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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務⑩更地の売却(4)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年10月号』より、「更地の売却(4)」を掲載します。

更地の売却(4)

 今回は取引全体においてもトラブルが一番多い「法令上の制限」について、更地の売買における典型的な紛争を紹介し、トラブルを未然に防ぐための調査実務について考えてみたい。

1.法令制限に関する説明誤り

 重要事項説明の紛争では法令上の制限に関する説明誤りが最も多く(図表1)、これは更地の売買においても同様である。更地の売買に関していえば
法令制限のトラブルの特徴は、その土地に建物があれば防げた(発生しなか
った)紛争が多い。紛争のきっかけとしては、買い主が引き渡し直後に建築
を計画したところ、期待通りの建築物が建築できないことが分かりクレーム
や訴訟になるというのがよくあるパターンである。

 以下では、更地の売買で法令制限に関する説明漏れや説明が誤っていたた
め紛争になったケースを紹介する。


2.建築基準法に関する紛争

 更地の売買では、法令上の制限のうち建築基準法に関する紛争が最も多く
見られる。中でも(1)「道路後退の説明誤り」、(2)「用途制限に抵触するケー
ス」、そして(3)「条例や要綱の確認漏れ」がワースト3として挙げられる。

(1)2項道路の後退範囲
 更地の売買で最も多いのが建築基準法42条2項道路の後退に関する説明誤りである。例えば図表2のように、2項道路であることは調べても、後退範囲を誤って説明して紛争になるケースが多い。

 この紛争事例では、道路の反対側の土地が過去に分譲団地として開発されており、そのときに当時の開発指導要綱に基づき後退していたため、現況幅
員を過大に測っていたことが原因である。法42条2項道路は指定された時点
の幅員で中心線を決めるのが原則であり、当該地の特定行政庁も同様であっ
た。このようなケースでは、現況幅員から中心線を判断するのではなく、改
めて中心線の位置を担当窓口で確認しておかなければならない。
 2項道路の具体的な調査方法については以前の連載で解説しているので省略するが(2017 年3 月号同コーナー、Vol.4「道路に関する調査(2)」を参照)、特に更地の売買にあたっては必ず道路中心線を慎重に調査確認しておくことが重要である。

⑵用途制限
 
次に多いのが建築基準法48条に定める用途制限に係る紛争で、買い主が店
舗、事務所、倉庫などの事業用不動産の建築を予定している場合にトラブル
が発生することが多く、特に、近年の大型倉庫や物流倉庫の高い需要に伴い
倉庫の建築を予定した更地の売買において紛争が多く見られる(70頁図表3)。
 用途制限に関する紛争の原因は、建築基準法(別表第二)しか確認せず、
施行令や役所の見解まで踏み込んで調査していなかったケースがほとんどで
ある。

 例えば、「倉庫業を営む倉庫」の取り扱いについて、一般に行政の見解と
しては「自らの物品」を保管、貯蔵するために使用する場合は営業用倉庫で
はなく、逆に、「他人の物品」を保管、貯蔵することを業としている場合には倉庫業を営む倉庫として扱われることが多い。この点については倉庫を賃貸する場合も同様であり、借り主が自己使用するか倉庫業を営むかによって異なるようである。

 従って、単に倉庫といっても買い主が業として行なっているかどうかが建
築可能かどうか判断の分かれ目となることから、倉庫を建築する予定の買い
主に対しては、単に建築計画だけでなく会社の属性や業種業態まで確認して
おくことが重要になる。役所の担当窓口ではこれらの点を踏まえて用途制限
を確認しておくべきであろう。

 なお本件の用途制限は建築基準法48条であるが、他にも都市計画で特別用
途地区や、地区計画、特定用途制限地域、臨港地区などが定められていれば、これとは別に用途制限があるので注意が必要である

(3)条例や要綱など
 その他に建築基準法に関する紛争として、条例や要綱、役所指導による紛
争が更地の売買で多く見られる。

 各都道府県をはじめ特定行政庁には建築基準法に関する条例や省令を定めているところがほとんどであり、更地の売買に限らず必ず規制内容を確認しておかなければならない。特に条例等の中で最も多いのが「がけ条例」に関する紛争であり、多くの地方公共団体に見られる規制である。条例は改正に
なることが多く、また、その取引する地域ごとに規制内容が異なるので、必ずその都度確認しておくべきである(図表4)。

