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【文学フリマ】遺産と希望と、戦果報告

筆折れば名無しです。

文学フリマ東京38に、初めて参加しました。

そのときの興奮や驚きは以前記事にてご紹介しましたが、
今回は、「文学フリマ」というイベントそのものにたいする所感をだらだら書いていきます。

(⇩ 文学フリマの歩き方を初参加目線で説明しました)

さっそく本題に入ります。
私が文学フリマに参加して感じたことは、

① 90年代のオタク文化のレガシーがここにあったという興奮と懸念
 (入場の有料化について)
② それでも同人の未来は明るいという希望

という二方向の印象でした。

それに加えて、現地参戦した私が購入した書籍を戦果としてご報告します。


遺産と…

今昔対比:昔のオタク

今の【オタク】と、昔の【オタク】は違う。
巷で耳にする言説です。

私もあるていど過去の時代に触れてきた人間として、それを感じています。

特に顕著なのは80年代、90年代。
それはアニメオタク、ゲームオタクが出現した時代です。

それまではアニメは〈子供〉がみるものでした。


しかしこの時代には日本を代表するアニメ、ゲームが誕生します。
外国人が日本のアニメやゲームとしてイメージするそれらの作品群です。

宇宙戦艦ヤマト、ガンダム、鉄腕アトム
ドラゴンクエスト、ゼルダの伝説、ファイナルファンタジー。
(この世代がいわゆる〈異世界転生なろう〉や〈ゲーム風中世ヨーロッパ〉を舞台にしたWEB小説の読み手・作り手となっているのが「なろう」ブームの背景にあると個人的にはみています)

これらのゲーム・アニメ(以降サブカルチャー=サブカル)に囲まれて青年期を過ごしたネイティブサブカルといった人種が登場してきます。

そして90年代後半から2000年代。
『エヴァンゲリオン』や『涼宮ハルヒ』の時代です。
こうしたサブカルを存分に摂取した人たち=オタクが成人し、社会に進出します。

そしてこの頃のオタクの特徴が、〈自分だけが知っている〉という優越意識による熱狂的あるいは偏執的な存在でした。

彼らは独自の解釈を示すことで、他のオタクとは違う〈自分〉としてアイデンティティを確立していました。
新しいものを発掘するのにも意欲的で、この作品は〈自分だけが知っている〉ことに喜びを感じ、有名になったときに古参ヅラする。

根暗でデュフフなオタクのイメージが形成されました。


今昔対比:現代のオタク

一方で現代のオタクはどうでしょう。

一言であらわすと、
〈みんなも知っている〉コンテンツを知っている自分として
オタクアイデンティティを確立します。

自分だけの解釈を垂れると、
「あの人は空気を読めない」「作品批判はNG」と思われる。

自分が発掘した作品よりも
「SNSで実況できる」、「学校で話題にできる」作品を。

過去のオタク特有の〈自分だけが知っている〉ではなく、
現代のオタクは〈みんなと共有できる〉ことにアイデンティティを求めている

このような感覚を覚えたことはありませんか?

①ニコ生のコメント機能やSNSのリアルタイム実況の盛り上がり
②作品批判は毛嫌いされる肯定コミュニティの形成(YouTubeやSNS)
③超ヒット作は生まれるが、有名作と無名作の格差の拡大

出版業界では実際、スマッシュヒット(中規模ヒット)が減り、
大人気作品は売れることでより売れる好循環になる一方、
売れない作品は本当に売れないという格差が拡大しています。


今のオタクが悪くて、昔は良かったと言いたいのではありません。
しかし〈共有〉をアイデンティティにするオタクが増えると、まさに規模の経済がモノをいう資本主義のように、エンタメの寡占や非多様化になってしまうことがあるのでは、と私は憂いていました。

しかし、あの熱狂的で偏愛的なオタクのDNAは文学フリマに生き続けていた…!


まさに過去の遺産を目の当たりにした感動を受けました。
マニアックな研究所や考察をまとめた書籍、趣味全開のムック、
著者との密接な交流、そこでしかない出会いにお金をかけるオタクたち!!!

クリエイターの存在も大事ですが、彼らを育てるオタクという環境が文学に残っていること。
これが嬉しくない事があるでしょうか。

私はここに過去から受け継ぐべき遺産をみたのです。


希望と…

有料化ってどう思う?

