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流れるガンジス



バラナシの朝


ー肩の力が抜けて、目線は朝日に定まる。きれい。
ここでは何も考えずにいられるー

Ganga Liver, Valanasi, India


朝7:00、ホテルのドア前に7人が集まった。もう辺りはうっすら明るくなり始めていた。Rくんが先頭で歩き、早足でガンジス川へ向かう。
路地を歩くと、夜と朝は空気が全く違うように感じた。バラナシの朝は、少し澄んでいる。


ガートに続く道では、夜とは違う人の明るさがあった。沐浴に向かうであろう人たちがちらほらいる。相変わらず私は、サリーは綺麗だなぁと思っていた。


ガンジス川に着くと朝日はまだ見えていなかった。薄ら青とピンクが混じる空。写真を撮りながら、ボートを探すためにとりあえず上流へ歩く。

日の出前の薄ら青

太陽が昇る方角、不浄の地と言われている対岸の方を見ると、薄い灰とくすんだ淡い青が地上から滲んでいた。

不思議にも、太陽が昇るとき、対岸から少しずつ姿を見せるというより、地面から淡い灰と青を抜けた高さのところでいきなり丸い全体像を現した。
辺りの色を一気に黄色く染める。茶色い階段や配色豊かな布がオレンジを帯びる。太陽が昇るにつれて辺りの色が変わるのがわかって、清々しいような嬉しいような感じだった。身体が落ち着いて陽を受け入れている。

太陽は私の日常にあるものと変わらないはずなのに、バラナシの朝の太陽はいつもは届かないところまで歓迎されていたようだった。

朝日の橙色


バラナシの朝は、息がしやすい。
流れる空気が、あるがままの自分の背丈に合う分だけ注がれる。
そのままそこにいるだけで全てを包み込んで肯定してくれる。
そんな場所だと思った。

3年程前、誰かのnoteで「全てが嫌になったらガンジス川にくればいいのに」のようなことが書かれていたのを思い出す。


私は川に続く階段に立って、沐浴するインドの人たちを眺める。



頭の先まで川に沈めて出してを繰り返す人
汲んだ川の水を少しずつ垂らして唱える人
ボートのそばで浮かぶ人
友人と喋りながら水をかけあう人
まっすぐ太陽を見つめる人


どのひとも、ガンジス川と共に生きている。


私は階段に腰を下ろしてまだしばらく眺める。


朝のガンジス川のほとりは鈴や鐘の音が一定のリズムで響き渡っている。その音が人の活気を増すように感じられて雰囲気は明るい。

でも、流れる時間を司るのは、音や人ではなくガンジスの流れのようだった。
広大で、余計なものを削ぐ、ゆったりとした流れ。

Ganga Liver, Valanasi, India

逞しい兄ちゃん

太陽は昇りきったので、値段交渉をしてボートに乗った。
ボートに乗るとき、足元が揺れて川を感じる。紺のシャツを着た兄ちゃんが漕ぐボートが出る。

手先を川に入れてみた。ひんやりとはしないが温かくもない温度で流れている。これが、ガンジス川。
兄ちゃんは川沿いの壁画やガートについて説明してくれたり、どこからきたの?と話したりしながらオールを漕ぐ。

兄ちゃんに、やってみる?って言われた気がして適当に返事をしたらボートを漕がせてくれた。全然漕げなくて笑った。流れに押されてオールがまっすぐ引けない。バランスが悪くなってボートの向きが変わっていく…。ということで、1分も経たないうちに回収された。

オールをまっすぐ引く兄ちゃんの腕はシャツ越しでも逞しい。

逞しい兄ちゃん
コントロール不能
余裕の兄ちゃん
ムリムリな私

チャイの香り

そのうち、チャイを飲めるところがあると対岸に連れて行かれた。まさかの、岸まではボートをつけてくれず、歩けとのこと。強制沐浴だ。膝下まで川に浸かって岸まで歩いた。
入るつもりはなかったが迷っていたから、入らなければいけない状況になんだか嬉しさもあった。

ラクダに乗る友人を眺めた後、みんなでチャイを飲んだ。小さめなやかんの中でチャイがぐつぐつ煮られる。

待っている間、握手をしようと手を出してくる人(握手するとマッサージ料としてお金を要求される)や、マッサージ等さまざまな勧誘を受ける。
日本語につい反応してしまいがちな私に、Sくんは魔法の言葉を教えてくれた。「俺は"私はコリアン"って思って無視してる。」と。なるほどと思った。私はこの言葉にこの後の数日間、ずいぶん助けられることになる。「私はコリアン。ニホンゴワカリマセン…」歩くだけで頻繁に話しかけられるから動じない精神は大事だ。強くあれ、じぶん。

別の兄ちゃんはミニ土器を摘んで逆さにして台にコンと当てる。これを7回繰り返して、台の上にミニ土器が並べられた。このミニ土器にチャイがなみなみ注がれると一気にいい匂いがした。スパイスと、甘い香り。
 土器を持ってチャイを飲む。朝食を食べていない身体に、甘いチャイが染み渡る。
うますぎたぁ。祝、初チャイ!
Yくんにもらったクッキーと乾杯。

