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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務④法47条1号に関する事項(3)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年4月号』より、「法47条1号に関する事項(3)」を掲載します。

法47条1号に関する事項(3)

 今回は瑕疵の種類のうち、法律的な瑕疵について調査ポイントを解説する。法律的瑕疵といえば、都市計画道路予定地、建ぺい率・容積率違反などが判例で多くみられるが、これらは通常、宅建業者の調査範囲である。そこで、ここでは法35条に例示されていない法律的瑕疵について考えてみたい。

1、税務に関する事項

 法35条に説明義務として例示されていない法律に関するトラブルの多くは、税務に関する事項である。特に多いのが特例適用の説明誤りであるが、他にも時々見かけるのが消費税に関する事項、そして最近多いのが外国人等から購入した場合の源泉徴収の説明漏れである。

⑴外国人等から購入した場合の源泉徴収
 海外に居住している者が日本の不動産を売却する際、あるいは日本の不動産を購入した外国人がその後で転売する際に、気を付けなければならないのが所得税および復興特別所得税を源泉徴収されるケースである。

①紛争事例
 外国人である売り主から5000万円で土地を購入した買い主が、後に10・21 % の源泉徴収510万5000円を納付するよう税務署から通知が届き、売り主と仲介業者がクレームを受けたというものである(図1)。買い主は仲介業者に対して、法47条1号の重要な事項の告知義務違反であるとして、不法行為を理由に損害賠償請求してきたようである。

②紛争の原因
 非居住者や外国人から日本国内にある土地等を購入して、その譲渡対価を国内で支払う者は、非居住者等に対して対価を支払う際に10・21%の税率で所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。この点を当事者や仲介業者が知らなかったことが原因であった。

 買い主に源泉徴収義務が発生する根拠は日本が締結している多くの租税条約に基づくもので、土地等の不動産の譲渡対価に関してはその不動産の所在する国でも課税できるとされていることにある。このため、非居住者等が国内にある不動産を譲渡した場合には、租税条約において譲渡により生じる所得について日本でも課税できることになっており、国内法通りの課税をすることになる。

 ここで源泉徴収義務者には「土地等の譲渡対価の支払をする者」のすべてが含まれていることから、一般のサラリーマンなども原則として源泉徴収義務者になる。一般の給与所得者の場合や、取得時よりも売却時の方が低い売買代金で損失が発生した場合など、特に申告する必要がないという思い込みからトラブルになるケースもみられる。

③紛争の未然防止
 源泉徴収義務に関しては、本件のような場合に調査告知義務はないとした判例がある(東京地裁 平成22年10月18日判決)。判決の内容は、宅建業者と買い主との間では単に媒介契約を締結したに過ぎず、重要事項説明として買い主が負担すべき税金の内容や金額、源泉徴収義務の存否等についてまで調査、報告すべき義務を負うものではない、というものである。

 確かに、重要事項説明書や売買契約書をみれば、買い主は売り主が外国人かどうかを推測することができる。しかし、非居住者等から土地等を購入したときに源泉徴収が必要になることはあまり知られておらず、今後日本の不動産取引において外国人等との取引が多くなることが予想されることから、
たとえ説明義務はなくとも宅建業者として相手方に注意喚起しておくぐらいの配慮は必要であろう。

 なお、個人が自己またはその親族の居住の用に供するために、非居住者等から土地等を購入した場合であって、その土地等の譲渡対価が1億円以下である場合には、その個人は、支払の際源泉徴収をする必要はないことも合わせて知っておきたい。

⑵消費税の説明記載漏れ
①紛争の概要
 本件は、賃貸マンション一棟の売買契約の代金を総額表示で締結したところ、契約後に売り主が課税事業者に該当するため消費税がかかることが分かり、手取り額が少なくなったことを理由に売り主から消費税分の補填を求められたという紛争である。

 土地・建物の売買契約において、宅建業者が売買契約書の総額表示に土地・建物・消費税額の内訳を記載していなかったため、説明不足を原因に仲介業者が賠償請求を求められ、売り主に対して消費税相当額約280万円を支払わなければならなくなった。

②紛争の原因
 本ケースでは仲介会社が独自に作成した書式を使って重要事項説明や売買契約を締結しており、その書式に消費税を記載する欄を設けていなかったのが原因である。一方、売り主も売買にあたり消費税が必要になることを認識しておらず、重要事項説明時等において消費税に関する記載・説明を行なわなかったために紛争となった。

 通常、宅建業者は不動産取引にあたり自身が所属する不動産団体が作成している書式を利用することが一般的である。しかし各団体が作成している書式は、主に自己の居住用不動産を前提としているものが多く、一棟の賃貸マンションをはじめとする収益用不動産の売買については独自に書式を作成せ
ざるを得ないケースがある。

 本件でも宅建業者が独自に書式を作成し、結果として消費税の内訳記載のないもので重要事項説明と契約を行なってしまったことで紛争となった。

③紛争の未然防止
 消費税に関して国土交通省「宅地建物取引業法解釈運用の考え方」では表
1の通り、宅建業法47条1号に該当するとの見解を示している。

 近年、投資用不動産の取引など、各不動産団体が作成した書式では対応できない取引のケースが見られる。独自で書式を作成する場合、必ず消費税相当額を記載する欄を失念しないよう注意しておきたい。

