
 一般に環境瑕疵とは、取引物件自体に問題はなくとも、周辺環境に問題がある場合に使われる言葉である。具体的には、近隣から騒音や振動、異臭などが発生する場合や、隣接建物から日照や眺望が阻害される場合などがあげられる。

 また、付近にごみ焼却場や廃棄物処理施設、遊戯施設等の施設があることにより環境上の問題となりうるような場合も環境瑕疵と呼ばれている。さらに土壌汚染なども環境瑕疵に分類されることがあり、必ずしも取引物件外の環境を原因とするものだけではないようである。

 このように、環境瑕疵については厳密な定義はないため、次回解説する心理的瑕疵や、これまで述べた物理的・法律的瑕疵と重複する瑕疵もある。ここでは講学上の分類にこだわることなく、周辺環境を原因として取引物件が影響を受けるものを環境瑕疵と呼び、この調査実務を考えてみたい。

⑵環境瑕疵の種類と紛争
 周辺環境を原因とする瑕疵とその紛争に関しては、次のようなケースが多くみられる。

①騒音・振動・異臭
 環境瑕疵と呼ばれているものの中で、これらの紛争が最も多い。例えば、飛行場が付近にあり著しい騒音がある、入居後に隣接する工場からの騒音・振動に悩まされる、付近にライブ会場があり、演奏の際の振動が著しい、付近に豚舎があり異臭がする、など多く報告されている。

 これらは短時間の現地確認で気付かず告知漏れとなるケースがほとんどである。

②日照や眺望障害
 日照や眺望が阻害されることでトラブルになるケースも多い。この紛争の特徴は、現在良好な環境でも後に付近に建築された建物で障害を受けトラブルになる点である。このため現在の状況だけでなく、将来の建築計画など付近の環境変化に気を配ることも調査では重要となる。

③浸水等の自然災害
 例えば豪雨により床下浸水被害に遭い、後に浸水被害がよく見られる地域であったことを理由に相手方からクレームや訴訟になるケースである。昨今自然災害が多く見られることから、今後もこの手の紛争が多くなると予想される。

④嫌悪施設
 騒音や異臭とも関係するが、近隣にごみ焼却場や廃棄物処理施設、遊戯施設等の施設がある場合、その他暴力団事務所や、新興宗教団体施設が存在するケースも環境瑕疵と呼ばれることがある。これらはその存在自体だけで瑕疵と呼べるかどうか微妙であるが、社会通念上普段の生活が脅かされるときは、少なからず紛争になるケースが多い。

 以上が環境瑕疵に関して多くみられる紛争であるが、次に、これら環境瑕疵から発生するトラブルをできるだけ未然に防ぐ調査について考えてみたい。

2.調査実務のポイント

 環境瑕疵を未然に防ぐための特別な調査方法はなく、通常通り①現地確認、②売り主・近隣住民からの聞き取り調査、③各種資料の収集確認が必要になる。この場合、今は環境瑕疵がなくても、将来発生することが予見可能であれば告知しておくべきである。

⑴現地確認
①五感に気を付ける
 人の持つ五感は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚に分けられるが、現地では、このうち特に目、耳、鼻に嫌悪するものがないか確認しておくことが大切である。

 目(視覚)に対する環境瑕疵として典型的なものは暴力団事務所があげられるが、施設に紋章が掲げられていなければ気付かないことも多いため、次の聞き取り調査を合わせて確認することが重要である。他に目に嫌悪する施設として、心理的瑕疵と重複する「墓地」などをあげることができる。

 一方、耳(聴覚)や鼻(嗅覚)に嫌悪する環境瑕疵としては、騒音や異臭
を感じることであろう。言うまでもない。これらの現地確認は、時間が許される限り日時を変えて確認すると良い。人の日常生活のサイクルは平日と休日、また早朝、昼間、夜間などでそれぞれ異なっており、発生する騒音や臭いなども異なることがある。例えば、サラリーマン世帯などが内覧するのは休日が多いが、工場などは平日のみ稼働していることがほとんどである。このため休日は静かであっても平日には工場から著しい騒音と振動に悩まされトラブルになるケースが多い。他にも、朝や昼は静かな環境でも、夜は付近のスナックから大きなカラオケの音が聞こえてトラブルになったケースもある。こうして考えると、宅建業者はこれら組み合わせの数から最低6回は現地を見ておきたいところである。

 現地案内をする際は、通勤・通学や普段買い物する際のルートなどを、購入等希望者と一緒に移動し確認することも大切である。環境瑕疵に相当する施設が同じ距離にあっても、これらのルート途中にあるのとないのでは、瑕疵の程度も異なるはずである。この場合、車で現地案内すると物件途中の状況を見落としがちになるので、できれば徒歩や公共交通機関を使って確認すべきであろう。

②看板・標識の確認
 付近の建築計画に関しては、現地で「建築計画のお知らせ」といった看板・標識(図1)がないかどうか注意しておく。

 多くの自治体では、中高層建築物の建築に伴う紛争の迅速かつ適正な解決を図るために条例が制定されている。中高層の建物を建築する際、通常はこの条例に基づき、建築計画に関して標識の設置や近隣関係住民に対する説明会の開催などを行なうよう指導されている。例えば東京都杉並区の場合、確認申請の15日または30 日前に標識が設置され、近隣住民へ説明が行なわれる(図2)。