注がれるチャイ
完成チャイ!!
「五臓六腑に染み渡るぅ〜 :) 」
Dさんの決め台詞

SushiとBABA

チャイの後は、ホテルに戻って朝食を済ませて少し休んだ。そのあとはSくんについて行って服を買ったり話したりして、Sくんをお見送りした。

RくんYくんとは、お腹にいいと噂のココナッツオイルを飲んでからメイン通り散策。Dさんと合流してからはSushi Cafeという日本食レストランへ行った。
なんとDさんはインドに2週間以上いてインド料理を食べてないらしかった。白米とオレオで乗り切る生活をしていた。なんてこったと思ったけど、お腹を壊したくないのは共感だ。

それにしても、Sushi Cafeで出てくるのが本当にほぼ日本食で少しびっくり。インド料理に疲れたらおすすめかな。牛丼もありました。

普通に「牛」丼

その足でBABAラッシーというSくんおすすめのラッシー屋へ行った。BABAラッシーは、注文を受けてから目の前で何やら砕いたり混ぜたりしていたし冷蔵庫もあったから、安心。そしてものすごく美味しくて安い。

日本のラッシーは飲みものだけど、インドではスプーンで食べる方が主流らしかった。手のひらサイズの土器になみなみのラッシー。Rくんと半分にして食べたけど、それでも食後にはお腹いっぱい。

マンゴーバナナラッシー

大混雑リキシャー

日も暮れはじめた頃、Dさんが動画を撮るために人の少ないガートでプージャを見るというから、メインガートより上流にあるアッシー・ガートへ向かうことになった。

ゲストハウスのオーナー曰く、裏の一本道で行けるとのことで歩いて向かった。歩く道はだんだん人が増えていく。途中、徒歩だと遠いと気づいて自転車のリキシャーに乗った。流石にモーターの方がいいのではと思ったけど、声をかけてきた自転車リキシャーの男の人がいたからまぁいいかと乗った。男3人と女1人の計4人を乗せて、まぁまぁ混雑しているなかを一人で漕ぐという地味に心がいたむ状況。どうやったら進むのかわからない、けど、進むからすごい。ものすごくしんどそうな顔をしていたけど、まぁ声かけてきたのこの人なんだよなと思い考えないようにした。

ガートに近づくにつれて人が増えていく様子には「さすがインド」と言いたくなる。

坂道を登ったあたりで懐かしい記憶の匂いがした。ゴミ集積所の酸っぱい匂い。「臭い」という言葉に胸がいたみ、通り過ぎるだけの自分になんとも言えない感情を抱くのを認識する。その光景の一部を数秒見つめた。日常があるだけだ。

アッシー・ガート

屋台が増えてきたところで降ろされて、人の流れる方へ歩いた。見えたのはアッシー・ガートだ。ダーシャ・シュワメート・ガートの1/3ほどの大きさでこじんまりとしていた。人が少ないと思ったけど、ガート周辺は人で埋まっていて決して少なくはない。

Assi Ghat

ガートについたときに丁度、プージャが始まった。

いつの間にか一人になっていたから、高くなっている木植えのブロックに立ってみた。人が被らない位置を探して眺めると、昨日より近くて台の人の顔まで見える。

しっかりプージャを見たいなら、メインガートではなくてこちらが良い。


高いところから正面へ移動して、さらに熱のあるところに身を置いてみる。

人の声も拍手も、個としての一人ひとりを感じやすい。音と、人と、川と、熱のある空気、全部同時に浴びる時間がたまらなく好きだった。

手拍子と祈り
掌を掲げて声を出す

ガートについたらそれぞれ別行動だったからプージャが終わっても集まる気配はなくて、というか人が多くてわからないから、私も何も考えずに川へ歩いた。プージャが終わると、台の前に集っていた人たちは司祭と握手をするために並んだり、川へ向かったりしている。

私は川へ続く砂のうえを歩き、川から10数メートルの位置から棒立ちで眺めた。

大きく流れる川に、小さく消えそうな灯りがいくつも流されていく。

火を灯した花飾りを川へ流す人たちを眺めて、何を考えるわけでもなくぼうっとした。

例に倣って話しかけられた。川に流す花を売っている親子だった。
困っていたら違う人が何かを言ってくれた。その人にありがとうとだけ伝えて、スタスタ歩いてみんながいそうな場所に戻った。
ヒンディ語が喋れたら、もっと違う世界が見えるんだろうなと思った。言語が通じないことは楽なことでもある。

長い夜

合流してからそのままご飯を食べて宿に戻った。道の途中、急にイスラム風の建物に変わって雰囲気が変わったり、ほぼ人のいない暗い道を通ったりした。
この3人といるから楽しめた。やっぱり夜は怖すぎる。

疲れていたけどその夜は寝れなくて、2Fロビーのソファで横になっていた。朝が来るまで色々考えた、長い夜だった。



ソファで悶々とした記録
何に惹かれてここにきたんだろうも、何を求めているのかもよくわからない。でも、目的なんていらなくないか、そう思った。インドも出会いも楽しい、それだけに身を任せてみたくなった。

心の底から望むことだけをしてみたい。少しでも違和感を感じることは手放してみよう。自分のためだけに時間を使おう。そんな数日があってもいい気がしたし、そうしてみたくなっていた。


次の記事は、自分だけのために時間を使うと決めたあとの話。バラナシのマザーハウスのシスターと会います。
DさんYくんとの別れ、Rくんとインドで過ごした時間の話も。

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