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事例研究 適正な不動産取引に向けて⑩

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「事例研究 適正な不動産取引に向けて」。
(一財)不動産適正取引推進機構が、実際にあった不動産トラブル事例を紹介しながら、実務上の注意点を解説する人気コーナー。今回は『月刊不動産流通2019年10月号』より、「更地引き渡しを条件とした土地売買での地中残置物の撤去費用をめぐる事例」を掲載します。

★更地引き渡しを条件とした土地売買での地中残置物の撤去費用をめぐる事例

土地を更地渡しの約定で購入した買主が、地下室や解体ガラが地中に残置されていたとして、売主および解体工事請負業者に対して、その撤去・処分費用の支払いを求め、認められた事例(東京地裁 平成29年10月3日判決 認容 ウエストロー・ジャパン)。

1、事案の概要

平成24年11月、不動産事業者である買主Xは、法人である売主Y1との間で、Y1が所有する土地(本件土地)を売買する契約(本件売買契約)を締結した。本件売買契約には、Y1の責任と費用負担において本件土地上の建物(本件建物)を解体し更地にて引き渡す旨の特約(本件特約)があり、Y1は本件建物の解体工事をY2に発注した。平成26年2月、解体工事が終了したとしてY1はXに本件土地を引き渡し、同日、Xは本件土地を不動産事業者Aに転売した。

しかし、Aの本件土地での建物建築工事の際に地中から地下室(本件地下室)が発見されたことから、Xはその解体撤去費用等として、Aに対し1472万円余を支払った。

Xは、①Y1はXに対し、本件特約により、本件地下室を含め本件建物をすべて解体撤去する義務を負っていたにもかかわらず、本件土地の地中に本件地下室の躯体の一部ならびに本件建物の解体によって生じた鉄筋およびコンクリートガラ等(本件地中障害物)を撤去していないから、本件売買契約に係る債務不履行責任を負う。②また、Y2はY1から本件建物を解体撤去することを請け負ったにもかかわらず、これを完成させず、故意に本件地中障害物を本件土地の地中に埋め戻したから、Xに対し、共同不法行為責任を負う。

として、Y1およびY2に対し、Xが本件地中障害物の撤去に要した費用等1472万円余の賠償を請求する本件訴訟を提起した。

これに対してY1およびY2は、①Y1は、本件特約により地中の異物をすべて撤去すべき義務を負っていない。②Y2は本件建物の解体工事を完成させており、本件地中障害物を埋め戻した事実はない。

と反論した。

2、判決の要旨

裁判所は次の通り判示し、Xの請求を認容した。

⑴本件売買契約には、Y1は、Xに対し、本件各建物を解体撤去して本件土地を更地にして、平成26年9月末日までに引き渡す旨および解体撤去の対象となる本件建物には本件地下室が含まれる旨が明記されているから、Y1は、Xに対し、本件地下室を含め、本件各建物を撤去すべき義務を負っている。

⑵認定事実のとおり、本件土地の地中には本件地中障害物が埋設されており、これが鉄筋、コンクリートガラおよび躯体であったことからして、Y2が本件地中障害物を完全に解体撤去せず、本件建物の鉄筋およびコンクリートガラとともに本件土地に埋め戻したものと認められる。そして、Y2の担当者は、週に2回程度は本件地下室の解体工事の現場を確認しており、本件地中障害物が残置されていることを認識することができた。それにもかかわらず本件土地の地中に本件地中障害物が解体撤去されず残置されたのであるから、Y2には本件地中障害物を解体撤去しなかったことについて少なくとも過失がある。

Y1についても、本件特約に係る本件建物の解体工事の履行補助者であるY2が本件地中障害物を解体撤去しなかったことについて過失がある以上、本件売買契約の債務不履行について責めに帰すべき事由がある。よって、Y1は、Xに対し、本件特約に係る本件地下室を含めた本件建物を完全に解体撤去すべき義務を履行しなかったことについて債務不履行責任を負う。

⑶またY2は、上記のとおり本件土地の地中に本件地中障害物が解体撤去されず残置されたことについて過失があるから、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

以上により、Xの請求はいずれも理由があるからこれを認容する。

3、まとめ

本件は土地の売買において、売主が地中に存在する地下室を解体撤去する義務の有無および売主らが建物を完全に解体撤去したかどうか、ならびに本件特約義務の違反および売主らの共同不法行為責任の有無が争われた事案で、買主の請求をすべて認めた裁判所の判断は妥当なものと考えられる。

土地の更地渡し売買に当たっては、地中埋設物が問題となることが多く、廃材を地下に埋設した出来事を、その当時の代表で売買契約の時点では引退している元・代表が知っていたとして、売主の悪意を認め、賠償を命じた事例(東京地裁 平成29年10月27日判決)等のケースもある。

媒介事業者には、売主と買主の認識相違を回避するために、重要事項説明の適切な記載や、より明確な特約条項の表現が求められるところである。

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