 類似の紛争として、法人間取引の場合などで通常顧問税理士がいることから記載・説明を行なわなくてよいと考え消費税を説明しなかったところ、決済前に売り主側税理士からの指摘でトラブルになるケースも報告されている。表1の通り、消費税は法47条1号に関する事項であるから、個人法人を問わず必ず当事者へ説明しておかなければならない。

⑶その他税務に関する紛争
 その他瑕疵ではないが、税務に関して宅建業者の誤った説明により紛争となるケースが多くみられる。例えば、①仲介業者が契約前に売り主に対して長期譲渡所得の説明をしたが、実際には短期譲渡所得となったため差額を賠償させられたケースや、②住宅ローン控除の適用を受けられると説明をしたところ、実際には特例が適用されず紛争になったケース、③居住用財産を譲渡した際の各種特例について説明したが、実際には要件を満たしておらず適用されなかったケースなど、多くの紛争事例が報告されている。

 いずれも宅建業者が税に関して誤った説明をしたため、当事者が不測の損害を被った典型的なケースである。宅建業者は税に関する専門家ではないため、必要に応じて税務署の相談窓口や税理士へ確認するなどの対応が必要であり、同時に、当事者自身も必ず自ら確認してもらうよう促す必要がある。

 また一般論を超えて具体的に踏み込んだ税務相談を受けたとき、場合によっては税理士法にも抵触する可能性があることに注意しなければならない。宅建業者は原則として取引関係者に対し税について調査説明をしたり、調査の求めに応じたりする義務はないとする判例がある(大阪高裁 昭和49年11月6日判決、東京地裁 昭和49年12月6日判決)。税務に関しては一般的な説明をするのは良いとしても、必ず当事者自ら税務署や税理士に確認してもらうことが必要である。

2、条例に関する事項

⑴宅建業法施行令3条に関する条例
 次に法律的瑕疵として多くみられる紛争に「条例」があげられる。よく知られているのは建築基準法に関する条例(特に「がけ条例」)であるが、他にも都市計画法に関して、開発行為の許可基準に関する条例や市街化調整区域内の建築に関する条例、自然公園法における特別地域内の各種行為に関する運用指針などがあり、これら条例等を知らずに調査せず紛争になったケースが多く報告されている。

 このような重要事項説明で義務付けられた法令は、さらに手続きや運用など細部に関して各地方公共団体が条例を定めていると考えた方がよい。もし法令上の制限に該当する事項があれば、条例が定められていないかどうか窓口等で確認しておく必要があるだろう。

 その際相手方の契約目的を明確にしておく必要がある。条例や運用で定めている事項は多く、相手方が何を目的としているのか確認しておかないと、条例や運用のすべてを理解し説明するのは困難である。

⑵重要事項説明で例示されていない法令
 条例の紛争については、宅建業法に重要事項説明として列挙されていない法令もある。近年次第に増えつつある紛争が、各地方公共団体が定めた土砂の埋立てに関する条例に抵触するケースである。

①紛争の概要
 宅建業者が仲介した土地取引で、引き渡し後に買い主が建築のため整地工事にかかったところ、土砂の埋立ての条例による手続きがなかったために役所から工事を中断させられ、さらに手続きのための費用が発生し、工事遅延とあわせて520万円の損害賠償を請求された、という紛争である。

②紛争の原因
 これまで土砂の不適正な処理がみられた自治体では、埋立てによる災害発生の防止を目的として一定規模以上の土地の埋立て等を規制した条例を定めている。本ケースでは条例に基づき一定の書面を作成して届出をしなければならなかったが、それを怠ったため措置命令が発令されたものであった。

 本件取引を仲介した宅建業者も役所での調査は一通り行なっていたが、本条例があることを知らず紛争となったようである。

③紛争の未然防止
 土砂の不適正な処理は最近になって顕在化した問題というわけではないが、近年は地方公共団体において条例化する動きが見られる。

 土砂の埋立行為が規制対象となる法令としては、重要事項説明の対象である「宅地造成等規制法」をはじめさまざまあるが、いずれも直接的に規制するものではなく土砂の不適正な処理に対して有効ではなかった。このため県レベルでは、千葉県が初めて1997年に土砂の埋立てに関する条例を制定したのをきっかけに(参考文献参照)、以降相次いで全国的に県や各市町村で条例や要綱が制定されるようになった。

 前述の紛争事例では、土砂の埋立てにあたり届出が必要であったが他の市町村では許可制としているところもある。建築工事等にあたり整地や掘削等が必要になることが多いことから、今後は土砂の埋立てに関する条例にも気を付けておきたい。

参考文献:黒坂則子「土砂埋立て等の規制に関する条例の現状と課題」日本不動産学会誌/ 第29巻第2号(2015年9月)

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★次回予告

次回は5月9日(月)に、『月刊不動産流通2019年4月号』より、
「地図博士ノノさんの鳥の目、虫の目」をお届けする予定です。

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