と、感動したのもつかの間。
今年から東京会場は入場料を徴収するようになりました。

入場料1000円。

有料化については参加者、出店者それぞれの立場から賛否を呼んでいます。
noteでも是非について表明する記事も見受けられます。

先に申し上げると、
私は有料化には賛成という立場です。

ひとまず主催者側の言い分を聞いてみましょう

諸経費の増大や、近年の来場者数の増加への対応のため、
これまでのような入場無料の維持が文学フリマ東京では困難となってまいりました。わたしたちは、今後も安定して文学フリマ東京の開催を継続してまいりたいと考えています。そのため「文学フリマ東京38」より一般来場者のみなさまの入場を有料とする方針としました。

https://bunfree.net/event/tokyo38/#i-15

有料化の理由は、
1️⃣諸経費の増大
2️⃣来場者増加

ふたつを上げています。
たしかに昨今は金融情勢や国際情勢の影響を受けて物価が上昇しています。
むしろ今まで無料で参加できたのがスゴイくらいです。

来場者の増加。実際参加してみて通勤ラッシュの山手線ぐらいの混雑ぶりをみると、その対応も必要なことでしょう。駅前では交通整理の方もいらっしゃいましたしね。

どちらも真っ当な理由に思えます。

しかし、1️⃣諸経費の増大については、どの部分で予算を圧迫しているのかの説明不足です。何に足りていないのか、経費削減の対策は打ったのか。それらの説明なしに有料化されても、我々一般参加者からしてみればお金の使い道はブラックボックスです。すごく悪い言い方をすれば、裏金になります。

2️⃣来場者の増加については、主催者側の責任もあると思います。今年の出店は1800店、ブースは2000超。1年で400件増加したと公式も発表しています。
過度に増やしすぎではないか?
文学の土壌を育むために出店希望者の抽選・選考をするのはためらいたくなるとは思います。しかし、1年で400店の増加。前年比127%。
そうしたら参加者も大幅に増加するのは明らかなはずで、それに対応できないというのは、主催者側の管理の甘さとも言えるのではないでしょうか。

そのような点から私は

有料化に賛成だが、1000円の妥当性を公表してほしい


と思います。
自民党の政策活動費ばりに透明化しろとは言いませんから、どうして1000円の値段設定にしたのか、徴収金はどのように運用されているかを知る権利はあるとおもいます(少なくとも出店者には情報提供してほしいですね。文学フリマに詳しくないので実際の経緯も公表体制も知らないですけど)

お金を取る以上、次回の文学フリマはユーザビリティが向上していることを期待しています。


それでも文フリは希望だ!

ただ、やっぱり文学フリマには希望がある…!

なぜなら、

1️⃣前年比127%で出店者が増えているということそれ自体が、日本文学や同人活動、表現活動が活発になっているという証拠ですし、それは喜ぶべきことです。

2️⃣先に示した通り、いにしえのオタク文化が息づいている場所である

3️⃣若い人がめちゃくちゃ多い!
男女比の構成もバランスがよく、しかも参加者においては若い男女が大多数を占めている。しかも彼らは1000円の入場料を払ってでも文フリに来たい!と思っている熱烈で、お金も落としてくれる。そんな存在が増えているということ。

これらはなによりの希望だと思います。
こうした貴重な場が、今後も発展してくれるとよいな、と思います。

以上現場からでした。
最後に戦果報告として、私が購入した書籍の写真をどうぞ。


戦果報告。

ここでしか手に入らない、一回きりの出会いかもしれない書籍だと思うと、ついつい財布のヒモが緩んでほどけてすっからかん

・日記、エッセイが充実

・LGBT系の書籍も豊富でした

・趣味全開書籍はどれも最高に魅力的でした!
 (『女装文化の歴史』は強烈なテーマだけど一級資料ぽくて即購入)

・ミステリーを探していたんですけど、あまりなかったですね。

・文学というからお堅いモノばかりだと思っていたんですが、ラノベやBLもあって嬉しかったです。


ラノベです。ジャケ買いしました。もっとお金をもっていたら装丁が質素でも買いたかったのですが、何ぶん用意した現金がすくなかったのでイラストが購入基準のウェイトを占めました。それでも下記2作品は作者さんとお話したうえで、設定やあらすじが期待できたので購入。


こっちはミステリとか。明治頃はミステリと怪奇小説(ホラーとか不思議系)のジャンルの棲み分けがされてなくて、論争とかも起きてたんですよ。ということでミステリ、妖怪、すこし不思議系ということで4冊購入。
『マッチ売りの少女フレア』はビビッと直感で購入しました。作者さんにとっても挑戦作だったようです。読むのが楽しみです。

左は純文学。右は民俗学系小説。民俗学を題材にしてるのといえば『ホーンテッド・キャンパス』があるけど、そんな感じでしょうか。そういえばKADOKAWAホラーは今年、周年になりますね。
左は京大の斎藤ゆずか著。形が凝っていますね。バラ売りとセット売りがあって私は斎藤さんのだけ購入。セットで他著者さんの本も買うことで一冊の短編集になるという仕組みだそうで、京大は遊び心ありますね。
装丁といえば右書籍も口絵があるし、本体表紙の紙質にもこだわりぬいていました。装丁の個性を楽しむのもフリマですね。商業書籍は流通上の問題からあまり派手な装丁はできないですから…。


ふざけたようなテーマに見えますが、中をペラペラめくってみると大真面目な感じでした。資料あつめが細かそうで力作の予感です。男の娘文化との連続性などに示唆があることを期待して購入。


以上です。
気になった方はぜひ次の文学フリマ東京(ビッグサイト)に足を運んでみてください!
はじめて文学フリマに参加する方向けの記事も書いたので是非ご参考までに。


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