 条例や省令のほかにも「役所独自の指導」でトラブルになることがある。
役所の指導は条例等で明文化されておらず、後に買い主が建築する段階になって分かることが多い。例えば、前述のがけ条例に関して地方公共団体で定めがあるにもかかわらず、これとは別に市町村レベルで規定対象の高さより低いがけであっても、独自に離隔距離を設けるよう指導をする行政もあり、確認申請が降りないことで紛争になる。法令上も根拠がない行政指導の有無を調査で確認しなければならないとすれば宅建業者に過度の負担がかかることになることから、法令制限については説明とは別に役所の指導を受けることがある点を容認事項として書面に記載しておきたい。


3.都市計画法に関する紛争

 都市計画の説明誤りからくるトラブルも、更地の売買では一定数見られる紛争である。この場合、役所のホームページしか見ておらず担当窓口で確認していないことも多いようである。しかし、役所のホームページはその記内容について責任を負わないとしているところがほとんどであり、もしホームページの記載内容に誤りがあったとしても、その責任は宅建業者が負わなければならなくなる。このため、たとえホームページで都市計画の内容が掲載されていても、必ず役所の窓口で再確認することが必要である。

 一方、役所調査はしているが窓口担当者の説明漏れや担当者が資料を見間違っていたと思われる紛争もある。そのような場合でも直接的には宅建業者へクレームが来ることになり、何らかの身の保全を図る必要があるだろう。以下では、そのような原因と思われる紛争を紹介する。

(1)都市計画道路予定地
 役所担当者の説明漏れで最も多いのが「都市計画道路予定地」であること
の説明がなかったケースである(図表5)。この手の説明漏れには原因があり、その役所の都市計画図が地域地区と都市施設といった具合に複数分かれていて、一方の都市計画図しか見ていなかった(説明されていなかった)というものである。

 もっとも役所の担当者の弁解として「聞かれたことしか回答する義務はない」と言われればそれまでで、宅建業者としても窓口担当者の善意に頼り、一つのことを聞けば都市計画の内容すべてを回答してもらえると期待するわけにはいかないだろう。

 そこで都市計画の担当部署に行った際は、次の点に留意して都市計画の内
容を確認しておきたい。

①包括的な聞き方をする
 都市計画の調査にあたっては、窓口での切り出し方として包括的な聞き方をしておきたい。「市街化調整区域ですか」とか「用途地域を教えてください」という具体的な切り出し方ではなく、「都市計画の内容を教えてください」といった聞き方が好ましい。

②他の都市計画の内容を再度聞く
 他の都市計画の内容についても聞いてみるのも手である。例えば、用途地域しか回答がなかった場合、それ以外の都市施設や地区計画などの指定がないかどうか改めて尋ねてみると、もう一度都市計画図を見返してもらえ担当者の伝え忘れや見落とし防止にもつながる。

③別の日時に改めて確認しに行く
 現実には同じ行政窓口でも担当者によって質やレベルが異なるという実感がある。担当者の回答に不安があるときは、時間や日にちを変えて改めて訪問し、別の担当者に再度確認するなどの慎重さが必要なときもある。

(2)防火・準防火地域
 次に都市計画の紛争で多いのが、防火地域または準防火地域が更地の一部にかかっていることの説明を受けず、紛争になるというケースである。

 言うまでもなく、建物が少しでも防火地域にかかると全体が防火地域の規制を受ける。このため、木造家屋を建築しようとする買い主から耐火構造にするための建築コストの差額分を損害として賠償させられるというのが典型
的なケースである。特に都心部では防火地域を避けて設計できるほど余裕のある敷地は少なく、郊外よりも多くトラブルが見られる(図表6参照)。

 これに対しては都市計画証明制度があれば利用しておくことが防止策につ
ながるだろう。都市計画証明とは都市計画の内容を役所が書面で証明してい
るもので、役所によっては別の呼び方をしているところもある。


4.法令制限に関する紛争の未然防止

 以上、更地の売買について法令制限に関する紛争を見てきた。いずれの紛
争も引き渡しの直後に買い主が建築するケースが多く、契約前にあらかじめ具体的な建築計画等を確認していなかったことが原因といえる。

 更地の購入者はおおよそでも建築計画が決まっていることが多いことから、具体的に①用途、②規模、③構造の3点は少なくとも確認しておきたい。その上で、相手方の建築計画等が実現可能かどうか役所で確認すべきで
ある。

 一方、更地の売買でも買い主の利用目的が具体的に決まっていない場合もあるだろう。このような場合、現時点では法に定める最低限の法令を説明していること、そして具体的な建築計画等が決まったら、改めて注文先の建築会社等と一緒に法令制限を確認することを重要事項説明書で注意喚起しておきたい。

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