⑵聞き取り調査
①居住者・近隣住民に対する聞き取り調査の必要性
 住宅地図をみたときは、付近に騒音・振動や臭気を発する施設がないかどうか確認することも大切である。しかし住宅地図で確認するにあたり、取引物件からどこまで範囲を広げて確認したらよいか一概に言えないのが難点である。例えばトラックのルートの途中に取引物件があると、たとえ物件付近にトラックの目的施設がなくとも騒音や振動の被害に悩まされる可能性がある。

 また、たとえ住宅地図などで工場や豚舎などの施設を確認しても、その施設から受ける影響は人によって感じ方がそれぞれ異なるものである。騒音や臭いなどを客観的な数値として把握したい場合、これらを測定する機器として臭気測定器や騒音計、振動計などがあるが、いずれも高額であり宅建業者の調査としては、いまだ購入やレンタルするだけの価格に見合っていないのが現状である。このため環境瑕疵の調査にあたっては、売り主の告知書や近隣居住者への聞き取り調査が欠かせない。

②近隣住民を原因とするトラブル
 近隣住民に聞き取り調査をする際は、聞き方はさまざまであるが、内容としては前述した五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)に関して普段生活して悩まされることがないか、雑談程度でも聞いておくとよい。

 近隣住民と話をすることで、その人物または近隣住民の中に問題行動を起こすような人がいることが分かる場合もある。隣人や近隣住民が問題行動を起こすような場合も環境瑕疵の一つといえ、例えば意味もなく脅迫や恫喝したり、奇声を発したりするような人物は紛争になるケースとしてよく見られる。

⑶各種資料の活用
 通常の調査で確認している資料だけでなく、容易に入手可能な資料を活用することで環境瑕疵に関するトラブルを未然に防げることがある。以下は典型的な環境瑕疵を知る手がかりとして活用できる資料である。

①都市計画図
 通常行なわれている都市計画の調査も、環境瑕疵の判断材料に役立つ。例えば、用途地域の一つである準工業地域などは13種類ある用途地域のうち最も規制が緩やかであり、空地や老朽化建物が隣接または近隣にあれば、今後どのような建物が建築されるか予想がつかないため、注意が必要となるエリアである。

 また裁判で建築工事中止の仮処分が認められたもので比較的多いのは住居系用途地域で、反対に商業地域などは仮処分申請が却下された判例がある。低層住居専用地域はよいとしても、第1種または第2種住居地域などは今後中高層の建物が建築される可能性があることも念頭におくべきであろう。

 さらに付近に都市計画道路などが予定されている場合も注意が必要である。取引物件に指定されていなくとも付近に都市計画道路がある場合、将来拡幅工事に伴う騒音や、完成後の交通量の増加により想像以上の騒音が発生することも考えられる。このように、都市計画の内容の調査は取引の対象となる不動産だけでなく、周囲まで確認しておくと危険性が分かることがある。

②建築計画概要書・近隣説明資料
 この他、通常の役所調査で「建築計画概要書」の閲覧をするケースが多いと思われるが、これも取引物件だけでなく周囲に建築が計画されている場合は、その建物の閲覧または写しを入手しておくとよい。

 また前述した近隣説明にあたり、通常は建築会社から日影図などが提供される場合は、将来その建物から受ける日照時間の影響を知るための資料となる。

③過去の災害履歴やハザードマップ
 環境瑕疵のうち河川の氾濫による被害などの自然災害については、災害履歴図やハザードマップの情報が参考になる。これらのうち災害履歴図は過去に発生した自然災害(地震災害や、水害・土砂災害、地盤沈下など)が掲載されており、ハザードマップは将来発生する可能性のある自然災害について被害範囲を予測したものである。

 いずれも活用にあたって注意が必要であるが、紙面の都合上、別の機会に譲ることとしたい。

④アットホームが提供する「不動産データプロ」
 以上の資料を個別に集めるのは時間と手間がかかる。環境瑕疵の調査項目のすべてではないが、一定の事項が網羅されているサービスとして、アットホーム㈱が提供する「不動産データプロ」サイトを紹介する(図3)。

 同サイトが提供する情報のうち、環境瑕疵と関係するものとしては主に次のものがある。

❶嫌悪施設の有無(図4:葬儀場やガソリンスタンド、線路・道路・空港等など、一部の施設であるが取引物件付近の有無や位置関係を示してくれる)

❷地震発生時のゆれやすさ・付近の活断層
❸液状化の可能性
❹浸水の可能性(標高・浸水想定区域)
❺周辺の避難場所・避難所
❻付近の土壌汚染対策法の要措置区域・形質変更時要届出区域
❼土地の履歴( 古地図・航空写真・年代ごとの土地利用の状況・土地条件図)

 筆者も必ず不動産鑑定の初動調査で参考にするサイトであり、宅建業者も同サイトが開設されてから取引で活用している者も多いと聞く。出典のデータや前提条件、判定手法の違いなどや、必ずしもリアルタイムで更新されているわけではないため、必ず各機関が公表している資料なども併せて利用する必要があるが、前述以外の調査項目(公共施設や世帯数など)も含め、数分でフルレポートが自動作成されダウンロードが可能であり、初動調査に役立つ便利なサイトである。環境瑕疵のみならず他の調査でも同サイト活用の検討を薦めたい。

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★次回予告

来週は、『月刊不動産流通2019年5月号』より、
「地図博士ノノさんの鳥の目、虫の目」をお届けする予定です。

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